関係が変わるまであと一歩(探囚)
*フォロワーさんの誕生日プレゼントとして書いたもの
*dショタ化な探囚
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ルカはぐぐぐと両腕を天に伸ばし、凝った身体をほぐしながら廊下を歩いていた。今日のルカに試合の予定はなく、一日中発明に集中できる貴重な一日だ。昨晩もほとんど眠らず作業をしており、今は眠気覚ましと糖分補給のため何か食べようと食堂に向かっていた。
「…おや?」
食堂へ向かうとテーブルを囲んで数人のサバイバーが集まっていた。とはいえ、誰がどこで集まっていようがルカには関係ない話で、彼はその集団を素通りしようとした。
……そう、素通りするつもりだったのだ。
しかし、横目にちらりと映ったものに反応せずにはいられなかった。
「……そのキャンベルそっくりの子供は誰?」
まさか隠し子じゃないよな。冗談ぽくルカが笑うと、近くにいたナワーブが
「そんなわけあるか」
とルカの頭を小突いた。
「痛っ!?ちょっと、私の頭が馬鹿になったらどうしてくれるんだ」
「そんな冗談言えてるなら大丈夫だろ。で、あの子…あの子?って言っていいのか分からんが、あいつはノートンだよ」
「…探鉱者本人ってことか?」
ルカの言葉にナワーブは頷いた。そんなまさかと言いそうになったが、ここはなんでも起こりうる荘園だったと思い返し口を閉じた。
「……彼、今日の試合予定は?」
「あったけど、主に言って免除してもらった」
「さすがに試合には出られないもんな」
ここまで話を聞いておいてなんだがやはりルカにはあまり興味のないことで、さっさと目的を済ませてしまおうとキッチンへ向かった。ルカの後ろではエマやエミリーたちが小さくなったノートンと話をしている。
「キャンベルさん、記憶も曖昧らしいの」
「じゃあ誰かがここを案内した方がいいかしら…。あまり子ども扱いするのも悪いとは思うけど…。キャンベルさん、誰かに案内してもらいたい人とかいる?」
「あの、……僕、」
キッチンに向かったルカはというと、ヤカンでお湯を沸かしていた。朝食に何か食べようと思っていたが、あの人だかりの中で食事をする気はない。それならココアでも淹れて部屋に持ち込もうと考えたのだ。シュンシュンとヤカンから湯気が立つ音を聞きながら、ルカはマグカップを用意する。
「ルカさん、ちょっといいかしら」
そんなルカの後ろから声をかけたのはエミリーだった。
「どうかしたかい。君もココア飲むか?」
「いえ、そうじゃなくて、……彼が」
「彼?」
エミリーの背中から子供……ノートンが顔を覗かせた。エミリーの前に立ったノートンはじっとルカの顔を見ながら小さな声で呟いた。
「……僕、案内してもらうなら、えっと…ルカさんがいいです」
「は?」
「ということなの。ルカさん今日試合もないし、いいかしら」
「いや、私には私の予定…がっ」
エミリーに抗議するルカの足に突然の衝撃。足元を見るとノートンがルカに抱き着いていた。
「………」
ぎゅうと小さな体の何処にそんな力があるのかといいたくなるような強い力で抱き着くわりに、その顔は俯いていてルカから表情は見えない。
「……あぁもう分かったよ」
ルカは頭を乱雑に掻くと、その場にしゃがみ込み、ノートンと顔の高さを合わせた。
「案内する前に、一ついいか?」
「?」
「私はココアが飲みたくてここに来たからね。君にも付き合ってもらうよ。いいね」
ルカの言葉にノートンはこくりと頷いた。
「熱くないか」
「……大丈夫」
数分後、試合の開始時間になったからか人もほとんどいなくなった食堂にルカとノートンはいた。とっくにマグカップを空にしたルカがこれなら朝ご飯を用意してもよかったな、なんて考えても時既に遅し。今はノートンがココアを飲み終えるのをじっと見守っていた。
「にしても、小さくなるなんてな。ここに来てからの記憶もないのか?」
ルカの問いかけにノートンはマグカップに口をつけたまま首を縦に振る。
「それは難儀だな…。ふむ、いつまでその状態か分からないし共用部から先に案内しようか。それから君の自室に案内するから、その後は好きにしたらいいさ」
漸く空になったノートンのマグカップを見ながらルカは小さく微笑んだ。
「で?結局、一日中キャンベルに付きまとわれたのか?」
「見ればわかるだろ……」
その日の晩、一日試合に追われていたアンドルーが食堂に顔を出すと、疲れ切った顔のルカがソファで座り込んでいた。…その膝の上にはノートンが座っている。
「ルカ、こいつ誰」
「こいつって言わないの。アンドルーには会ってなかったのか?」
ルカの言葉に返事をしたのはアンドルーだ。
「ああ、会ってない。試合前にナワーブからキャンベルが荘園バグの被害に遭ったとだけ聞いていた」
「なるほどな。試合はどうだった?」
「まぁ、いつも通りというべきか…。下手な動きはしてない……と思う。いや、どうだろうな、僕がしてないと思ってるだけで実はしているかもしれないし…」
「ひひっ、そんなことを考える余裕があるなら大丈夫だろうよ」
「ルカ!!」
