友人の幸せを彼は本当に願っている(hpmi:銃独)
*今では銃独の民ですが、左右決まる前に書いたものです。
▽▼▽
ちらり、ちらり、と目の前で共に食事をしている幼馴染が机の上に置かれたスマホを気にしている。まぁ彼がスマホの通知を気にするのは今に始まったことではなく、彼は休みの日もずっと職場からの電話に怯えている。しかし、自分の記憶が正しければ今、幼馴染…独歩が気にしているスマホは会社から支給された仕事用のものではなくプライベート用のスマホだ。自分たち以外の人間とプライベートで連絡を取るような交流関係が独歩にあったことに少し驚きながらも一二三はいつもの通り軽い口調で尋ねた。
「独歩ちん、さっきから誰からの連絡待ってんのー?彼女?」
「えっ…!、っといや、あの、その!?」
一二三が“彼女”と口にした途端に独歩はびくりと肩を震わせて誰が見ても分かりやすいほどに動揺している。一方一二三はというと、何食わぬ顔で食事を続けている。
お互い歳の事を考えると彼女の一人や二人居てもおかしくはないのだ。まぁただ彼女ができたのなら報告くらいしてほしいなと思っているのが一番の想いで。だからこれも何てことなしに出てきた言葉なのだ。
「彼女!?どんな子!?俺っちも知ってる人?」
「いや、だから彼女なんかじゃ……」
「えっ、でも!さっきからちらちらスマホ見てんじゃん!仕事の人ってわけでもなさげだし、誰!?」
「え、いや、…」
独歩はあーー、と声にならない音を発しながらがしがしと自分の頭を掻いた。スマホと、右手で持っている箸、そして一二三を交互に見て、その動作を何往復か繰り返した後、箸を皿の上に置きなおした。
「……何聞いてもドン引きしないって誓うか?」
「当たり前じゃん!俺っちと独歩の仲でしょ?」
「いや、そんなこと言って普通にお前ドン引きする時あるだろ」
「まぁ、あるけど」
「おい!」
昔から変わらぬ会話をお約束のようにして、二人でけらけら笑って、ひとしきり笑って、落ち着きを取り戻したころ、一二三はもう一度尋ねた。
今度は茶化す口調ではなく少しそこに寂しさを交えながら。
「…で、さっき独歩が言いかけたことって何?」
独歩は一二三の目をちらりと見て、小さくため息をついた。
今の一二三がふざけてないのは独歩が一番よく知っている。観念したようにぼそりと呟いた。
「…入間さんと付き合ってる」
「・・・・・・え?」
確かに一二三は先ほどからかわないようにしようと心に決めた。
その考えに嘘はなく何を言われても笑わないようにしようと心なしか普段より強く唇を噛んでみたり、なんてことを一瞬だけだがやっていた。
しかしそんなほんの小さな努力など意味はなかった。独歩の言葉はそれほどに一二三にとっては予想外だったのだ。
「入間さんってあの入間さん?」
「多分同じ人のこと考えてる」
一二三が今脳裏に浮かんでいるのは、ライバルであるヨコハマデイヴィジョンの汚職警官である。
「え、本当に同じ人考えてる?」
「いやだって俺たち共通の知り合いの入間さんって一人だけだろ」
「いやまぁそうだけど〜〜!!」
同性と交際していることよりも、なんで相手が入間さんなのか、とか何時からなのか、とか聞きたい事は山ほどある。しかしそれらが一二三の口から漏れることはなかった。
「…っ、お前、まじかよ」
「…ぁ、ごめん、一二三。…こんなこと、聞いて引かない方がおかしかったよな」
食事をやめ、片手で顔を覆い俯く一二三の姿に、独歩は眉を下げいつものネガティブ思考の海へ溺れていく。
「…じゃなくて」
「……ぇ?」
「そうじゃなくて!」
独歩のことは好きだ、大好きだ。そうじゃなきゃ同居なんてしない。
でもこれは恋愛なんて言葉で括れるものでもない。惚れた腫れたの関係になりたいとも考えたことはない。
独歩が本当に好きな相手と付き合っているならば、応援したい。二人の関係が続くように願いたい。これは本心だ。
だがしかし、
「なんで今まで俺っちに内緒にしてたんだよ…」
ずっと近くにいた友人が、急に離れた場所に行ってしまったようで。
今まで自分の方が彼の近くにいたのに、これからは自分と一緒に居てくれなくなるんじゃないか、とか。自分との約束を優先してくれなくなるんじゃないか、とか。
