大きい鍋に今朝採れたばかりの野菜と保存していた肉を入れてぐつぐつと煮込む。
野菜と肉をたくさん入れた茶色のスープをぐるりとお玉でかき混ぜ小皿に入れ味見をした。
「うん…美味しい」
我ながら上出来だ。
じじいから教わり何年も作ってきたこのスープの腕だけは上がってるようだ。
これならあの子も食べれるだろう。
あの後、洞窟で助けた子供を抱えて家に戻り、すぐベッドに寝かせた。
額の汗を拭いてあげて、じじいに暖炉の火をつけてもらい、スープの調理に取り掛かった。
スープをよそいトレイに乗せて後ろで待っていたじじいに渡す。
「できたよ。まだ目が覚めないようなら温めなおすから持ってきて」
「味は確かじゃろうな」
「失礼なじじいだな。もう何年作ってると思ってるの。そんなに心配なら味見でもする?」
このスープはこの家の主であるじじいから教えてもらった料理である。
彼の名はヴォルフ。行く当てもないボロボロだった私を何も言わず家へ入れてくれて、この温かいスープをご馳走してくれた人だ。
ふんっと笑ったヴォルフはトレイに乗せたスープを持って子供の部屋へと向かった。
「あのガキ…大丈夫かな。大きな怪我はなかったけど」
恐らく10歳近くの子だと思うが、それにしても痩せていた。
顔色も悪く、一度戻って町の医者に診てもらおうかと考えたがヴォルフが大丈夫と言い張るので連れてきた。
自分には医学の知識がこれっぽっちもないので人生経験のあるヴォルフに頼るしかなかった。
そういえば私がここに辿り着いた時もこんな寒い日だったな。
ボロボロでこの島に辿り着いた自分の姿とさっきの子供の姿が重なってしまう。
あの子もどんな事情があるかわからないが、元気になってくれたらそれでいい。
「…あ。水渡すの忘れてた」
鍋の火を消しグラスに注がれた水を持って子供の部屋に向かう。
もし起きて体調に問題がなかったら好きなものでも聞いてみよう。
「入るよー。ごめんヴォルフ、水渡すの忘れて」
「うおっ!」
「え…」
ーーーーーどすん!
部屋に入った瞬間、子供がヴォルフに投げ飛ばされ床に叩きつけられた。
呆気にとられていると子供が素早く立ち上がり、片手にメスを握ったままヴォルフをぎらりと睨んでいる。
目覚めたらいきなり知らない家に寝かされていたわけだし警戒するのも無理もない。
相手が老人だったから自分でも相手ができると思ったのだろう。どうやら子供がヴォルフの背後を取って襲い掛かろうとしたらしい。
ヴォルフは持ってきたスープを手に取り、子供の目の前で一口、二口すする。
おい。じじいが食ってどうする。そうツッコミを入れたくなったが今は黙っておくことにする。
毒が入っているのではないかと疑っている子供に証明する。
そっとスープを子供に差し出すと、子供はメスをヴォルフに向けたまま、片手でスプーンを握り恐る恐るスープに口をつけた。
「ちくしょう…美味ェ…美味ェ…!!」
安心したのか、よほど空腹だったのか。泣きながらスープを掻き込む子供。
警戒が取れたのかメスは手から離して、必死にスープを食べていた。
生きようとしている子供に心が痛む。
そんな子供を見たヴォルフは優しく笑った。
「すぐに、おかわりを持ってきてやるわい」
このスープにまた一人、子供が救われた。
私は黙っておかわりを取りに部屋を離れた。