アンドルーとルカが喋っていると、いきなりノートンがルカの名を呼んだ。
「うわっ、どうしたんだ。ノートン?」
「………僕にも構って」
ぼそりと拗ねたように呟かれた言葉にルカも、一緒に聞いていたアンドルーも目を丸くさせる。
「なんだこいつ、随分と可愛い時期があったんだな」
「可愛いとか言うな‥」
ルカの服を掴みながらじろりとアンドルーを睨む姿は可愛い以外の何者でもない。しかしこれをまた口にすれば怒られるなとルカは開きかけた口を閉じた。
「……ルカ、眠い」
「ん、じゃあ部屋に行くか?一人で行けるか?」
目を擦り、欠伸を繰り返すノートンの顔を覗き込みながらルカが聞くと、ノートンは
「ルカと一緒がいい」
と一言。相変わらず手はルカの服を掴んでおり、離すつもりはなさそうだ。ルカは小さくため息を吐くと、ノートンを抱えてソファから立ち上がった。
「仕方ない。ちょっと部屋まで送っていくよ」
「あぁ、気を付けて」
ルカがアンドルーに背を向けて歩き出した頃、ノートンがちらりと目を開けた。ばちり、と一瞬アンドルーとノートンの目が合う。ルカから見えぬのを良いことにノートンはアンドルーに対して勝ち誇った笑みを浮かべた。
「……親を取られたくない子供か?」
二人の姿が見えなくなった頃、アンドルーが呟くも言葉を返してくれる者は周囲に誰もいなかった。
一方、ノートンの部屋。ルカはノートンを部屋まで送ったら自分も自室へ戻る予定だったのだが、ノートンはそうではなかったらしい。一緒に寝てくれの一点張りだ。
部屋に戻りたいルカと一緒に眠りたいノートンで暫く攻防が続いたが、ノートンに軍配が上がった。
「やった」
嬉しそうに笑いながらベッドに転がったノートンは、短い腕をうんと伸ばし、空いたスペースをバンバンと叩いた。
「ルカはこっちね」
「はいはい」
ノートンに言われた通りにルカも横になると、ノートンはルカの腕をぎゅっと掴んだ。
「随分甘えただなぁ、君は…。今も実はそうなのか?」
「…今?」
「いや、こっちの話だ。忘れてくれ」
小さくなった彼に成人した姿の話をしても意味がなかったとルカが自嘲すると、ノートンは気にする素振りもなく「あのね」と言葉を続けた。
「僕、ルカのことだいすき。明日も一緒にいてくれる?」
「……」
突然の告白にルカは一瞬固まったがすぐに笑みを浮かべた。
「君がまだその大きさだったならね」
ルカの言葉の意味が分からず、ノートンは不思議そうな顔をした後、眠気の限界が来たのか目を閉じた。そしてそのすぐ後寝息が聞こえてきた。
「ゆっくりおやすみ」
ルカはそう言うと、起こさぬように気を付けながらベッドを抜け出した。
明朝、ルカが食堂へ顔を出すとすっかり元の姿に戻ったノートンの姿があった。実は、まだノートンが小さいままだったら今日も面倒をみようかと思っていたルカだったが、元に戻っているならばそれはそれで良い。ルカはこれまで通り、ノートンたちのグループには近づかないようにキッチンへ向かった。
「っ、あ、バルサー!」
そんなルカの心境を知ってか知らずか、ノートンが声をかけてきた。
「なんだい、」
「あの、昨日、僕何かあった…?昨日の記憶が全然なくて…」
「どうしてそんなこと私に聞くんだ?昨日のキャンベルに何かあったとして、私が教えてあげるほどの仲でもなかったと記憶しているが?」
冷蔵庫から飲み物を取り出しながら突っぱねるようにルカが言うと、ノートンは「えっと、」と言葉を詰まらせる。コップに飲み物を注ぐ手に感じる視線。いたたまれなくなってルカがノートンの方を向くと、彼はじっと熱い視線をルカに送っていた。
「こんなこと言うと、変な奴って思われるかもしれないんだけど…。っと、何故か今朝起きてから妙にバルサーに会いたいって思って、て…」
恥ずかしそうにそう言うノートンは果たして、一昨日までのルカが知るノートンなのだろうか。
『ルカのことだいすき』
昨晩子供だったノートンに言われた言葉が脳裏をよぎる。
記憶と一緒にあの感情も消えてくれたらよかったのに、どうやらそうではないらしい。
ノートンの気持ちにも驚いたが、何より会いたいと言われて満更でもない自分自身にルカは一番驚いていた。
「あ゛―・・・・・」
ルカはガシガシと頭を掻いて唸る。どう答えるのか正解なのか分からない。
昨日のことをありのままに教えてやってもいいがそれはなんだか癪に障る。
「……昨日の事君が全部思い出したら教えてやる」
「は?それ意味ないじゃない」
「今の私から教えることはないってことだ! …いつかちゃんと教えてやるから」
「その反応、絶対昨日バルサーと何かあったでしょ」
「しつこいなぁ、教えないとは言ってないだろ、ノートン!」
そう言ってルカはコップに入れた飲み物を一気に飲み込み、食堂から足早に出ていった。
「っ、ちょっと話は終わってないよ、ルカ!」
そんなルカの後をノートンが追いかける。廊下で追いかけっこを始めた二人とすれ違ったのはアンドルーとビクターだ。
「なんだあいつら」
アンドルーの言葉にビクターも首を傾げ、それに答えるかのようにウィックが小さく吠えた。
*初出:20201222Twitter