寂しい、と感じているのもまた本心だ。
「…一二三」
「俺っちがさ、独歩の事今更引いて、友達止めるとか言うわけないじゃん…。そりゃ最初は驚くけど、独歩が決めたことなら応援したいし…もう!」
独り言のようにぼそぼそ話していた一二三が急に大声を出したことで、独歩は肩を震わせた。
「何時から」
「え? いや、二か月くらい前…」
「は?思ってたより前からじゃん!もう〜〜〜〜!!!!早く報告してよ!!俺っち何も知らずに飯のこととか言ってたし!!」
「えっ、え?」
一人で大騒ぎしている一二三についていけず、独歩は困惑するばかりだ。
「…俺っちと同居してるの入間さんは知ってんでしょ」
「まぁ…?」
首を傾げる独歩に一二三はとても大きなため息を吐く。
「なんか今ので独歩よりも入間さんが可哀想になったわ俺」
「は?」
誰かと付き合いだしたからと言って自分への対応は相変わらずな幼馴染にほっとしたものの、今度はその恋人に同情してしまう。
ただの幼馴染とはいえ、他の男と同居している恋人なんて不安でしかないし、デートに誘うのも一苦労だろうと。
「…で、さっきからスマホ見てたのは入間さんの連絡待ちってこと?」
「う、うん…」
ぽわっと頬を赤く染めた独歩に、一二三は少し目を丸くした。でもそれを表に出さないようにもそもそと食事を再開する。
「独歩から連絡したらいいじゃん」
「はぁ!?そ、そんなの、め、迷惑だろ…」
「分かんないでしょ?」
貸してみ、と言いながらひったくった独歩のスマホ。
静止の声は聞こえぬふりをして画面を見れば通知が数件。
「…およ?」
画面を見て動かなくなった一二三に違和感を覚えたのか、恐る恐ると独歩が彼の舐めを呼ぶ。
「…これ入間さんからじゃね?」
そう言いながら画面を見せると独歩の瞳が少し輝いた。
「本当だ…!」
一二三から取り返したスマホを見つめながら、なんて返信しようか、なんて考える独歩を一二三はじっと眺めていた。
*初出:20190512Pixiv
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ちらり、ちらり、と目の前で共に食事をしている幼馴染が机の上に置かれたスマホを気にしている。まぁ彼がスマホの通知を気にするのは今に始まったことではなく、彼は休みの日もずっと職場からの電話に怯えている。しかし、自分の記憶が正しければ今、幼馴染…独歩が気にしているスマホは会社から支給された仕事用のものではなくプライベート用のスマホだ。自分たち以外の人間とプライベートで連絡を取るような交流関係が独歩にあったことに少し驚きながらも一二三はいつもの通り軽い口調で尋ねた。
「独歩ちん、さっきから誰からの連絡待ってんのー?彼女?」
「えっ…!、っといや、あの、その!?」
一二三が“彼女”と口にした途端に独歩はびくりと肩を震わせて誰が見ても分かりやすいほどに動揺している。一方一二三はというと、何食わぬ顔で食事を続けている。
お互い歳の事を考えると彼女の一人や二人居てもおかしくはないのだ。まぁただ彼女ができたのなら報告くらいしてほしいなと思っているのが一番の想いで。だからこれも何てことなしに出てきた言葉なのだ。
「彼女!?どんな子!?俺っちも知ってる人?」
「いや、だから彼女なんかじゃ……」
「えっ、でも!さっきからちらちらスマホ見てんじゃん!仕事の人ってわけでもなさげだし、誰!?」
「え、いや、…」
独歩はあーー、と声にならない音を発しながらがしがしと自分の頭を掻いた。スマホと、右手で持っている箸、そして一二三を交互に見て、その動作を何往復か繰り返した後、箸を皿の上に置きなおした。
「……何聞いてもドン引きしないって誓うか?」
「当たり前じゃん!俺っちと独歩の仲でしょ?」
「いや、そんなこと言って普通にお前ドン引きする時あるだろ」
「まぁ、あるけど」
「おい!」
昔から変わらぬ会話をお約束のようにして、二人でけらけら笑って、ひとしきり笑って、落ち着きを取り戻したころ、一二三はもう一度尋ねた。
