カタカタと窓の揺れる音が、起きてからまずはじめに聞いた音だった。
 昨日きちんと閉めていなかったのか隙間から風が入ってきて窓を鳴らしているらしい。通り道が狭すぎる、と訴えてきている。
 ベッドからおり頭まで布団をかぶっていたせいでついた寝癖を整えながら、水希はうるさい窓をピシャリと閉めた。
 月は冬を代表する12月。
 冷え切った廊下で両腕を抱えるように歩いて水希はリビングへと向かう。
 こんなに寒いのにかの水狂いは風呂に水を張って浸っているのかと思うと……水希は思わず顔をゆがめた。
「あ。おはよう、水希」
「……おはよ」
 先に起きていた真琴が水希を見つけてニコリと笑う。
 水希はまだ完ぺきには目が覚めていないのか、歯切れ悪く返事をした。
「寝癖ついてるよ?」
「うん……」
「もしかして、昨日ちゃんと窓を閉めないで寝た?」
「……うん」
 なんでわかるんだ、と若干ジト目で真琴を見るが、彼は水希の返事に肩を竦めていてそれには気付かない。
「風邪ひくよ」
「……ごめん」
「ん。でも今日からはちゃんと気をつけろよ」
 真琴は穏やかに目を細め、リビングの入口付近で突っ立ったままの水希を手招きした。
 ごしごしと目をこすりながら水希は引っ張られるようにそちらへ歩く。
「朝ごはん、つくろっか」
 ぴょこんと跳ねた水希の横髪を落ち着けるように撫で、真琴はキッチンを指さした。
 よく見れば真琴もまだパジャマなので、起きた時間は水希より数分早かったぐらいなのだろう。朝ごはんがまだだというのも、うなずける。
 水希はやはり寝ぼけ半分でコクリと頷いた。
 朝ごはんと言っても単に食パンを焼いて、冷蔵庫から取り出したジャムをぬるだけだ。ついでに、ヨーグルトも欠かせない。
「水希、はい。焼けたよ」
「あ、うん」
 真琴から受け取ったお皿の上にはこんがりと焼けた食パンが乗っている。
 匂いだけでお腹が満たされそうだ。
「みんな起きるの遅いね」
「今日は日曜日だからじゃない?」
「それもそうだ」
 イスを引いてそれぞれのいつもの席に座る。
 向かい合わせになった2人はどちらともなく「いただきます」と手を合わせた。
 バターナイフ伸びた手は、2本。
「……先にいいよ」
「ごめん、ありがとう」
 水希は真琴の手に重なった自分の手をヨーグルトへと持っていき、その蓋をペリッとはいだ。
 真向かいではバターナイフがトーストを削る音が、がりがりと、途切れたり鳴ったりを繰り返している。
「次は、今冬新作のデザートです」
 水希の視線はテレビに飛んだ。真琴もそれに気づいたらしく、彼に倣ってワイド画面のそれを見る。
「若い女性をターゲットとしたスイーツ競争」なんてテロップが右上に表示されている。各県のお店が上がり、ついには、なんとも珍しいことに岩鳶の風景も映し出された。
 そしてそれを、スプーンを動かす手すら休め、食い入るように見つめている水希。
 真琴は苦笑をこぼした。
「そういえば今日、部活は休みだね」
「……」
「一緒に行ってみる?」
 こちらに戻ってきた水希が、読めない薄緑で真琴をジッと見つめた。
 しばらくは黙り込んでいたが、薄緑は真琴から興味を失ったかのようにそらされていく。
「……行く」
「ん」
 ニコリと笑って使い終わったバターナイフを水希に渡す。
 それを受け取ったときの水希は、わかりづらいが、嬉しそうにしていた。