魔術師の恋



 買い物からナマエが戻っていないという話を聞いたパーシヴァルはグランたちの制止も聞かずに集合場所から飛び出していた。
 彼女のことだからどこかで何かトラブルに巻き込まれにいっている可能性がある。彼女の手に負えないくらいのことが起きているかもしれない。そう考えるとパーシヴァルは居ても立っても居られなかった。
 彼女が買い物をしていたという店の主人から詳しい足取りを聞き、その道を辿っていく。何か危機に瀕していなければいいが、という一抹の不安を抱えながら街中を探していくと、路地裏から何やら声が聞こえる。


「…ナマエ?」
「あ、パーシヴァル、」
「何をしている。皆が心配しているぞ」
「柄の悪い男たちがいて、それでこの人が怪我をしちゃってて」


 ナマエは医療魔術の手を止めると、あちこちを怪我している男が小さく唸った。
 辺りをよく見れば何人かの男が伸びている。おそらく彼女が彼を助ける際に制裁をした輩だろう。パーシヴァルは事態は収束していることを察し、小さく安堵の息をつくと街中へと戻り警備兵を呼びに行った。



***


「ごめんなさい、心配かけました」
「…無事だったならば問題ない。集合場所に戻るぞ」


 手当てをした男性を見送り、警備兵に犯人たちを引き渡すと、パーシヴァルは改めてナマエに声をかけた。
 少しだけ気を落としたナマエをこれ以上責めるのも思い、それ以上を言うことはない。ふとよく見ればかすり傷であったが、彼女はあちこちを怪我しているようだった。


「おい」
「ん?」
「頬、それから腕に傷がある。少し待っていろ」


 ちょうど自分自身が買いに行ったものが医療系の備品だったのが幸いだった。消毒液を軽くコットンに漬けて拭ってやる。少し染みたのか顔をしかめるナマエだが、パーシヴァルの手当に大人しく従っていた。


「無茶をあまりするな。こういった時は言伝を頼むなどしてもいいから俺たちを呼ぶようにしろ」
「ん…」
「人助けをして自分が危機に瀕するのは意味がな…おい、大丈夫か」
「へ?」
「どこか、痛むのか」


 手当をしていたパーシヴァルの手が思わず止まり、顔が驚きに変わる。ナマエは首を傾げるが、自分の涙腺が緩み、涙がぽろぽろと流れていることに気づくのには少し時間がかかった。頬に熱いものが伝い、何かと思い頬を触り自分が初めて涙を流していることがわかる。


「あ、ええと。なんだろう…どこも痛くはないんです」
「では何故、」
「パーシヴァルが、私のことを探しに来てくれたのが嬉しくて」


 ずっと避けられていたのがわかっていたからこそ、彼が駆けつけてくれたのが純粋にうれしかった。彼はきっと自分がいないとわかったらすぐに足を走らせてくれたのだろう。そう思うとたまらなくうれしかったのだった。


「パーシヴァル、ずっとわたしのこと避けてたから嫌いになっちゃったのかなって」
「…そんなわけないだろう」
「思わせぶり、とか訳わかんないし。私はそんなことしたことないし。むしろ思ってるまま伝えてるのに。誰かに好かれるために駆け引きをするなんてそんな器用なこと、できないです。パーシヴァルにだから、言ったりしてるのに」


 思っていたことがぼろぼろと言葉として出た。
 ジークフリートが言っていたように、想っていることを隠すことなく伝える。伝わるかなんてよくわからないが、パーシヴァルは自分よりも察しがいいし、頭が切れる男だ。きっと何がいいたいかくらいは汲み取ってくれるはずだ。今までだってそうだったように。
 ナマエが気持ちを吐露していくと、パーシヴァルは反論することなく一つ一つの言葉を丁寧に受け取っていた。出会った時と同じで彼女は懸命に言葉をぶつけてくる。そんな姿がたまらなく愛おしく感じる。


「私は、パーシヴァルのことが、好き」


 泣きじゃくりながら想いを伝える彼女を、抱きしめないはずがなかった。