自分の気持ちには気が付かない(探囚)
*フォロワーさんへの誕生日プレゼントとして書いたもの
*「探→←←←←囚」でリクエスト頂きましたが、リクエスト通りか未だに不明
▽▼▽
ドタバタと走り回る音が廊下から聞こえてくる。
食堂に居た者たちは、あぁまたアイツらか。と呆れた様子。ウィラなんかは、「試合の後だというのに元気だこと」と嫌味を呟いていた。
「今日こそ、その磁石を調べさせてくれないか!」
「お断りします」
廊下から響く声と共に食堂へやってきたのはルカとノートン。
何時からだったか正確な時期までは忘れてしまったが、ルカがノートンの隕石の磁石に興味を持って以来、ルカがノートンの磁石を求めて彼を追い回す日々が続いている。
◇◇◇
その晩、食堂の一角に設けられたバーカウンターで数人のサバイバーが喋り合っていた。
「バルサーの奴、どうにかできないですか…」
一人はノートン・キャンベル。彼はルカに追いかけられるようになってから頻繁に此処で愚痴ることが多くなった。
「そんなに追いかけられるのが嫌だったら磁石の一つや二つさっさとくれてやればいいじゃないか」
そんなノートンの愚痴に毎回付き合っているのは、バーカウンターのマスターを務めているデミだ。彼女は慣れた手つきで酒を用意しながらノートンの前にグラスを置いた。
「デミの言うことは一理ある。別に減って無くなる物じゃないだろう?何故そこまで頑なに貸してあげないんだ?」
デミの言葉に頷き、ノートンにそう聞くのはホセ。ノートンは二人の言葉が気に食わなかったらしく、ふいとそっぽを向いてしまった。
「想像してみろよ!」
ノートンの肩に手を回したナワーブが持っていたグラスを煽ると、荒っぽくテーブルの上に置いた。
「バルサーが幾つ磁石欲しがってるか知らんが、くれてやったらもう追い回されることはなくなるんだぞ?こんな深酒することもなくなる!」
「それは…そうだけど」
ナワーブの言っていることは間違っていない。ただで貸すのが癪なら金を対価に求めれば良い。それだけの話だ。……それだけの話なのだが、なんだかそれは嫌だと、ノートンの頭の片隅は訴えていた。
「ところで、バルサーって昼間はあんなにキャンベルに付きまとってるくせに、夜は来ないんだね?」
「あ、なんかレズニックと作業してるって聞いたことあるぞ」
デミの質問に答えたのはナワーブで、それを聞いたノートンは「へぇ」と小さく言葉を返す。
「あの二人付き合ってるの?」
「さぁ?おかしくはねぇと思うけど、」
二人が付き合っているかもと聞いて、ノートンの頭にはある光景が浮かんだ。
食堂で二人が自分には分からない話をしながら談笑しているところ。
廊下でこっそり指を絡ませ合う二人、
何気ない会話をしながら部屋に行き、そして………
「ノートン!」
「っ、ごめん、何」
ノートンの思考はナワーブの声によって停止し、彼ははっとした表情でナワーブの方を向いた。
「いや、だからバルサーとレズニックが付き合ってたら面白いなって話を……って顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「…ちょっと飲みすぎたみたい。悪いけど先に部屋に戻るね」
「送ろうか?」
「いや、そこまでじゃないよ。おやすみ」
おやすみーというデミ達の声を背中で聞きながら、ノートンは食堂を後にする。
廊下に出るとひんやりとした空気がノートンの身体を刺した。早く部屋に戻ってしまおう。
ガンガンガンと下の方から機械音が聞こえてくる。
レズニックが荘園に来たばかりの頃、彼女が部屋で騒音をたてながら作業するもんだから他の女性陣から苦情が入り、急遽ナイチンゲールが用意した作業場が地下にある。
機械音はそこから響いてくる音だ。
……今頃、バルサーとレズニックが明日の試合の準備だなんだといいながら回路やロボットを弄っているんだろう。
