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人格破綻者の集まり

「おや、澄空君?」
「あ、彩都くんだ!やっほー、元気?」

 胸部だけ異様にパツパツなスーツ姿は、これはこれでフェチズム的に可、漫画のキャラみたいで良いね、お前その人格でボタン縫えるの? などのお声を頂き、着用に至った。まさかこんなところでこんな格好で会うことになるとは思わなかったけど、羞恥心は私の脳には存在しないので問題はない。
 つまり、このような変な格好であっても遠い親戚との再会は悪くは無いもので、外で待っている先輩と職務を一旦放棄して、目の前の人物との会話に思考を巡らせた。

「まさかこんなところで会うなんてね、黎明君の家に何か用事……今は宅配の仕事をしているのかな?」
「え? うん、まぁ、そうかも? ギ、」

 ギャンブル。その五文字を口から吐き出すことは叶わず、外で待っていたはずの先輩に顔面を思い切り殴られかけたところをすんでのところで回避し、そうだった!とハッとした。

「え、大丈夫かい?」
「うん!全然へーき!この人そんな強くないし!」
「強い……?」
「あ、えーっとね、じゃんけんが!」
「あぁ、グーだから……?」

 やっぱり私には頭を使うことは向いていないらしい。帰り道先輩に怒られることはわかるけれど、彩都くんがギャンブラーではないことに考えは至らなかったのだから。
 まぁでもそう、当たり前か。頭を使うことに向いていなかったから、今この仕事をしてるんだもんね、と。自分が起こした大事件を思い出しながら、業務の手を進めた。



人格破綻者の集まり



 程度の低い(らしい)ギャンブルでまぁまぁ大きな負けをしながら、心の中でも現実でも唸りを上げた。

「そんなに一気に賭けるからだよ〜」
「わ、わかってたけど〜、でもさぁ〜!」

 喚く私を宥めながら、眉を八の字に曲げた彼女。その可愛いお顔を微笑みに寄せて小首を傾げる様は、立ち居振る舞いによく似合っている。
 眼前の女の子(名前はセレネというらしい)はとてもいい子で、私が破滅するのをそのまま見守っていれば良かったのに、律儀に『それ以上賭けると危ないよ』と忠告してくれていた。ただ私が、敵の言うことを聞くのが嫌だから言うことを聞かなかっただけ。だから、この女の子は悪くない。

「お金、無いの?」
「無い……」
「……貸そうか? 私、そう言うの好きよ? 対価なんていらないし、あなたはこの試合を無かったことにさえ出来る。ウィンウィンね、ウィンウィン」

 ただ、こういう、全てを見透かしたような目で、全てを掌の上に乗せたような口ぶりで、私を見るのは許せなかった。だってそれってなんかムカムカするし。私は試合に負けたけど、勝負には負けてない。負けたけど。


 でも、だから今、ここで暴れて、スッキリして終わろう。と思った。


 そういう短絡的なところは相変わらずだね、なんて腹の立つ白髪のカスが脳裏にチラついたけど、そんなものは闘争心に掻き消された。女の子は異変を察知して「あらあら」なんて笑っていた。笑っていられるのも今のうちだってことをよくよく心に刻みつけて欲しい、なんて思った気がする。
 人を殴るより物に当たった方が早いな、と思って、まず机をひっくり返した。そのあとはもう流れで、手当たり次第に暴れ回った……ところまでは覚えている。だってスッキリしたからね。
 女の子は動きのキレがよくて結局一回も殴れなかったけど、騒ぎを聞きつけて私を抑えるためにやってきた、多くの人との殴り合いは楽しかった。強い人も弱い人もいて、殺りがいがあった。久しぶりにあんな闘争をした。世界をかけて戦っていた時ですら乱戦というよりかは協力バトルで、ずっと物足りなくてウズウズしていたのだ。それがその時、ほんの少しだけ解消されたことに心から悦んだ。
 結局誰かが泣き言のように溢した『今って誰も呼べないんですかぁ!?』を耳にした私が『えっ!? もう終わり!?』と闘争心を萎えさせてしまい、そこを残っていた人間で抑え込まれ、ギャンブラー大暴れ事件は幕を閉じた。回想終わり。



「そう言えば澄空君……今話しかけて良いやつかな」
「いいよ、どしたの?」
「その、ご家族のことだけど……あの後大丈夫だったかなと思って」
「お母さんのこと? お葬式が面倒だったね、やるんじゃなかった!人間が死ぬと手続きが多いんだよね〜。もう家族はいいかな、ダルいからいらない!」

 『声がデカい』『ごめんなさ〜い』なんて先輩とのやりとりを眺めていた彩都くんは、私を穴が開くほど見つめて、そうしてその視線を緩めた。まさか胸に興味が? いやぁ、彩都くんはそんな浅い人間じゃないし。そんなことを思いながら叶さんにサインを貰って、先輩に報告する。次の仕事が残っているためすぐに出る必要があり、少しドタバタとしながら家主へ挨拶を済ませて部屋を出た。

「まぁ、君がいいならいいんだけれど……」

 そんな言葉を耳の端で捉えながらも、自分のことではなさそうなのでスルーする。部屋を出てマンションの外廊下から下階へと飛び降りることを繰り返し、国産のミニバンに颯爽と乗り込んだ。エンジンをかけて先輩が乗り込むまで待ち、乗り込んできた先輩に後頭部を叩かれた後に出発した。

「まだお前一人に任せられねぇわ。さっきの知り合い?」
「遠い親戚です。元気にしてて良かった」
「お前にも他人が元気にしていて良かったと思う感性があるんだな……」
「あ、失礼ですよそれ」

 結局あの後、私が暴れたことによる借金をすぐに返済できず、特別融資をすっ飛ばして地下オークション行きに。類稀らしい私の戦闘能力を見込んだ特別債権管理課に買われて今に至ると言う訳だ。ギャンブルに負けただけであそこまで暴れる人格破綻者を? と言う声もあったらしいけど、元々特別債権管理課は犯罪者の集まりだし、私の動機がアレだったから御せる……? とのことでお世話になっている。

「『暴れたかったから』で、銀行を潰す勢いで暴れた奴に感性が期待できる訳がないだろ」
「イライラしたんだからしょうがないじゃないですか!殺してないし。でも今はいいですね、イライラしたらいっぱい殴れるから!あーあ、たまには叛逆とか起きないかな〜!」

 家族は死んだ。幼馴染は死んだ。二人の姉弟も自分の家へ帰った。家が広くなった。邪魔なので家を潰した。それでもいいや。今、結構楽しいから!

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