実際のところ、どうなの
1年B組、虎堂視蹴。自分が受け持っているクラスではない場に在籍する彼女と、ここまで親しくなる予定は欠片程も無かった。
雄英の入試を突破して来る程度の知性はある筈、にも関わらず彼女の言動は幼子のそれと大差がない。
ノックもしなければ敬語も使えない、著しく社会性の低い彼女は今まで一体どうやって過ごしてきたのだろうか。
気にならない訳でもないがそこまで踏み込む間柄でもない。そこに関しては彼女の担任がどうにかするべき事であろう。問題は、そこではなく──
「──で?実際のとこどうなの?相澤くん」
「……何のことでしょう」
「何って貴方が目を掛けてる可愛い虎ちゃんの事よ」
流石に生徒に過度に不必要に触れるのは不味いだろうと、初めは屋外の、あまり人目に付かない辺りで会っていたのだ。それも、個性を発動した状態で。
自分の背丈を有に越す、その巨体を誇る虎であったとしても所属はネコ科。彼女自身は猫だと形容されるのを著しく嫌っている所があり、故に口に出す事はしないが、撫でられている時の様子は猫と大差がない。
……ので、つい撫でてしまっている。
個性を発動していない状態でも撫でられるのは好きらしい彼女は、よく強請ってくる様になったのは少し前だ。個性を使っていないから撫でない、等という事は流石に言えず、同じ様に撫でれば味を占められてしまった。最近では職員室にも得意気に来るものだから、少々立場上宜しくない。言って聞かせて聞くのだろうかと疑問に思うものの、教師が生徒を撫で回す図は早めにどうにかしたい。
「──ただの、教師と生徒ですよ」
そういった所で目の前の人は納得してくれないのだろう。実際の所、俺が彼女へ向けているのはペットに対するそれに近いものであるし、彼女も彼女で”撫で方が”好きで煩くないから近くに居るのだろう。
人よりも五感が優れている為か、騒音や強い匂いを嫌っていたはず。マイクや爆豪など個性の特性上大きな音を立てる相手は模擬戦でも苦手としていたし、ミッドナイト先生の眠り香は人一倍効いていた覚えがある。
だから本当に自分達の間には疚しい事等の何もないのだ。
「それなら。餌付けで躾、してみたら?」
目の前の彼女が言うとどうにも疚しい意味で聞こえてしまいそうな所はある。が、案としては存外悪くないかもしれない。
「……考えてみます」
デスクの隅に置かれている、小さなカルパスへ視線を向ける。こんなモノで釣られるのかは分からないが、この儘職員室で触れ合って居るのはお互いに良くないのだ。
であれば、挑戦するのは悪くない事だろう、と思う。