分かりっこないよ、そんなの!(ウォロ)
*学パロ
▽▼▽
「わたしね、ウォロのことが大好きだよ!」
周りの大人からすれば、微笑ましいの一言で終わってしまうような言葉も、当時の私には一世一代の大切なもの。だから、間髪を入れずに返ってきた幼馴染の言葉に私は酷く傷ついたのだ。
それから十数年。
幼馴染は相変わらず澄ました顔で私の隣にいるし、私はそれを受け入れている。でも、でも、そろそろ私達も離れる時だと思うんだ。
「……それで恋がしたいって?」
「そう!」
学校終わりに寄ったファーストフード店で、ポテトを噛りながら私の淡い思い出を聞いてくれたカイちゃんは、口に入れたポテトを飲み込むと小さなため息をついた。
「別に無理やり恋しなくても良い気がするけどなぁ」
「でもウォロと離れる口実作るにはそれくらいしか…!」
「ウォロは離れたくないかもよ?」
「それはない」
「そうかなぁ……。普通幼馴染とはいえ同じ高校にならないでしょ」
「それはカイちゃんとセキくんもでしょ!」
カイちゃんはこの春入学した高校で仲良くなったお友達だ。カイちゃんにはセキくんという幼馴染がいて、私とウォロみたいに幼稚園の頃からずっと一緒らしい。でも、二人の距離感は傍から見てる限り、付かず離れず、適切な距離というか、お互いなんだかんだ言いつつ相手のこと認めてるんだな。と思わせるような感じで、付き合っているとかそういう感じではないけど、仲がいいのが伝わってくるというか。
私とウォロとは、大違い。
私の両親は昔から心配性で、ウォロが私と同じ学校に通っているのを良いことに、ウォロに登下校は私と一緒に帰るようにお願いしている。ウォロはウォロで、そんなお願い無視してもいいのに、毎朝律儀に迎えに来て、帰りも下駄箱の前で私のことを待っている。ここまで聞けばとても優しい人だ。一人で帰りたい日もあるだろうに、私と一緒に帰らなかった日は風邪を引いたとかそういう事情を除いては一度もない。
しかし、登下校中ずっと無言なのは、こちらが耐えられない。私以外の人と話す時はニコニコとした表情で、ベラベラとずっと喋っているウォロが、私と二人になった途端、憑き物が落ちたような顔になり何も喋らず黙っている。
彼が何を考えているのか分からない。
私のことが嫌なら嫌と言えばいいのにそれをしない彼も気味が悪い。
何が一番嫌って、こんな状態でもウォロが好きな自分自身だ。
「ふぅん」
私の話を聞いているのかいないのか、適当な相槌を打ちながら、カイちゃんはスマホの画面に指を走らせている。
「セキたち、そろそろ来るって」
「あ、委員会終わったんだね」
カイちゃんと私がファーストフード店に居たのは、委員会の話し合いだかなんとかで放課後残らなきゃいけなかったセキくんとウォロを待つためだ。
カイちゃんとセキくんは別に普段一緒に帰ってないけど、今日はこの後町内会の集まりに行かないといけないらしく、二人で一緒に行くことにしたんだとか。町内会に学生が行くなんて私の感覚だと珍しいというか大変だなぁと思ってしまうけれど、二人にとってそれは珍しくもなんともないというから驚きだ。
「あ、来た」
カイちゃんが窓の外を見ながら呟いた。
カイちゃんの視線を追えば、目立つ青髪と金髪の男の子が二人こっちに向かっている。
……セキくんと一緒でもウォロはニコニコとして、ずっと喋ってるんだ…。窓の外にいて何を話しているのかまでは分からないけど、ウォロの口がずっと動いてるのは見える。
何喋ってるんだろ。
二人をカイちゃんと一緒にじっと見ていたら、彼らも私達に気がついたらしい。セキくんは片手を上げて、ウォロはぷいと顔を背け………ってそんなあからさまにしなくてもいいのに。目線を二人から外して、机の上にまだ残っているポテトを見る。二人が来たし早く食べちゃわないと。
ポテトを掴んで口に入れようとしたところで、誰かに手首を掴まれた。
「うわっ!」
強い力ではなかったけど手首を掴まれて驚かない人なんていない。慌てて顔を上げると、いつの間に店内に入っていたのか、セキくんが立っていた。
「よ、なまえ」
「せ、セキくん。お疲れ様。あの、この手は……?」
「いや、美味そうなもの食べてるなと思って」
「……? えっ!?」
セキくんは、私の手首を掴んだまま私が掴んでいたポテトを口の中に。いやいや普通に新しいの頼んできてよ!?
突然のことに驚きすぎて、何も言えない間に、セキくんは私の手からポテトを全部平らげて、挙げ句の果てに指までぺろりと舐めた。………ちょっと!?
「ごちそーさん」
やっと手を離してくれたセキくんは、そう言ってニヤと笑う。お腹空いてるなら自分で頼んでください……。
助けを求めるようにカイちゃんの方を向くけど、彼女は彼女でニヤニヤと笑っている。笑ってないで助けてよ…。
まぁ食べられたものは仕方がない。丁度ポテトも無くなったし、手を洗って帰ろうと思って立ち上がろうとすると、今度は両肩に重みが。………立てない。
「……セキさん、アナタ何してるんですか」
後ろにいるせいで見えないけど、私の肩を抑えているのはウォロのようだ。私越しにセキくんに話しかけているみたいなんだけど、肩が痛いしやめてほしい。
「何って、なまえと仲良くなりたくてな。なぁなまえ?」
「え?ここで私?いや、仲良くなるなら他にもっと方法あるじゃないですか」
「は?」
「……え?」
セキくんの謎発言に答えていたら、後ろから低い声が返ってきた。え?何?
