ルカ・バルサーは滅多に食事を摂りたがらない。
このことは荘園にいる者なら皆知っている。元々研究命の性分であるため、寝食を忘れてしまうというのも理由の一つだが、それ以外にも彼が食事の興味を失う理由があった。
何を食べても味がしないというのだ。


「昔は味がしてたんだが、……何時からだ? 多分、事故の後?…時系列が既に曖昧だが、その辺からこのザマだ」
味がしないとはいえ、食べないと生命活動を維持することは出来ない。エミリーから渡されたパンをもそもそと面倒くさそうに咀嚼しながらルカは小言を呟いた。
「でも食べないと身が持たないだろ」
ルカの向かいの席に座るアンドルーが言う。
「それはそうなんだけど」
与えられたパンを手でちぎり、口へ運ぶ。
昔は小麦粉の味や焼いた触感を楽しんでいた気もするが、今となっては何も分からない。もし目隠しされた状態で、布や綿を口に入れられてもパンとの違いは分からないだろう。
「それって治らないものなの?」
ドーナツが乗った皿を持って、ノートンがルカの横の席につく。
ノートンの言葉にルカは首を横に振った。
「分からない。エミリー先生が言うには事故による後遺症だろうから、ちゃんとした治療を受ければ元に戻る可能性はあるらしいんだが、」
「その適切な治療が受けられない、ってことか」
「そういうこと」
なんとか胃に押し込んだパンも残りは一切れ。それもなんとか口に投げ入れ数回噛んで飲み込んだ。
食事を終えたばかりだというのに、ルカの顔は苦虫を嚙み潰したようで見ている側も心地良いものではない。
「ちょっと趣向を変えてみたら?」
ノートンはそう言って、今まさに自分が食べようとしていたドーナツを一口サイズにちぎった。なんのことだ、とルカを始め近くにいるアンドルー達も困惑していると、ノートンはいきなり持っていたドーナツをルカの口に押し付けた。
「!?」
突然の事にルカは身を後ろにずらそうとしたが、ドーナツを持っていないノートンの手がルカの後頭部を掴んでいるため身動きができない。
揶揄われているならば電流でも流して拒絶するのだが、ノートンの顔は至って真剣でそこまでするのは憚られる。しかし不快な事にも変わりない。
どうにでもなれ。
ルカはがぶり、と大口を開けてドーナツを、そしてそれを持っていたノートンの指ごと口の中に入れた。
「っいた!」
まさか噛まれると思っていなかったらしい。ノートンは慌てて手を離そうとするが、その手首をルカが掴んで拒んだ。
「は、何?」
口の中へ入れたドーナツは、ぼとりとルカの唾液を纏って床に落ちる。
ルカはそんなことお構いなしに、ノートンの人差し指をじゅるりと音を立てながら舐め始めた。指の付け根から関節を通って爪の先まで。ルカの口内の熱さを感じて、ノートンまで熱くなる。
「ちょっ、ルカ。無理やり入れたことは謝るからっ、離して」
謝罪の言葉を口にしても、聞こえていないのかルカは執拗にノートンの指を舐めていく。人差し指だけでは飽き足らず、中指、薬指も人差し指同様に舐めとっていく。
「ん、っ」
舐めていた指を離すと、唾液の糸が道を作って、切れた。漸く終わったとほっとしたのもつかの間。今度は、はむっ、と人差し指の第一関節まで口の中へ。
「おい、ルカ!?」
ルカの奇行に茫然としていた周囲も、様子がおかしいことに気付き、慌ててルカとノートンを引きはがす。
「お前、ふざけるにしてもやりすぎだぞ」
ルカを引きはがしたアンドルーが窘めると、ルカは「はぁ…」と重い息をついた。
「聞いてるのか?」
「へ、変だ」
「あ?」
ルカは声を震わせながら、わなわなと手を口元へ持っていき、じぃっ…とノートンへ視線をやる。その表情はどこか恍惚としていて、ノートンの頭の中で警鐘が鳴る。
早くこの場から立ち去りたい。いくら頭が指示を出しても足は馬鹿になったようで動けない。そんなノートンのことなどお構いなしにルカがうっとりとした声で言葉を紡ぐ。


「ノートン君の指、美味しい味がした」


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*🍰ノートン×🍴ルカな探囚が欲しい。
普通は🍴🍰なんだろうけどケーキが挿れてもいいじゃない。
*初出:20201005Twitter