【怪】

鰐の影が地面を泳いでいた。
人、一人呑み込めそうな程の大きさだ。
地面を悠々泳ぐ姿はどこまでも自由だった。恐らく、この鰐よりも強いモノはいないからだろう。丸々と太った姿がその証拠だ。
一体何を喰らったのだろうか。
問い掛ける者はいない。
唯一、鰐を見守っていた男がいた。だが、男は鰐がすることを『見る』だけだった。満足そうに、幸せそうに、男は見ていた。
そんな男の足元には八つの影が揺れている。異形の影だ。
鰐は男の呼び掛けに答えるように咆哮を一つ。
そしてとぷん、と深く、男の影に潜っていった。