後ろを向くと、いつもとは比べ物にならないくらい無表情で、怖い顔をしたウォロがじろりとこちらを見つめていた。
え?なんで怒ってるの?
疑問は口から出ていたようで、ウォロは呆れたようにため息をつくと、私の肩から手をずらし、さっきセキくんが掴んでいた手首をつかむ。そして、そのまま私の腕を引っ張って立ち上がせると、私を引っ張ったまま店を出ていってしまった。え!?まって、手洗いたいのに!
そんなこと言える雰囲気でもなく、泣く泣く私は店内に目をやってカイちゃんとセキくんに空いている手を振った。
二人には明日謝っておこう………。
「なまえって鈍感なのか?」
「そうなんじゃない?」
店内に残された二人がこんなことを話しているなんて、私は全く知らなかった。
▽▼
「ねぇ!ちょっと、ウォロってば!」
店を出てからずっとウォロは黙ったまま。
私の手首も掴んだまま、ずんずんと帰り道を歩いていく。
こういう時、家が隣ってのが辛い。
あと横断歩道を一つ曲がれば私達の家が見えてくるか、というところで、ウォロは足を止めた。後ろにいる私の方に顔を向けるわけでもなく、身体を前にしたまま、小さな声で話しかけてきた。
「……アナタ、セキさんとどういう関係で?」
「関係……?」
漸く口を開いたかと思えばそんな話。
関係と言われても友達以外に何かある……?
友達と言葉にするのも無粋な気がして、他に言葉がないか探しているとウォロが更に質問を重ねる。
「言えないような関係ってことで……?」
「は!? 違う違う!友達、友達だよ!」
「……付き合ってるとかでも…?」
「ないない! 何言ってるの!?」
なんでそんなこと思うの?
セキくんと私が…だなんて、セキくんに失礼だ。
「……指からポテトまで食べておいて?」
「あれはセキくんが勝手にやったことでしょ! お腹空いてるなら自分の分買えばいいのに!」
数分前の苛立ちを思い出して、私がウォロに憤慨すると、ウォロは小さくため息をついた。え、なんでウォロがため息をつくの?
「……当てつけってことか、クソ」
「はぁ?」
「なまえのこと、鈍感だと思ってはいましたがここまでとは思いませんでした」
「もう私帰って良い?」
なんでここまで罵られなきゃいけないんだ。
手首も解放されたし、走ればウォロを振り払って帰れる距離だ。
いくら好きな人だからって意味が分からない理由で機嫌が悪くなられる理由はない。
「じゃ、また明、「まって」
ウォロの手を振り払って帰ろうとする私の手を再び繋いだのはウォロに他ならない。
「何?もう帰りたいんだけど」
「……ワタクシに言うことありませんか?」
「言うこと?」
俯きがてらに言われたせいで、ウォロの顔は私からよく見えない。
言うことも何も今さっき、また明日と言いかけたところだ。
分からないので、首を横に振って意志を伝えると、
ウォロはとても小さな声で「……アナタが言ったんですよ。ワタクシのことが好きだって」と呟いた。
………え?
「そ、そうだけど、だってあの時……」
「わたしね、ウォロのことが大好きだよ!」
「ふーん、それで?」
ウォロは幼少期の私の告白に「それで?」と返したんだ。
それで?って何?
未だに意味わかんない回答だけど、当時の私はそれをウォロなりの拒絶と判断して、それ以降彼に好意を伝えるのをやめたのだ。
そのことを言えば、ウォロは私の腕を離しその場に蹲った。
え、何?
「……それで、っていうのは」
さっきよりも小さな声、聞き逃さないように私はぎゅっと口を閉じて頷いた。
「好きだって言うなら他に言うことあるでしょうって話で……」
「ほか?」
ウォロにならって私の声も自然と小さくなる。
「その他の言葉を聞くのをずっと待ってて……」
「……もしかして私と一緒の時難しい顔ばかりしてたのって」
「何時なまえが言ってくれるか分かりませんから…ずっと黙って待ってました」
「な、なにそれ!」
ウォロの話はいつも訳わかんないけど今日は別段分からない。
告白したらそれで終わりじゃないの?
「……あー、もう!」
「え、きゃっ」
ウォロは急に大きな声を出すと、立ち上がって私をぎゅっと抱きしめ……、抱きしめた!?まって、まって!背中に回された腕が思ってたより逞しいことが服越しにでも伝わってきて、ドキドキする!
ウォロの口元が耳に近い。彼の綺麗な髪が耳たぶに触れる。ほんとに何!?
「……なまえが言わないから仕方なくワタクシが言うんですからね」
ウォロの声がダイレクトに耳から脳へ伝わる。
「なまえが好きです。ワタクシと付き合ってくれませんか」
ウォロが十数年待ってた言葉の意味にやっと気が付いた私は、「はい」と答えるしかなかった。
「もう他の男に手なんて握らせたらダメですからね」
「は、はい」
無事付き合うことになった私たちだけど、なんだかこれまでよりウォロの目が怖いような……?
気のせいかな。