*not旅人
*旅人=蛍



 蛍とパイモンは受注していた依頼の完了報告をするため、スメールの冒険者協会へ訪れていた。
今回の依頼は、魔物の群れを倒してほしい。というよくある依頼だったため、事前に報告されていた以上の被害を出すこともなく、片付ける事ができた。
 キャサリンへの報告を終え、規定の報酬を得た二人は、どこかで食事をしようと意見が一致。今居る場所から一番近いのは「ランバド酒場」だが、「プスパカフェ」も捨てがたい。どうしようかと話していると、ふと一人の女性が視界に入った。スメールでは珍しい稲妻風の服を着た女性だ。彼女はきょろきょろとあちこちに視線を走らせている。
「ねぇ、パイモン」
 蛍がパイモンへ声をかける。パイモンも蛍と同じ女性へ目を向けていた。・・・・・・きっと考えていることは同じだ。
「うん。何か困ってるみたいだし、声をかけてみようぜ!」
 さすがというべきか。蛍が言いたかったことをパイモンはくみ取って提案した。蛍はパイモンの言葉に頷くと、未だ困った様子の女性へ近づいた。

「あの」
「は、はい! えっと、怪しい者では! どうかマハマトラへの通報は勘弁を!」
 蛍が声をかけると、女性はびくりと肩を震えさせ、蛍の顔を見ること無くぺこぺこと頭を下げ始めた。
「ま、まってくれ! おいらたち、困ってるみたいだったから声をかけたんだ!」
 女性の挙動に驚き、固まった蛍を助けるように、パイモンが女性へ話かける。パイモンの声に気がついたのか、女性は頭を下げることをやめ、恐る恐るといった様子で二人の方へ顔をあげた。
「・・・・・・え?」
 どうやら本気で通報されると思い込んでいたようで、今度は女性が固まってしまった。そんな彼女の誤解を解くべく、二人は自分たちが冒険者協会所属なこと、稲妻風の服をここで見かけるのは珍しかったので目に入ったこと、困っている雰囲気だったので話しかけたことを順をおって丁寧に説明した。最初は半信半疑の目を向けていた彼女だったが、暫く話を聞いているうちに、二人の言葉に嘘は無いと判断したらしく「よかった〜」と胸をなで下ろした。
「蛍さんにパイモンさん。私はなまえと申します。えっと、失礼な態度をとってしまい・・・・・・」
「気にしないで」
「どうして通報されると思ったんだ?」
 パイモンの質問に、なまえは恥ずかしげに頬をかいた。
「えっと・・・・・・、その困ってるように見えた理由にもなるのですが、私はスメールシティで働いている弟を探しているんです・・・・・」
「・・・・・・?」
 話がよく分からない、とパイモンが首をかしげると、なまえは言葉を続けた。
なまえの話をまとめるとこうだ。

 なまえと弟は元々スメール出身で、彼女も数年前までスメールに住んでいた。
 なまえは自分の興味と趣味の都合で稲妻に現在在住。
 鎖国が解除され、母国へ帰ることが可能となったので、久しぶりにスメールへ戻ってきた。
 弟へは予め帰ることを手紙で知らせていたが、弟の現住所も分からず会えていない。

「ん? ちょっとまてよ。その弟の家も知らないのにどうやって手紙を出したんだ?」
 彼女の話に、うんうんと頷きながら聞いていたパイモンが口を挟む。そんなパイモンに、「あぁそれなら」と彼女はなんてことはないように言った。
「弟の職場は分かっていますから、そこへ出したんです」
「なるほど。職場には行ったのか?」
「えぇ、行ってみたんですけど、私その、稲妻の格好をしているでしょう? 弟に会わせてほしいと頼んでも、信じてもらえなくて・・・・・・。これ以上騒ぐならマハマトラの前に差し出すぞ。って追い出されたんです」
 彼女の話を聞き終えた二人は、だからさっきマハマトラへ通報はしないでくれ。と言っていたのか。と納得する。

