「なまえさん、お疲れ様です。成果確認しますね」
「お願いします」
 黒曜の原野に足を踏み入れて、暫く。数匹のビッパやコリンクを捕まえた私は、ベース地に駐在していたラベン博士に図鑑の確認をお願いしていた。
「ふむふむ、調査は順調ですね」
「確認ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ調査ありがとうございます。そういえばショウさんにはお会いしましたか?」
「……ショウ?」
 黒曜の原野に辿り着いてすぐに調査隊の先輩テルには出会ったが、ショウという人間には会っていない。
「ええ、なまえさんと同じく空の裂け目から落ちてきた方で……」
 ラベン博士が話している最中に、少し離れたところから女の人の声が聞こえてきた。
「博士〜〜〜!!!」
「あ、噂をすれば戻ってきましたね」
 ラベン博士が向いた先を見ると、
「図鑑見てください〜!」
「お疲れ様です。ショウさん。図鑑確認前に、紹介したい人がいるのですが」
「紹介したい人?」
 ラベン博士の目が私の方へ向くと、少女の目線もこちらを向く。
「こ、こんにちは……」
「こんにちは! 私ショウって言います。よろしくお願いします」
「あー、えっと、初めまして。なまえっていいます」
「なまえさんもショウさんも、空の裂け目から落ちてきた方なんですよ」
「え!?そうなんですか!」
「いや、私は気が付いたらここにいて……。よくわかんないんだけど」
「……でも、えっと、その違うところから来たのは、一緒ですよね」
「うーん、そうなるかな」
 わぁ!とショウの顔が明るく綻ぶ。聞けば、彼女は相棒もなく着の身着のままの状態でヒスイ地方に来たらしい。なるほど、確かにその状態では不安にもなるだろう。
私だって、相棒のブニャットがいなかったらこの状況に不安感を覚え、足が動かなくなっていてもおかしくない。
「すごいなぁ」
 気が付けば口から言葉が漏れていた。見るからに私より年下の女の子が、こんなよくわからないムラで必死に生きている。哀れみでもなんでもなく、純粋にそう思ったのだ。
「え! いや、私なんて全然まだまだで……!」
「いえ、ショウさんはよくやっていますよ。ショウさんのおかげで調査の進捗が早まったことも事実ですし」
 私の言葉を後押しするように、ラベン博士も言葉をかける。
「あ、ありがとうございます……」
 ショウちゃんはぼぼぼと顔を赤くさせると、「じゃ、じゃあ調査に戻りますね!!」と元の道を走ってしまった。
「あ、図鑑!」
 ラベン博士に渡したままだった図鑑を彼女に渡すために、私はラベン博士から彼女の図鑑を受け取って追いかける。

 
 「ショウさん!」
 少し走って見えた彼女の背中に声をかける。彼女は後ろに居る私に気が付くと立ち止まってくれた。
「なまえさん! どうしました?」
「さっき博士に図鑑渡しっぱなしだったから」
「わ〜〜!!ほんとだ!ごめんなさい!ありがとうございます」
「いえいえ、私もそろそろ調査に戻る予定だったし」
 ぺこぺこと頭を下げる彼女を制して言えば、ショウさんは、「あの……!」と話を変えた。
「また……今度なまえさんの元の世界の話聞いてもいいです、か? あんまりこういう話できる人もいなくて……」
 恐る恐るといったふうに紡がれた話題に少し驚きつつ、私は二つ返事で了承した。
「もちろん!私もショウさんの話聞きたいし……」
「ほんとに?よかった……! あ、あの、よかったら私のことショウさんって呼ばずに呼び捨てとかで呼んでください! 多分なまえさんの方が年上だし……」
「えっ、でも調査隊としては寸の差としても先輩だし………。じゃ、じゃあショウちゃんって呼んでもいいかな…?」
「はい!」
 その後少し互いの身の上話をして、会話がスムーズになった頃、今日の調査が終わったら一緒にイモモチを食べる約束をして、ショウちゃんとは一旦ここで分かれた。
 彼女はこれからオヤブンカビゴンを調べに行くらしい。
私はというと、ケムッソの調査がしたかったので、蹄鉄ヶ原へ向かうことにした。


 正直に言うと、ケムッソの調査レベルは10になっている。
それでもまだ調査を続けるのは個人的興味に他ならない。例えばケムッソの糸。私が居た地方で生息はしていなかったものの、他の地方から引っ越してきた人が連れていたケムッソを見せてもらったことはある。彼ら(ポケモンに彼らという複数形は合っているのか分からないが…)は、「いとをはく」という技を覚えることが出来た。しかし、ヒスイに生息しているケムッソは「いとをはく」を覚える様子がない。そもそも糸を吐くという能力がないのか、それとも技として利用することを世代を重ねることで取得したのかどうか……。
 こういうことを調べるのは私の趣味だ。そのために図鑑の帳面をメモとして使用するのは忍びない。どうしたものか。と草原の真ん中で考えていると、青と黄色の目立つ服装をした人が立っていることに気が付いた。あれは確かイチョウ商会の制服だ。
商人ならば筆記具を販売していてもおかしくない。
「すいませーん!」
「……おや、なまえさん。どうしました?」
「あら、ウォロさん? 今日は仕事してるんですね」
「今日はってなんですか。こんなに日々真面目に仕事しているのに」
「えぇ……?」
 商人は、以前ムラで会ったウォロさんだった。とても仲が良いというわけではないが、会えばたまに喋るような間柄だ。ウォロさんが好奇心旺盛な性格で、空から落ちてきたと言われている私とショウちゃんに興味津々というだけな気もするけど。
「ところでご用件は? 声をかけてきたということは何か入用で?」
「あぁ、そうだった。あの、筆記具とかって売っていませんか?」
「……筆記具?」
 ウォロさんの言葉に頷く。もしかして筆記具は需要がなくて置いていないのかしら。
「筆記具であれば調査隊なんですし、ギンガ団の方で用意してもらえるのではないですか?」
「そうなんですけど、自分用に欲しくて」
「……なるほど。そうでしたら」
 ウォロさんはそう言って、背中の重たそうなリュックを地面に降ろすと、中をがさごそと漁り始めた。
「これなら如何です? 無地の帳面と筆、硯です」
「それ! そういうのが欲しかったんです! おいくらですか?」
 聞くと、ウォロさんは首を横に振る。……売ってくれないってこと?
「お代は要りません。代わりにジブンとポケモン腕試ししてください!」
「腕試し? バトルってこと?」
「アナタが居た世界ではそう言ったんですか? 興味深い!」
 ニコっとウォロさんは人好きのする笑顔でそう言うと、表情が一転。ニヤリと笑ってボールを投げてきた。……え!?ほんとにバトルするの?
「いけ、トゲピー!」
「トゲピー!? えっ、あ、ブニャットお願い!」
 まさかウォロさんがトゲピーを持っていることに驚きながらも、自分の相棒を繰り出す。私のブニャットはニャルマーから育てた相棒なんだ。負けないぞ!


「いやぁ、負けてしまいました!」
 勝負はあっさりついてしまった。レベル差を考えれば無理もない。なんだかウォロさんのトゲピーには悪いことをした気持ちになっていると、ウォロさんが筆記具を持って近づいた。
「さすがですね。こちらお約束の品です」
「こちらこそなんだかすみません。ありがとうございます」
「いえいえ! ジブンも楽しかったですよ。また機会があれば是非」
 ウォロさんは荷物を抱え直すと、どこかへ行ってしまった。
タフな人だなぁ……。とりあえず、目的の物がすぐに入手出来たことに喜び、私は自分の調査を続けることにした。