自慢では無いが俺の住んでいる家は超お金持ちである。
金だけでは無い。家柄と言うのだろうか、それはもう大層な一族なのである。
当主である父親と呼ぶべき人は地元の中年以上の年齢の人なら知らぬ人はいないし、先祖を辿れば政界の大物やら大名やら果には何処かの国のやんごとなき身分のお姫様もいたりする。
映画に出てくるような黒スーツとサングラスの厳つい男達が屋敷に常にいるし、父だけでなく兄や妹にも専属の従者がいる。
この現代では冗談みたいな家なのである。
そんな家の、異物ともノイズとも言える俺に当主からお呼び出しを頂いた。
この家の人達は俺をいてもいなくても同じ、むしろ無いような物としているので当主直々の呼び出しなんていい予感はしない。

「…でも行かないわけにはいかないよなぁ」

久しぶりに訪れた本邸の廊下を歩く。
目的の部屋に近付くたびに俺の足取りは重くなった。


婚姻


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