所属していた組織が解散して数か月がたった。残った一部の人たちは同名義の団で活動を続けているようだが、そんな気も起きず、私は日雇いのバイトで日々食いつないでいた。
「どうしたもんかな」
 ベッドに寝転び、横にいるブニャットの背中を撫でながら、求人広告のチラシを吟味する。生きる為にお金は必要だが、自分の趣味も考慮すると定職について毎日同じ時間に出社して……といった生活は性に合わない。だからこそ、日雇いのバイトをしているのだが、一度仕事がなくなるとまた探さなければいけないのが難点だ。
「まぁ、今日急いで探さなくていいかぁ」
 先日短期バイトを終えたばかりで少しは懐に余裕がある。広げた求人広告はテキトウに片づけて、枕に顔を預ける。そして、ぶにゃむにゃと寝ぼけた声で鳴きながらお昼寝をするブニャットの眠気に誘われて、そのまま眠ってしまった。



 目が覚めたら見知らぬ天井だった。どういう状況?
拉致監禁?不穏な言葉が頭を過るが、私にそんなことをする価値はないはずだ。
とりあえず状況を確認しようと起き上がった途端、私の周りに置かれていたパーテーションの隙間から女性が顔を覗かせた。
「あら、起きたの?身体は大丈夫?」
「え……、はい」
 見た目は看護婦のようだが、油断はできない。うっかり彼女の質問に答えてしまったが、これから何をされるか……。
「あなたったら、浜辺に倒れていたのよ? どうしてあんな所に居たのか記憶はある?多分空の裂け目から落ちてきたんでしょうけど」
「浜辺……?裂け目?」
 誘拐ではなく、私は保護されたらしい。しかし、浜辺?裂け目から落ちたって何?
私は家でブニャットと寝ていた……
「ブニャットは!?」
「あぁ、やっぱりこのポケモンあなたのなのね。人になれているし、野生にしてはおかしいなと思っていたのよ」
 あなたから離れないしね。
そう言って彼女は、私が寝転んでいるベッドの足元を指さした。指先にはブニャットがじぃっと私の方を見つめていた。
「ブニャットが貴方を引っ張ってムラまで運んでくれたのよ。気を失っていたようだから医務室で休んでもらっていたの」
「医務室……」
 辺りを見渡すと、なるほど確かに、医務室なことには間違いないらしい。……それにしては設備が古めかしいような。
「とりあえず貴方が起きたことを団長たちに報告してきますね。貴方はもう少しそこで休んでいて」
「は、はい。ありがとうございます」
 団長?
よくわからないが、助けてもらって、休ませてもらったのだ。礼はする必要があるだろう。

 そのあとやってきた団長、デンボクさんの話を聞くと、自分が居た時代とは異なる時代に今いることが分かった。
ヒスイ地方……聞いたことない地方だが、相棒も居るのだ。なんとかなる。
 そして、驚くべきことに、私より前に、別世界から来た少女がいるらしい。その少女は天にある裂けめから落ちてきたらしいから、私もきっとそうだろうとデンボクさんたちに言われたが、生憎落ちてきた瞬間を見た者はおらず、私もここに来た時の記憶はない。助けてくれたのは相棒であるブニャットだったし、誰も私がどこから来たのか証明できない。
 まぁ、それはいいのだ。
 入団テストやら何やらを済ませた私は、相棒ブニャットとともにギンガ団内の調査隊メンバーの一員としてこの地方のポケモンを調査することになっていた。昼寝する前まで定職がなかった人間とは思えない。それに調査隊というくらいだ。多少自分の趣味に走っても、調査していたと誤魔化せる。素晴らしきかな調査団。元の時代でもそういう職を探せばよかったかと思ったが、後の祭り。
 まぁこれもいい。過ぎた話だ。
 とにかく今はこの地方を探索することに集中しよう。

シマボシ隊長の助言に従い、ムラの表門へと向かう。門番と何処に行くんだ?と聞かれ、どこに行くべきか考え込んでいると、青と黄色の目立つ配色をした服に身を包んだ男に声をかけられた。

「アナタが先ほど空からおちてきた人間ですか?」
「誰ですか貴方」
 突然現れて失礼な人だ。素直に思ったことを口にすると何が面白いのか男は笑い始めた。
「失礼、失礼。ジブンはイチョウ商会のウォロと申します。以後お見知りおきを。アナタのお名前を伺っても?」
「ウォロさん、ね。私はなまえ」
「なまえさん! 覚えました。ジブン行商人でして、何か道具が入用でしたら声をかけてくださいね」
「用があれば、ね」
「んー、随分手厳しい!」
 そのあと、ウォロさんから黒曜の原野がおすすめと話を聞いて、最初の調査地をそこに決めた。
……ところでモンスターボールってどこで用意すればいいんだ?