お茶はすっかり冷めてしまった(探囚・探探)
*フォロワーさんへの誕生日プレゼントとして書いたもの。
*パチカビ(パッチ×緑のパン)と探探(流浪者×暴投)の欲張りセットを書こうとしたらこうなりました。
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ここはサバイバーとハンターそれぞれが衣装毎に異なる人格を持つ、一風変わった荘園。同じ人間でも衣装毎に人数がいるため、それぞれが区別しやすいように荘園に足を踏み入れた大本を「初期衣装」、ナイチンゲールから与えられた衣装から生まれた人格をその衣装名で呼び合うことで彼らは生活している。
元は同じ人間でも衣装が変われば、表に顕在化する性格は多少違う物。ほとんどの初期衣装は最初自分とは異なる性格の自分自身に戸惑いを覚えていたが、荘園で生活を送るうちに次第と慣れていった。
「黄土の壁は可愛いね。衣装の色と髪色がよく合ってるよ」
「そうかい?あまり外見への評価に興味はないが面と向かって褒められることに嫌な気はしない。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
荘園のサバイバーが住む館の食堂。窓際の席に腰かけ、囚人黄土の壁に声をかけているのは探鉱者パッチだ。
そんなパッチを、食堂にある別テーブルからじろりと見つめているのは彼の恋人である緑のパン。パッチは、こうして緑のパンが自分を見つめていることを知っている。分かっていて、他の囚人に声をかけているのだ。
「……まだあいつと付き合ってるの?」
未だパッチの方を見つめる緑のパンの隣に腰かけたのは、暴投。
彼はカップを二つ持っており、片方を緑のパンに手渡した。
「あ、ありがとう?」
「見ていたらずっとここに座ってるみたいだったから喉でも乾いてるんじゃないかと思って」
「優しいんだね」
「……別に」
暴投から水の入ったカップを受け取った緑のパンが、彼に向かって笑みを向けると、暴投はぷいとそっぽを向いてしまった。
「…で、どうなの。まだ付き合ってるの」
目線は緑のパンに向けないまま、暴投は先ほどの質問を繰り返す。
「残念ながら……。でもまぁそうだなぁ。優しい君に乗り換えるのも視野に入れてもいいかな」
「……え、」
少し前までパッチを恨めしそうな目で見ていた緑のパンが、今度は優しい瞳で暴投を見つめる。
奥に熱を孕んだ視線に、思わず暴投は引き込まれそうになる。
「えっと、」
「なーにしてんの」
背後から聞こえてきた声に、暴投は肩を震わせた。
窓際に居たはずのパッチが二人の傍に来ていたのだ。
「何、カビちゃんはこんなガキ臭い僕に乗り換えるっていうの?」
暴投の肩に手を置いて、パッチは低い声で緑のパンに問いかける。大本が同じ人物のはずの暴投でさえ、出来ることなら関わりたくないような雰囲気の彼に、緑のパンは変わらぬ様子で淡々と言葉を返す。
「まだそうと決まったわけじゃない。それに。」
パッチに移動していた緑のパンの瞳が再び暴投へ移る。
「暴投くんは紳士だよ。君なんかよりはね」
「は?」
緑のパンの返答が気に食わないパッチの声はさらに低くなる。そしてその矛先が今度は暴投へ飛んだ。
「だいたいお前もお前。カビが僕のだって分かってて声かけたでしょ。人の物取ろうだなんていくら僕の別人格でも調子の良いことしてくれるよね」
「え、いや。僕はただ」
「おい、邪魔」
三人の会話に第三者が現れた。流浪者である。彼は、暴投の肩に載せられたパッチの腕をはたき落とすと、暴投の首に自身の腕を絡ませた。
「……僕のに何してるの?」
「おや」
流浪者の声に真っ先に反応したのは緑のパン。
「君と暴投くん、そういう関係なのかい」
「見ればわかるでしょ」
「それは失礼なことをした」
緑のパンは一人合点がいったようにくすりと笑うと、立ち上がり、パッチの腕を引いて食堂から出ようと歩き出した。
「え、ちょっとカビちゃん?」
「二人の邪魔をするのは無粋だろ?それに私も君と遊びたくなったからね。付き合ってもらうよ」
「え、……は?」
さっきまでの威勢は何処へやら、すっかり緑のパンのペースに飲まれたパッチはそのまま緑のパンに引きずられるように食堂を出ていった。
「……なんだったんだ」
二人の背中を見つめながら暴投が呟く。そんな暴投を見て、流浪者はがぶりと彼の首筋に噛みついた。
「いっ!?」
「お腹空いた、血」
「いや、まぁそれは、いいけど……」
改めて暴投が首筋を晒すと流浪者は再び噛みついた。
暴投にとっては何が良いのか分からないが、流浪者の中で一番美味しいと感じた血が暴投のものらしい。血吸われすぎて貧血気味になることはあれど、健康に支障はないので好きにさせている。
今回も一通り吸って満足したのか流浪者はご馳走様と言ってどこかへ行ってしまった。
「……はぁ」
片手に持ったままのカップに暴投は口をつける。
マイペースな流浪者も、面倒くさいパッチも、自分のどこかにある側面なのかと思うと、暴投はどこかむず痒い気持ちになるのだった。
*初出:20210620Twitter