「弟さん探し、手伝うよ」
「おう! 嘘ついてるようには見えないもんな!」
 蛍とパイモンの言葉に、彼女は目を輝かせた。
「本当ですか! ありがとうございます・・・! そうだ、お二人ともおなか空いてないですか? 近くにおすすめのお店があるんでごちそうさせてください」
「ご馳走〜!?」
 ちょうどご飯を食べに行く前だったからか、今度はパイモンの瞳が輝いた。馳走になるのは解決してからでいい、と蛍は言ったが、「私もおなか空いたので、ついでです!」と押されてしまい、会ったばかりのなまえにご飯をご馳走になることに決まった。
「えっと、プスパカフェって場所なんですけど」
「知ってるぞ! すっごくパティサラプリンがおいしいよな!」
「そうなんです! あ、場所が分かるなら先に行ってもらえますか。私キャサリンさんのところへ行って、弟捜しを正式に貴方たちへ依頼してきますから」
「え、もしかして弟探しってそんなオオゴトなのか?」
「いえ、ただ入れ違いになってるであろう弟を探してもらうだけです。でも、きちんと手順を踏んで依頼をした方が貴方たちも安心でしょうし、実績になりますよね」
「それは・・・・・・そうかも?」
 協会を通していない依頼を突発的に受けることも多い二人は、そこまでしなくても、と言ったが、彼女は納得しないようで「では行ってきます!」と冒険者協会の方へ行ってしまった。
「きっちりした奴なんだな〜」
「とりあえず、先にに行って、席をとっておこうか」
「おう! そうしようぜ」

 プスパカフェへ着くと、店はお昼を過ぎているにもかかわらず、人で賑わっていた。三人が座れそうな空いている席はなさそうだ。
「うーん、これは待つか、別のところに行った方がいいかもな」
 パイモンが顎に手を添えて、むむむ・・・と悩むポーズをしていると、聞き覚えのある声が二人を呼び止めた。「旅人にパイモン。こんなところでどうしたんだ」
 その人物は、書記官として教令院に所属するアルハイゼン。彼は四人席のテーブルに一人で座り、本を読んでいた。
「それはおいらたちの台詞だぞ。おまえ、今忙しいんじゃないのか?」
 パイモンの言葉は、賢者が決まるまでの間とはいえ、代理賢者として通常業務の他に仕事を抱えているであろうアルハイゼンへ気を遣ってのものであったが、アルハイゼンは気にする様子もなく首を横に振った。
「俺だって、昼食くらいは摂る」
「それはそうだろうけど・・・・・・、あ、よかったら一緒に座ってもいいか? 後で一人来るんだけど」
「構わない。店が空いていたら断っていたが、この混みようだ。相席した方が店の利にもなるだろう」
「やった! ありがとな!」
 蛍とパイモンが空いていた席に座ったことを確認したアルハイゼンは、再び視線を本へ戻した。
「蛍、どうする? なまえが来るまで注文待つか?」
「うーん、そろそろ来ると思うし待ってもいいんじゃないかな」
「なまえ?」
 二人が話していると、アルハイゼンがなまえの名前に反応した。本を読むことに集中していると思っていた二人は驚いて、アルハイゼンへ聞き返す。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も彼女は「二人ともお待たせ〜! 席とってくれてありがとね。あ、他の人と同席だったのね、すみません、私もご一緒して・・・・・・」 ・・・・・・」
 そこへなまえがやってきた。笑顔で二人の元へやってきた彼女だったが、アルハイゼンに気づくと、凍結反応でも起きたかのように凍り付いた。アルハイゼンもなぜか同じように固まっている。

「・・・・・・姉さん?」
「アルくん?」

 見つめ合って暫く、漸く二人がつぶやいた単語に、蛍とパイモンは「えぇ〜!?」と声を上げた。店にいる他の客から変な目で見られたがそんなこと気にしている場合ではない。

「なまえが探してる弟って、アルハイゼンのことだったのか!?」
「私が居ない間に弟を探してきてくれたんですか!」
「待て、姉さんが俺を探してた? 俺が姉さんを探していたんだが」
「情報が多い……!」
 蛍は小さな声でそう言うと、一度その場から離れるために、料理を注文しに行った。

 まさか、たまたま出会った人がアルハイゼンのお姉さんだったなんて!