譲るよ


ドラコ


またあの退屈で何の楽しみも生まれない学校に行くなんて、ドラコは憂鬱な気持ちで窓の外を眺めていた。

窓から視線を逸らし自分の向かいを見れば、図体だけよく育ったまぬけどもがお菓子の取り合いをしている光景が広がっている。こうしてドラコのホグワーツでの1年がまた始まるのだ。
何回目かのため息の後、ふと違和感を感じドラコは通路に目を向けた。

「あの、ここに座らせてもらえないかしら?」

ドアが開けっぱなしだった為、気づくのが遅れたが、ホグワーツではまだ見かけない女の子が立っていた。声かけてすぐに俯いたから顔はよく見てなかったがアジア人のように見えた。

こいつ、僕をドラコ・マルフォイだと知って声をかけてるのか?
ドラコは自分がいるコンパートメントに気安く声をかけて座ろうとしてくる輩が嫌いだった。
この少女の前にも、数人が声をかけようとしてきたが、大体のやつは空きの席を探していてもドラコの顔を見ると何も言わずに気まずそうに去っていったから、こうして声をかけられることはほとんどないのだが、憂鬱な気分だったからか余計にドラコは腹が立った。

何だこいつという思いがあり、ドラコは紳士らしからず、少女をジロジロと観察した。
身長や体格はドラコとそう変わらず同い年くらいに見えるが、ローブはまだ新品のようで、折り目がきれいについていた。
少女はドラコがジロジロとみるからか気まずそうに俯いており表情はあまりわからない。ただ手が震えているのがわかり、かなり緊張しているか怖がっているのが感じられた。

見たこともないし様子を見る限り新入生だ、僕のことを知らずに声をかけるなんてどうせマグル生まれか。ドラコは心の中で舌打ちをした。

「何だお前。僕のことを知ってて声かけたのか?」

機嫌が悪いこともあり早速ドラコは嫌味な返答をした。そうしたらどうせ他のやつと同じように逃げていくだろうと思ったのだ。
案の定、少女はそんな風に言われると思っていなかったのか勢いよく顔をあげ、まんまるに目を見開いてドラコの顔を見つめ返した。
思い通りの展開だったが、驚いたのはドラコも同じだった。

「えっ!あっ、ごめんなさい!もしかして声をかけてはいけないルールとか何かあったのかしら。私、こっちにきて間もないから作法とか何もわかってなくて、失礼をしてしまったならごめんなさい!」

少女の丸くて大きな瞳は真っ黒でツヤツヤと輝いている。ドラコは初めて少女と視線が合い、その瞳の黒曜石のような輝きに目を奪われたのだ。

「他を探します!失礼しましたっ!」


「…いや、おい!」

そうして慌ててバタバタと少女はコンパートメントを出て行き、ドラコは思わず声をかけてしまったが、構わず少女は去っていった。

「…なんだあいつ」

「さあ」

目の前の子分はさもどうでも良さそうにドラコをちらっと見た後、また新しいお菓子の袋を開け出した。
一瞬の出来事だったが、ドラコには今まで感じたことのない感覚があったことが不思議で仕方なかった。しばらくぼーと通路の方を見つめ、先ほどの出来事を思い返す。新入生ならよくあることだ、特にマグル生まれなら。そう思ったもののあの真っ黒の瞳が忘れられない。

しばらくぼーっと少女がいた場所を見つめながら、もう一度みてみたい、ドラコがそう思ったとき、そろりそろりと先ほどの少女が再びドラコの前に姿を現した。

「何回もごめんなさい。本当に席が空いてなくて…絶対に邪魔しないから座らせてもらえないかしら…?」

真っ黒の瞳は不安げに揺れ、半泣きの状態だった。あちこち探しに行ったのか、ローブの左肩はずり落ちている。
これまで憂鬱な気分で腹も立っていたのに、その情けない姿を見たら、こんな弱い生物相手にイライラすることがバカらしくなってきたドラコは、大きなため息をついて少女をコンパートメントに入れることを許可したのだった。

「本当にありがとうございます!!」

「はぁ。静かにしろよ」

なんだかジロジロ見られるのが恥ずかしくなって窓の外を見たが、彼女がとなりに座ってきたときにハーブのようなさっぱりした匂いが鼻をくすぐってドラコは余計に何か気恥ずかしい気持ちになった。

「あの、私本当にこっちのこと何も知らなくて、あなたはもしかして貴族の方でしょうか?」

「は?」

「あ、いやいきなりすみません!物語に出てくる王子様みたいにきれいな方だったので、気軽に話しかけちゃダメだったのかなと思って」

「は?王子様?…おい、何笑ってるだお前たち!」

そんなこと言いながら気軽に話しかけてきてるだろと思ったところで目の前の2人がくすくす笑ったのをドラコは見逃さなかった。

「おいマグル生まれ!これ以上余計なこと話したらタダじゃおかないからな!」

さっきまでの不思議な感覚は全て気のせい。こんなやつ座らせなければよかった、マグル生まれな上にどこぞの知らないアジア人に碌な奴はいない。
ここまで強くいったら今度こそ出ていくだろうと思ったが、彼女は思ったよりピンと来ない顔をしたのでドラコは拍子抜けした。

「マグル…?お父様から聞いたような…。あ、非魔法族のことでしょうか?」

「マグル生まれはマグルの意味も知らないのか?」

「あ、いやすみません!…でも、もしそうなら私の両親は魔法使いで、代々そうゆう家系出身です、一応…」

「じゃあ何でそんな何も知らないんだよ」

「ホグワーツに通う為に数ヶ月前に日本から引っ越してきたばかりなんです、まだこっちのこと勉強できてなくて、すみません…」

ちょっと前まで引っ込んでいた涙がみるみる溜まっていき、少女の瞳はゆらゆらと不安げに揺れ出した。そうなると年下の女の子をドラコがいじめてるみたいでそれは何だか紳士らしくない。

マグル生まれじゃないならまあいいか、王子様だなんて馬鹿にされたと思ったがそうゆうわけでもなさそうだし、違う国からきてるから雰囲気や言動に違和感があるのか、ドラコは無理やり自分を納得させ、鼻を鳴らした。

「…僕はドラコ・マルフォイ。純血の一族で僕の名前を知らないやつはいない」

「あ、そうなんですね!何も知らなくてすみません…」

「こっちはクラッブ、ゴイル」

それまでは一言も発さず二人の動向を伺っていた身体の大きな二人は、ドラコに紹介され少女をじっとみた後、何事もなかったようにまたお菓子に夢中になった。

あ、そうか今名前を教えてくれてるのか、少女は何とかこの場を乗り切れたことにようやく安堵した。

「私は#name1#・#name2#。よろしくお願いします」

「ああ」



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