*現パロ
*ANEWN組がシェアハウスしてる


▽▼▽

「買い物行くんだけど暇なら付き合え」
部屋の扉を突然開けたナワーブが発した言葉に、僕は無言で頷いた。
手持ち無沙汰で本を読んでいただけだったし、荷物持ちとして役に立てるならその方が良い。
「財布は俺が持ってるし、お前は携帯くらいでいいぞ」
その言葉に甘えて薄いコートを羽織って着の身着のままで外に出た。最近の季節感がよく分かっていないが近所へ行くだけだし大丈夫だろう。


「…あそこの公園の桜咲き始めたんだな」
「あそこの木確か桃の木だよ」
「え、そうなのか」

比較的どうでも良い話をしながらスーパーまで並んで歩く。間違いを指摘すると、なぁんだ、と少し唇を尖らせる姿が子供っぽくて可愛い。こんなこと本人に言うと怒られるけど。そういえば桃の花が散りかけた頃にこの辺りの桜は咲き始めた気がする。タイミングを見計らってお花見に誘うのはいいかもしれない。
「…ノートン?信号青になったぞ」
「……ん、ごめんぼーっとしてた」
「しっかりしてくれよ」

一瞬にこりと微笑んだナワーブは目線を僕から正面に変えて横断歩道を歩き始めた。
あぁもっと僕の方を見てくれたらいいのに。


「人参どれがいいかな」
「寮に何本あるんだっけ」
「一本もない」
「ふぅん。……これは?」
「いいんじゃね、それにしようぜ」

「たまねぎどうすっかな」
「それ、特大大袋ってあるけど、さすがに数が多すぎないか」
「やっぱり?でも新たまは溶けちゃうからな」


自分の意見が参考になっているか分からないが聞かれたことに答えながら店内を回っていく。ところで今日彼は何を作るつもりなんだろうか。


「肉はやっぱり牛肉だよな」
「うん…?」
「なんだ、鳥がいいのか?」
「ごめん、今晩何作るの?」
「……お前何も知らずに今まで喋ってたわけ?」

目の前にいるアワーブはすごく呆れましたという顔を隠していない。素直に頷くと今度は大きい溜息を吐かれた。今晩の夕飯はそんな分かりやすいものなのか?

「今日買った野菜だけで分かるやつには分かるぞ。少なくともイライは分かる」
「えぇ。何それ。……人参、じゃがいも、たまねぎ…」

カゴの中身を一つ一つ確認していくが、困ったことに何も浮かばない。
「本気か?」
「本気で考えてるけど何も分からない」
「……カレー」
「…あぁ」
そういえばそんな料理があったな。
「カレーという単語を思い出した顔をしてる…」
「今思い出したからね」
「カレー忘れるとか普通ないだろ、で?
肉はどっちがいい?」
「牛」

 
ナワーブが陳列されている肉に目をやりながら何やら小言を囁いていることには聞こえないふりをして、一緒に肉選びを手伝うことにする。選び終わると真っすぐレジに並ぼうとするので、肝心のルーはどうしたのかと聞くと
「ルーは寮にある」
ってむすっとした顔と共に返ってきた。知らないから聞いただけじゃないか。


レジを終え、持ってきた買い物袋に品物を入れていく。結構買ったつもりでいたが袋に入れてしまえば3袋分。スーパーのすぐ外にあるカート置き場まで袋はカートに持ってもらうことにする。
カート置き場までまたたわいのない話をして、さぁ袋を持とうとしたところでカートの上には袋が1つ。ナワーブの方を見ると既に残りの2つを持っていた。
「なんで?」
「あぁ、悪い、その袋だけ持ってくれないか?」
思わず口を飛び出た言葉に、何を勘違いしたのかナワーブは僅かに申し訳なさげな顔で言った。
「や、そうじゃなくてなんでナワーブが2つ持ってるのさ」
「は?」
「え?」

自分は荷物持ちとして呼ばれたはずなのに持ってる荷物が少ないのは釈然としない。

「僕、荷物持ちとして誘われたんだよね…?」
「え、違うけど。買い物中の話し相手が欲しくて誘った」
「……。……な、なんなのそれ!」

恥ずかしげもなくさらりと答えるナワーブがなんだかもどかしくて、彼の荷物を一つひったくると背を向けて大股で歩くことにした。後ろから何か声が聞こえるがどうせ帰る先は一緒なんだから無視だ。無視。

たまたま僕が寮にいたから、それだけの理由なんだろうけどそんな理由で誘ってくれたのが嬉しいだなんて!
絶対にバレるわけにはいかない。今は顔を隠してくれるマフラーもないんだから。

嗚呼もう早く部屋に帰りたい!


*初出:20200324Pixiv