※1期EDパロ
「……喉乾いた」
ぽつりとこぼすと、水希はラクダの体を撫でる手を止めた。
「おまえの、もう空になったの」
「ああ」
「早すぎだろ」
もうちょっと配分考えろよ、死ぬぞ、なんて縁起でもない言葉が水希の口から飛び出した。
こいつ、そういうことを躊躇なく言ってくるのだから質の悪いやつだと思う。
ジト目で睨みつけていると、疲れた息を吐いた水希が、これで終わりと言わんばかりにラクダの頭を優しく叩き、俺を振り返った。
「俺の飲めば。ここからじゃ、真琴たちのところまでしばらくあるだろ」
思わず目を瞠る。水希が自分の水を譲ってくれるとは思わなかった。
「いいのか?」
「死なれるよりマシ」
ふいと顔を逸らした水希。
素直じゃない、と人のことを言えるわけじゃないけど、そう思った。
ひねくれたことを言わないと水をわけられない水希に、なんとなく口元が緩む。
「……なんだよ。その顔」
「なんでもない」
お前がかわいいなって思ってた。言えないけど。
怪訝な顔をした水希は、しばらくはそのまま探るように俺をみていたが、あっそ、と一言。
「ほら」
投げ渡された水筒を受け取り、軽く礼を言う。
それに水希は俺と同じぐらい軽く頷いた。
水筒の蓋をひねる。容器の中で揺れるそれに、思わずこくりと喉がなった。
「嬉しそうにしすぎ」
呆れた声色で言った水希の顔は反射する日差しで拝むことができなかったが、どうせ声と同様、呆れた顔をしていたのだろう。
ただ水希は、照りつける太陽からじわりじわりと浮き上げられた皮膚の上の汗を拭うように腰に手を当てた。
水筒を口元まで持っていき、いざ傾けようとしたところで、ふと。
「……間接キス」
思ったことを、うっかり、そのまま声に出してしまった。
水希は俺の先を歩いていたから少し離れたところにいたので、ラクダの手綱を引いてこちらへ戻って来ている最中だった。
「……ガキか」
「……」
照れもせず、単に呆れた、同情の眼差しを向けてきていた水希には、少なからず苛立ちを覚える。
なんだ、お前、初心設定じゃなかったのか、照れろよ。
またも水希を睨みつけたが、彼はさして気に留めず、ラクダに寄りかかると、静かに目を伏せた。
それは暗にそのことについてケンカするつもりはないのだと言われていることを察し、つまらなさとやるせなさからため息をつく。
「真琴たちに、早く合流したいな」
水筒を傾けながら、水希の話に耳を貸す。
とぷんとぷんと容器内で跳ねる水は、どういう分量で飲んでいけばそんなに余るのか、さっぱりわからない。こいつ、喉、乾かないのかなんて思ってしまう。
いかんせん水分補給の最中なので「そんなに真琴に会いたいか。相変わらずブラコンだな」と、瞼を持ち上げた彼に目で訴えた。
なんのスキルか、伝わらないだろうと思っていたのに水希は察したらしく、不機嫌そうに眉を寄せる。
「ブラコンじゃねーし」
大好きなくせに、目を細めて伝える。
「好きだよ」
ほらな。
「でも、おまえの方が、もっと好き」
にこり。彼には滅多にみられない効果音が伴った。
一瞬の動揺から、手元が狂った。
変に傾けてしまった水筒からいっぺんに水が溢れ出し、悲しくも少量のそれが鼻に入って勢いよく噎せる。水筒は慌てて持ち直したので、この先大丈夫か、と心配になるほど水が犠牲になることはなかった。
「遙、早く行くぞ」
一体誰のせいでこうなったのか、俺の惨事に見向きもせず、彼はひょいとラクダの背中に飛び乗った。
文句の一つや二つ、言ってやりたくて、濡れた口元を手の甲で拭う。
「おい、水希」
呼ぶと、してやったり、そんな顔をした水希が振り返った。いつもじゃ見られない表情だった。
なあお前、初心設定じゃなかったのか。
こくりと喉が鳴ったのは、水を飲んだ余韻か、否か。