今度は茶化す口調ではなく少しそこに寂しさを交えながら。
「…で、さっき独歩が言いかけたことって何?」
独歩は一二三の目をちらりと見て、小さくため息をついた。
今の一二三がふざけてないのは独歩が一番よく知っている。観念したようにぼそりと呟いた。
「…入間さんと付き合ってる」
「・・・・・・え?」
確かに一二三は先ほどからかわないようにしようと心に決めた。
その考えに嘘はなく何を言われても笑わないようにしようと心なしか普段より強く唇を噛んでみたり、なんてことを一瞬だけだがやっていた。
しかしそんなほんの小さな努力など意味はなかった。独歩の言葉はそれほどに一二三にとっては予想外だったのだ。
「入間さんってあの入間さん?」
「多分同じ人のこと考えてる」
一二三が今脳裏に浮かんでいるのは、ライバルであるヨコハマデイヴィジョンの汚職警官である。
「え、本当に同じ人考えてる?」
「いやだって俺たち共通の知り合いの入間さんって一人だけだろ」
「いやまぁそうだけど〜〜!!」
同性と交際していることよりも、なんで相手が入間さんなのか、とか何時からなのか、とか聞きたい事は山ほどある。しかしそれらが一二三の口から漏れることはなかった。
「…っ、お前、まじかよ」
「…ぁ、ごめん、一二三。…こんなこと、聞いて引かない方がおかしかったよな」
食事をやめ、片手で顔を覆い俯く一二三の姿に、独歩は眉を下げいつものネガティブ思考の海へ溺れていく。
「…じゃなくて」
「……ぇ?」
「そうじゃなくて!」
独歩のことは好きだ、大好きだ。そうじゃなきゃ同居なんてしない。
でもこれは恋愛なんて言葉で括れるものでもない。惚れた腫れたの関係になりたいとも考えたことはない。
独歩が本当に好きな相手と付き合っているならば、応援したい。二人の関係が続くように願いたい。これは本心だ。
だがしかし、
「なんで今まで俺っちに内緒にしてたんだよ…」
ずっと近くにいた友人が、急に離れた場所に行ってしまったようで。
今まで自分の方が彼の近くにいたのに、これからは自分と一緒に居てくれなくなるんじゃないか、とか。自分との約束を優先してくれなくなるんじゃないか、とか。
寂しい、と感じているのもまた本心だ。
「…一二三」
「俺っちがさ、独歩の事今更引いて、友達止めるとか言うわけないじゃん…。そりゃ最初は驚くけど、独歩が決めたことなら応援したいし…もう!」
独り言のようにぼそぼそ話していた一二三が急に大声を出したことで、独歩は肩を震わせた。
「何時から」
「え? いや、二か月くらい前…」
「は?思ってたより前からじゃん!もう〜〜〜〜!!!!早く報告してよ!!俺っち何も知らずに飯のこととか言ってたし!!」
「えっ、え?」
一人で大騒ぎしている一二三についていけず、独歩は困惑するばかりだ。
「…俺っちと同居してるの入間さんは知ってんでしょ」
「まぁ…?」
首を傾げる独歩に一二三はとても大きなため息を吐く。
「なんか今ので独歩よりも入間さんが可哀想になったわ俺」
「は?」
誰かと付き合いだしたからと言って自分への対応は相変わらずな幼馴染にほっとしたものの、今度はその恋人に同情してしまう。
ただの幼馴染とはいえ、他の男と同居している恋人なんて不安でしかないし、デートに誘うのも一苦労だろうと。
「…で、さっきからスマホ見てたのは入間さんの連絡待ちってこと?」
「う、うん…」
ぽわっと頬を赤く染めた独歩に、一二三は少し目を丸くした。でもそれを表に出さないようにもそもそと食事を再開する。
「独歩から連絡したらいいじゃん」
「はぁ!?そ、そんなの、め、迷惑だろ…」
「分かんないでしょ?」
貸してみ、と言いながらひったくった独歩のスマホ。
静止の声は聞こえぬふりをして画面を見れば通知が数件。
「…およ?」
画面を見て動かなくなった一二三に違和感を覚えたのか、恐る恐ると独歩が彼の舐めを呼ぶ。
「…これ入間さんからじゃね?」
そう言いながら画面を見せると独歩の瞳が少し輝いた。
「本当だ…!」
一二三から取り返したスマホを見つめながら、なんて返信しようか、なんて考える独歩を一二三はじっと眺めていた。
*初出:20190512Pixiv