連れまわすなんてただの口実(納写)
*荘園に関してオリジナル設定あり
・ハンターとサバイバーはそれぞれ別の館で寝泊まりしている。
・ゲームの時間以外は互いに自由行動可
*納写ですが、匂わせリ傭要素あり
▽▼▽
ジョゼフは館に貼りだされた一枚の紙を眺めていた。何度読み返しても書いてあることが変わることはない。5回ほど読み直し、やはり文字が変わることがないと分かったジョゼフは小さくため息をつき紙から視線を外した。
「おっと」
部屋に戻ろうと足を動かした途端、誰かにぶつかった。見上げるとそこにはリッパーが立っていた。
「どうしたんですか、浮かない顔で」
「浮かない?私が?」
「えぇ、そう見えますが」
リッパーの言葉だけ見るとジョゼフを心配しているようだが、彼は心配なんてしていない。揶揄う材料を見つけたことに喜び、楽しんでいるのだ。何をしても笑われるだけだと悟ったジョゼフは黙って先ほどまで自分が眺めていた紙を指さした。指されているものをリッパーは既に確認済みだったようで、あぁ!と納得した声をあげた。
「荘園の主の気まぐれのことですか?今回は無常さんたちのペットが増えたみたいですね」
掲示されていた紙は、荘園の主からの一報。主はきまぐれでハンターやサバイバーに新しい衣装や装飾品を与える。中でもジョゼフが気にしているのはペットの欄。
サバイバーにのみ所持を許されているペットだが、最近はハンターの形をしたペットが出回り始めたらしい。らしいというのは限られた場所でしかハンターはペットを見ることができず、ジョゼフはまだ一度もサバイバーの誰かがペットを連れまわしている姿を見たことがないのだ。
「自分の姿のペットだなんて不愉快以外の何者でもありませんよ」
既に自分そっくりのペットが存在するリッパーは苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと、これ以上話したくもないといった様子でそそくさとその場から離れていった。後に残されたジョゼフは、もう一度掲示に目をやると今度こそ自室へと歩いていった。
◇◇
イソップ・カールは館に貼りだされた一枚の紙を眺めていた。
「何見てんの」
そこへやってきたのはナワーブ・サベダー。イソップが無言で目の前の紙を指さすと、ナワーブはそれをじっと読み始めた。暫くしてナワーブはイソップに
「どうすんのこれ」
と問いかけた。
「……どうするって何が」
「いや、これ、あの写真家のペットが出るって案内だろ。俺はあいつ気に食わねぇけど、お前はあいつのこと好きだろ」
「……まぁ、そうですけど。貴方たちのこと見てると同じ轍は踏みたくはないなって」
「その話はしないでくれ」
ナワーブは以前恋人であるリッパーの姿をしたペットを連れまわしていたのだが、それを知ったリッパーにいたくお仕置きを受けたのだ。その話を知っているイソップは未だ無表情で書面を眺めている。
「……ところで貴方、叱られただのなんだと言ってたわりにまだその子連れまわしてるんですか」
「え?あぁ、こいつ?だって館の中ならバレないだろ」
「……なるほど」
「リッパーの奴は浮気だなんだって言ってたけど、そんなわけないし。こっちはこっちで可愛いんだから仕方ないって」
誰に言い訳をしているのか分からないが、言い訳がましくナワーブは早口でそう言うと食堂へ向かって歩いていってしまった。
「……可愛い、ね」
◇◇
「うわ」
今日のゲームも全て終わり、比較的穏やかな時間が流れている館でリッパーは一人廊下を歩いていた。特に目的はなかったが歩きたい気分だったのだ。
すると前からいかにも機嫌が悪いですといった顔をしながらジョゼフが歩いてきた。ゲームに負けて機嫌が悪いなら良い。こちらとしても揶揄いやすいし、彼の事も扱いやすいからだ。しかし、今日の彼は3吊りで勝利していることをリッパーは先ほどうけた報告で知っている。そしてジョゼフは4吊り勝利じゃなかったからといってあそこまで機嫌の悪さを露にする男じゃないことも知っている。ゲームの勝敗以外で期限が悪いジョゼフは扱いにくいし面倒くさい。見つからないうちに、とリッパーは踵を返したがジョゼフに見つかってしまった。ジョゼフはリッパーの名を呼びながらずんずんとやってきた。
「聞いてくれ!」
「嫌ですけど」
「イソップくんが私を連れまわしてくれないんだ!」
「私の話聞いてました?」
話を聞いてほしいなら自分じゃなくて広間にある彫刻にでもしてくれ。と思いながらも自分の前から離れないジョゼフにリッパーは深いため息を吐いた。
「だいたい、連れまわしてほしいだなんて貴方にそんな趣味があったなんて知りたくなかったんですけど」
「えっ!?あ、いや、つれ、まわ…」
