まだ気が付いていない(鍾タル)
*ケーキバース
*無自覚フォークな先生
ーーー
先生のうんちくは多岐に及ぶ。
食事はもちろん、原材料のこと、更にはそれらの適切な収穫時期……。仕事のためとはいえ、先生と交流を重ねるうちに璃月について詳しくなった自分がいて、なんだか変な気持ちになる。
(しかし……)
タルタリヤは目の前にいる鍾離を、彼に気づかれないようにじっと見つめた。
一度目は気にならなかった違和感も、回数を重ねれば気になり始め、次第に自然と目がいくようになってしまった。
(先生って食に対してうるさいわりに、おいしそうに食べないんだよなぁ)
元神のせいなのか、美味しく食事をする感覚が薄いのかもしれない。
違和を感じてすぐのころはそう思ったものだが、その違和は食事をするたびに大きくなる。まるで、人がそうしているから仕方なく食事をしているような。
「公子殿?」
「え、あ、何?」
「いや、箸を進める手が長いこと止まっていたからな。具合でも悪いのかと心配したんだ」
「あー、いや、俺は元気だよ。まだちょっと箸に慣れてないからね。……この海産とか滑るし……璃月の子供も箸を使うんでしょ?すごいよね」
なんて名前か失念してしまったが、魚介がメインの皿に挑戦する。つるり、つるりと滑ってしまい、目的のものはなかなか掴めない。
「ああ、そうだな。最近では幼子でも箸を使いやすいように持ち方を矯正する代物もあるときく。あとは箸の先に溝を入れて食材を掴みやすくしているものもあるらしい。こういった店では使われていないだろうが、家庭によってはあるだろうな」
「なるほど。皆生まれた時から使えるってわけじゃないのか」
「当たり前だ。公子殿だって愛用している武器を生まれた時から使えたわけではあるまい」
「……確かに」
ようやく掴めた食材を落とさぬように口へ運ぶ。……うん、美味しい。
コリコリとした触感も嚙むたびに楽しいし、味付けがこの独特の触感にあっている。そういえば先生は海産物苦手なんだっけ。
もう食べたのかな。なんて思いつつ彼の皿をのぞき込もうとすると、今度は鍾離がタルタリヤの方をじっと見つめていた。
「何?……あ、もしかしてまた箸の持ち方変だった?」
「いや、確かにまだ歪なところはあるが最初に比べて大分上達している。…なに、公子殿と食事をしていると楽しくてな」
「……?」
つい数分前まで、鍾離は食事を楽しんでいないのではないかと考えていたタルタリヤは、その言葉に片目を吊り上げる。
「旅人たちと食事をし、色んな話に花を咲かせるのももちろん楽しいが、公子殿と食事をするとまた違った味わいが楽しめる。……前から気になっていたのだが、貴殿は何か香を使っているのか?公子殿と食事をすると普段は感じない甘い香りがする。だからだろうか、普段よりも多く食事を口にすることができてな……」
「ま、まっ、まって!」
(香を使っている? まさか!)
ファデュイの執行官という地位にふさわしい身なりであるようにと、服装や清潔感に拘りがないわけではないが、鍾離が言うような甘い香りがするものをタルタリヤは使用したことがない。
(何かが、何かがおかしい。)
「先生、冗談でも言ってるの?」
そう言っていつものように笑って今はこの場を離れよう。
引きつる顔に無理やり笑みを浮かべて、タルタリヤは鍾離の方を向いた。
……それが間違いだった。
「俺は思ったことを言ったままだが?」
鍾離の方を見なければ、彼の瞳の奥に隠された捕食者の視線に気づくことはなかったのに。
*無自覚フォークな先生
ーーー
先生のうんちくは多岐に及ぶ。
食事はもちろん、原材料のこと、更にはそれらの適切な収穫時期……。仕事のためとはいえ、先生と交流を重ねるうちに璃月について詳しくなった自分がいて、なんだか変な気持ちになる。
(しかし……)
タルタリヤは目の前にいる鍾離を、彼に気づかれないようにじっと見つめた。
一度目は気にならなかった違和感も、回数を重ねれば気になり始め、次第に自然と目がいくようになってしまった。
(先生って食に対してうるさいわりに、おいしそうに食べないんだよなぁ)
元神のせいなのか、美味しく食事をする感覚が薄いのかもしれない。
違和を感じてすぐのころはそう思ったものだが、その違和は食事をするたびに大きくなる。まるで、人がそうしているから仕方なく食事をしているような。
「公子殿?」
「え、あ、何?」
「いや、箸を進める手が長いこと止まっていたからな。具合でも悪いのかと心配したんだ」
「あー、いや、俺は元気だよ。まだちょっと箸に慣れてないからね。……この海産とか滑るし……璃月の子供も箸を使うんでしょ?すごいよね」
なんて名前か失念してしまったが、魚介がメインの皿に挑戦する。つるり、つるりと滑ってしまい、目的のものはなかなか掴めない。
「ああ、そうだな。最近では幼子でも箸を使いやすいように持ち方を矯正する代物もあるときく。あとは箸の先に溝を入れて食材を掴みやすくしているものもあるらしい。こういった店では使われていないだろうが、家庭によってはあるだろうな」
「なるほど。皆生まれた時から使えるってわけじゃないのか」
「当たり前だ。公子殿だって愛用している武器を生まれた時から使えたわけではあるまい」
「……確かに」
ようやく掴めた食材を落とさぬように口へ運ぶ。……うん、美味しい。
コリコリとした触感も嚙むたびに楽しいし、味付けがこの独特の触感にあっている。そういえば先生は海産物苦手なんだっけ。
もう食べたのかな。なんて思いつつ彼の皿をのぞき込もうとすると、今度は鍾離がタルタリヤの方をじっと見つめていた。
「何?……あ、もしかしてまた箸の持ち方変だった?」
「いや、確かにまだ歪なところはあるが最初に比べて大分上達している。…なに、公子殿と食事をしていると楽しくてな」
「……?」
つい数分前まで、鍾離は食事を楽しんでいないのではないかと考えていたタルタリヤは、その言葉に片目を吊り上げる。
「旅人たちと食事をし、色んな話に花を咲かせるのももちろん楽しいが、公子殿と食事をするとまた違った味わいが楽しめる。……前から気になっていたのだが、貴殿は何か香を使っているのか?公子殿と食事をすると普段は感じない甘い香りがする。だからだろうか、普段よりも多く食事を口にすることができてな……」
「ま、まっ、まって!」
(香を使っている? まさか!)
ファデュイの執行官という地位にふさわしい身なりであるようにと、服装や清潔感に拘りがないわけではないが、鍾離が言うような甘い香りがするものをタルタリヤは使用したことがない。
(何かが、何かがおかしい。)
「先生、冗談でも言ってるの?」
そう言っていつものように笑って今はこの場を離れよう。
引きつる顔に無理やり笑みを浮かべて、タルタリヤは鍾離の方を向いた。
……それが間違いだった。
「俺は思ったことを言ったままだが?」
鍾離の方を見なければ、彼の瞳の奥に隠された捕食者の視線に気づくことはなかったのに。