ざわり、と胸の辺りに焦燥感が走る。何も焦ることなんてありゃしないのに。
寒い廊下にいるからそんなことを思うのだ。自己解決し、部屋までの道を急ぐ。
自室のドアを開け、閉める。
閉めた途端、廊下で聞こえていた機械音は聞こえなくなった。
これで安心できる。そう思っていたはずなのに、今度は不安感がじわじわと喉の辺りを這う。
「……気持ち悪、」
ノートンの言葉は、誰に向けて言ったものなのか本人も分からない。
◇◇◇
ガンガンガンと聞きなれた機械音が響く。
ルカは作業室で回路の組みなおしを行っていた。ハンターに壊された回路はメンテナンスをしないと翌日のゲームに支障が出る場合があるからだ。
「ルカ、そっちのメンテ終わった?」
ロボットと対峙していたトレイシーが尋ねると、ルカは「あぁ、」と頷いた。
今日はそもそも破壊された回路の数が少なかったのでメンテナンスもいつもより早く終わることが出来た。
トレイシーはまだかかるようで、ルカの返答を聞いて「もしよかったら手伝ってほしいんだけど」と声だけが飛んできた。
断る理由のないルカは、トレイシーの方へ向かい、彼女の隣に座ると
「何をしたらいい?」
と了承の意を込めて確認する。トレイシーの扱うものとルカの扱うものでは専門分野が異なるため勝手なことはできない。
「えっと、頭の部分の……」
彼女の言葉通りに確認作業を行っていく。
「……っと、頭の配線が切れそうだからここ修理しておくよ」
「お願い!」
「ん、」
各々がロボットの異なる箇所を修理しているとトレイシーが「そういえば」と口火を切った。
「キャンベルから磁石借りられたの?」
彼女はルカが自分の研究の為にノートンの磁石を狙っていることをよく知っている。
「まだだ…。くっそ、なんで貸してくれないんだ?」
ロボットの頭の配線を触りながらルカがぼやく。
「私の方から頼んでみようか?」
トレイシーは半分聞き流していたが、以前、ノートンの磁石の地場と電気の関係について長々と聞いた覚えがある。
そこまでして研究したいのであれば、こうして日々メンテナンスを手伝ってくれる礼も兼ねて手助けしようと考えてのことだった。
「……いや、それは必要ない」
しかしルカからの答えはトレイシーの思惑とは反対のものだった。
「どうして? まぁ確かに私から言ったって貸してくれる保証はないけど、もし貸してくれたら毎日あんなに時間をかけてキャンベルを追いかける必要なくなるよ?」
トレイシーの発言に、ルカはふむと考え込む。
彼女の言っていることは正しい。毎日のように彼を追いかける時間は、正直体力も時間も奪われていて無駄だ。
それが彼女の口添えで解消できるのならば、一石二鳥ともいえる。
しかしどうしたわけか、ルカの身体は首を縦に振ろうとしない。
「ルカ、大丈夫?」
「…あ、あぁ。すまない。作業に戻るよ」
トレイシーはルカの様子がおかしいと感じていたようだが、特に口にすることはなく、お互い作業を再開させた。
……もし、キャンベルが磁石を貸してくれたなら。
検証しようのない仮説がルカの脳裏をよぎる。
もし、キャンベルが磁石を渡してくれたなら、もうあんな風に彼を追いかけることもなくなるのか。
「……?」
一瞬胸が痛み、思わずそこに手を当てる。……心拍数や呼吸は正常、おかしいところはなにもない。
突然胸に広がったざわりとした感覚の正体はなんだったのだろう。
形容しがたいものを説明するのは得意じゃない。
「ルカ、本当に大丈夫?」
「……あぁ、」
トレイシーの心配そうな瞳と目が合ったが、ルカは大丈夫の意を込めて微笑み返す。
説明できないものを伝えたって、彼女を困らせるだけだろう。
ルカは胸の痛みに気付かなかったふりをして、作業を再開させた。
ガンガンガン
二人が作業していることを表す機械音は、未だ荘園の廊下に木霊していた。
*初出:20201229Twitter