リッパーの言葉にジョゼフは一瞬で白い顔を赤くさせた。
「何考えてるんですか貴方、気持ち悪いですよ」
「り、リッパーのせいでしょう!?そうじゃなくてペットの話です!」
「……あぁ、そういえば念願のものが出てきたみたいですね。興味ありませんけど」
「そうだ。私の姿をしたペットが漸く…。なのに、イソップ君はペットを連れまわしてくれてないんだ!!!」
この世の終わりとでも言いたげな剣幕でまくしたてるジョゼフと対照的にリッパーの反応は冷ややかだ。
「単純に我々から見えてないだけでは?」
「そう思って、色々調べたんだが全然連れまわしている様子がない…。君はどうやって、君の傭兵くんがペットを連れまわしてるって知ったのかな」
「もしかしてそれ聞きに来たんですか」
リッパーの言葉に、機嫌の悪さはどこへやらジョゼフはにこりと微笑んだ。その姿にリッパーは何度目かもわからないため息を吐く。
「我々の屋敷とサバイバーの館の間にある中庭があるでしょう。あそこなら連れまわしてるペットが見えるんですよ。そこで見たんです」
「・・・なるほど、実はさっき行ってきたんだけどイソップ君は何も連れ歩いてなかったんだよね」
「既に実行済みだったんですか。じゃあもう私は知らないですよ。二人の問題でしょう」
「二人してこんな廊下の真ん中で何を話しているの?」
リッパーとジョゼフの元へ現れたのはマリー。ジョゼフが彼女にイソップの話をすると彼女はあら!と楽し気な声をあげた。
「レディ、そんな嬉しそうな声をあげられても…」
「イソップって納棺師の彼の事でしょう?私、彼がペットを連れ歩いてるの見たことがあるわ」
「「え!?」」
思わずジョゼフとリッパーは同時に声をあげた。そんな二人が面白かったのかマリーはますます楽しそうな声になった。
「えぇ、本当よ。まぁ、ジョゼフさんが知らなくても無理ないわ。私が見かけるのは大抵あなたがゲームに参加している時だもの」
「因みにどのペットを連れ歩いてるかも知ってるんですか?」
何故かジョゼフより先にリッパーが尋ねた。マリーはジョゼフとリッパーの顔を数回見つめ、にこりと微笑んだ後に口を開いた。
◇◇
「イソップくん!」
「…うわ、びっくりした」
イソップは急に部屋に現れたジョゼフに、さほど驚いた様子もなくそう言った。
どうやらイソップは化粧箱の整理をしていたらしく、机の上が散らかっていた。
「びっくりしているならもう少し反応してほしいものだけど」
「びっくりしてますよ。顔や態度にでないだけで」
「ふぅん……。まぁいいけど、ねぇ、君ペット連れまわしてるって本当?」
机に向かって整理を続けるイソップの傍へ寄ると、ジョゼフは近くにあった椅子を引き寄せて彼の隣に腰かけた。
「……連れまわしてないですよ」
「マリーが連れまわしてるって言ってたけど」
「……マリーさん?」
聴きなれぬ名前にイソップの眉間に皺が寄る。
「君たちには血の女王って呼んだ方がなじみ深いかな」
「あぁ、彼女ですか」
何度かゲームで戦ったことのある彼女の姿を思い出し、納得したのかイソップの眉間の皺は消えた。
「で、その彼女が言うには君が私の姿をしたペットを連れまわしてたって言うんだけど」
一向に作業の手を休めないイソップの邪魔をするように、ジョゼフが顔をのぞき込むもイソップの表情に変化はない。
「えぇ、連れまわしましたよ。何か?」
「わたしにも見せてほしいんだけど」
「……は?」
何を言ってるんだこいつという目でイソップはジョゼフを見つめ返した。漸く無表情じゃなくなったとジョゼフは微笑む。
「浮気だなんだって言わないんですか」
「私がそんなこと言うとでも?」
「言いそうなので」
「ふふ、言わないよ。連れまわしたいくらい君が私の事を好いている証拠だろう?」
「……そうですね。まぁ一番連れまわしたいのは本物の貴女ですけど」
「ん?」
いつの間にか作業の手を止めていたイソップは、ジョゼフの手を引いて近くのベッドへ縺れ込んだ。
一瞬きょとんとしていたジョゼフだが、意味が分かるとベッドへ身を任せ自分に覆いかぶさるイソップの背に手を回した。そんなジョゼフの耳元に、マスクを外しながらイソップは顔を近づけた。
「僕が連れまわしてる子はあそこにいます」
イソップが指さしたのはクローゼットの上。横目で見ると、確かに自分そっくりの存在が見える。あちらもジョゼフの存在に気付いたようで興味ありげに二人のことを見つめている。
「あの子に見られながら、あの子とじゃできないこと、今からやりましょう?」
「えっ、ちょっと、まっ、…そ、れは、はずか」
「恥ずかしいなんて今更なしですよ」
ニヤリとイソップは口角をあげると、抵抗の言葉を口にするジョゼフの口に噛みついた。
*初出:20200126Pixiv