幼馴染を終わらせよう
2時限目が終わり、次の移動教室の為に廊下を出ると見慣れた立ち姿が私に声をかけてきた
「名前」
「ん?蓮二、どうしたの」
「ふむ。まつ毛が頬についている、…ほら。」
「ん。ありがと」
蓮二の親指がするりと私の頬を撫でる
その感触に思わず目を瞑り、そっと離れていく熱に再び目を開ける
いつのまにやら背は追い抜かれ高い位置から見下ろされるようになったこの幼馴染?と呼んでいいかは分からないが彼は小学4年生の中途半端な時期に転校してきて、実は家が隣だったと発覚してから5年間ずっと一緒だ
データをとることに長けた眼の前の男 柳 蓮二は人がこれからする行動、好み、個人情報の色々に通じており人によってはその細い眼で全てを見通されてるようで怖いと影で恐れられているし、容姿端麗、学年首席で生徒会に所属していて、立海では有名な男子テニス部の三強と呼ばれる内の一人という実力を持っているので女子から人気を博しているのを知っている
昔は私の方が少しとは言え背が高かったのになぁとマジマジと見てしまうがそれすら御見通しだとばかりにフッと微笑まれた
「なn「何笑ってるの、とお前はいう」…うん。」
遮られた事に不貞腐れるとクククッと面白そうに笑ってくれる蓮二にもう何度目か分からないやり取りがこれからも約束されたものだと感じられて少し嬉しくなる
「名前、今日の昼は共に食べないか?」
「うんいいけど…あれ、テニス部は?」
「今日は精市も弦一郎も委員会が重なってな。他の者もそれならば、と今日は別行動をとるようだから久しぶりにどうだ?」
「うん、食べる」
中学に上がったばかりの頃はちょいちょい一緒に食べていたがテニス部が本格的に忙しくなった蓮二とはなかなか一緒に食べる機会は減っていた
久しぶりに食べれるなぁーと思わずニコニコすると蓮二が頭をぽんぽんと撫でるように叩き、ではまた後でなと立ち去っていった
「はぁー!いいねぇカッコイイ幼馴染」
「うん自慢!」
「私も欲しいわぁーあんなカッコイイ幼馴染!名前変わりなさいよ」
「やーだぁー!」
後ろから追い付いた友達に囃されながらも共に化学室に向かう
優しい彼氏欲しい、イケメンがいい、金持ちがいい、と一頻り要望を連ねる友人の横を笑いながら歩いているとふと友人が突拍子もないことを言った
「名前はいいわね、彼氏でしょあれもう。いや旦那?」
「は?」
「は?」
「いや、誰の事?」
「柳君に決まってんじゃない!あんなに人目もはばからずイチャイチャして」
「……は?」
蓮二とイチャイチャ…?
自分の中に一切無かった文章が突然飛び込んできて面食らってしまった
そんな私の様子に呆れたような白い目を向ける友人
「あれがイチャイチャじゃなければ世の中の人間全てに謝んなさいよ。」
「嘘、全人類規模? てか違うよ?私と蓮二そんなんじゃないよ?」
「あんなに見せ付けるようにしてんのにぃー?」
見せ付ける…?
確かに私と蓮二の距離は普通より近い気もする。
でももう5年も前から同じような事してるし…世話焼いてくれるからお兄ちゃんっていうかぶっちゃけお母さんみたいだと度々思うし…
蓮二も妹みたいな私を放っておけないんだろうし
恋愛感情を抱いた事はお互いないと断言できるのだ。
そんな甘い空気を感じた事などない。
「無い無い無い。妹だと思われてるよー」
「ふーん…柳君からは矢印向いてる気がするんだけどねー」
「そりゃ蓮二に失礼だよ。私みたいなちんちくりん」
そうかなぁーと未だに納得していない友人の横で小さくため息を一つ
絶対ない。5年も隣にいるのだ
蓮二がそんな事考えてるなら一番に私は気付くのではなかろうか
彼の恋の話などは聞いたことがないが、何かあればきっと私に話してくれるだろうしそう信じている
…信じている、が…
気になってきた
◇◇◇
「蓮二は彼女とかつくらないの?」
「…ほう。何故そんな話がお前から?今まで興味なかっただろう」
暖かな日差しが差し込む視聴覚室の窓際
もぐもぐと母がつくってくれたお弁当を蓮二の隣に座って食べながら私は先程話題になった話をぶつけてみた
「んー友達がね?私と蓮二がイチャイチャ?してるっていうの。彼氏でしょ、て。あ、違うよとは言ったんだけどね?そう言えばそう言う話蓮二から聞かないなーって思って。」
「なるほど。誰かに言われたらいいと思い行動をしていたんだがついに実ったな。」
「ん?そうなの? やっぱ幼馴染にしては近いのかな?普通の男女の幼馴染ってどうしてるんだろ、頭撫でたりしない?ご飯一緒に食べたりしない?」
蓮二の大きな手が優しく撫でてくれたりポンポンとしてくれるのはとても好きだった
出会った頃からよく撫でられていたので私にとっては普通なのだがよくよく考えると周りにそんな事をしている友達はいない
「そうだな…一般的な幼馴染よりは近いかもしれない。 だが、迷惑か?」
「…んーん。好きだよ。でも、蓮二に好きな人や彼女がいるなら辞めた方がいいとは思って。ほら名前さんは大人ですから?」
「それならば気にしなくていい。俺も好きでこうしている。」
お巫山戯で返してみたが一度芽生えた疑惑はなかなか消化されなかった。
おかしいのかな、蓮二のそばに居るの、幼馴染じゃもうおかしいと思われるのかな
私のぐらぐらと揺れる目を見て蓮二はお箸を持っていない手で私の頭を撫でながらゆっくりと引き寄せて耳元に囁いてきた
「お前が気になるなら、なるか?」
「な、何に?」
「俺の恋人にだ。」
「…」
ポカンとして思わず蓮二の顔を見る
いつも以上に近い距離にか、それとも彼女という立場を提案されたからか「へぁっ!?」と情けない声が出て身体ごと反らそうとしたが蓮二の大きな手が後頭部と首の後ろ辺りに滑り込んで思った以上に距離は離れなかった
「幼馴染という関係に甘んじるのはもう辞めようか」
もう潮どきだな、と楽しげに微笑む蓮二
いつの間にか置かれた蓮二の箸がカラカラと転がったのが視界の端で見えた
でも目の前の大人びた顔が近付いてきて視線は移せなかった
「俺にお前ほど好いている異性はいないよ、
昔も、今も、これからもだ」
「れ、蓮二…」
「好きだ名前。初めて会った5年とひと月と22日前から。」
紡がれる言葉一つ一つを理解するのに時間を有して、私は胸が熱く鼓動が早まって今の自分が危険な状態だと直感した
「付き合ってほしい。共にこれから先も歩んでいこう」
「そ、れは…もうプロポーズのレベル…」
「そのつもりだが?」
それで?名前からの返事は?と解りきった答えを今か今かと待ち侘びる彼の顔は柄にも無く花が咲くような笑顔で、
私は顔を真っ赤に染めて頷いた
(柳の片想いも長かったよね、で?式には呼んでくれるんだろう?)
(無論だ精市。だが成人を迎え互いに働き資金が貯まり次第になるだろうがな)
(アハハッ 先は長いなぁ)
(ああ、だがその時間すら楽しみだ)