広いアーケードの中央にポツンと立つ日本海のラッコ、御子柴百太郎は、お気に入りの貝なんかじゃあなくて、頭を抱えて困り果てていた。
「ど、どーしよ……」
 そう、何を隠そうこのラッコ、広大な海ではしゃいでいたら、いつの間にか漂流していたのである。
 百太郎は、水泳部の先輩である似鳥愛一郎と、日頃の感謝を込めて同じく先輩である松岡凛、山崎宗介、2人へのプレゼントを一緒に買いに来ていた。
 何度も愛一郎にはしゃぎすぎないよう注意を受けていたが、なにせあまりお目にかからないアーケード。珍しいお店もある! 探していたお店だってある! 左右に広がるお店の看板に目を輝かせているうちに、――このざまだ。
 最初百太郎は、文明の利器、スマートフォンに頼ろうとすぐに動いた。が、ポケットを漁れどそんなものは出てこない。そういえば昨日、充電器につないで、そのままベッドの上に忘れてきたのだとやっと理解した。
 はぐれたときの集合場所なんて決めていない。もはや百太郎は、この恐ろしいほど広いアーケードの中で、愛一郎と奇跡的に出会うしかなかった。
 百太郎は肩を竦めながら辺りを見渡す。当然ながら盛り上がる買い物客ばかりで、愛一郎の姿はすぐには見つからない。
 三人の女子高生がドラッグストアの前で話しているのを見たとき、ついついキミきゃわいいねと声をかけそうになったが、そんなときに、百太郎は見たことのある人物を見つけた。
 揺れる、シックな柄の紙袋。持ち手は紐で、高級感がある。
 彼はビラ配りのバイトに差し出されたそれを軽く会釈しながら受け取った。ほんの少し文字を追ったが、興味をすぐに失い、小さく折りたたんで紙袋に入れた。
 彼はどんどん百太郎に近寄ってくる。……のだが、百太郎には一切気づかずにその横を通り過ぎそうになって、
「水希さんっ!!」
 百太郎は慌てて水希の腕を掴み、彼を引き止めた。
 びくりと肩を跳ね上げるほどの過剰な反応を示した水希は余程の不意打ちだったらしい。本当に百太郎に気づいていなかったのだ。
 水希は振り返った先に百太郎を見つけると、急激に眉間にしわを集める。
「……ウメ?」
「えっ?」
 いや違う。どうもしっくりこない。目の前の金眼のオレンジ髪に見覚えはある。鮫柄の水泳部、凛たちの後輩だ。
 彼の名前を凛たちが呼んでいたのは覚えているのだけれど、それがなんだったのか水希は思い出せない。腕を拱き、ふむ、と考える。クリか? いや、これも違うな……でも確かに2文字だったはず。
「まあいいか」
「な、なにがすか?」
「別に。こっちの話」
 水希は思い出すことを諦めた。
「で。いきなりなに」
 突然腕を掴んできた理由を尋ねると、百太郎はぶわっと目に涙を浮かべる。そうだ。水希を見つけたからといっても何か解決したわけじゃないのだ。
「聞いてくださいよおぉ水希さぁん……」と言葉の1つ1つに濁点の付いていそうな百太郎の項垂れっぷりに水希はドン引きだ。
「実は俺、愛先輩と買い物に来てたんすけど、はぐれちゃって……」
「? 電話すれば」
「スマホは寮に忘れたんすよおぉ……」
「バカだな」
 水希の目は心底百太郎を残念がっている。
「水希さんスマホ持ってないすか……?」
「持ってるけど、おまえ相手の電話番号覚えてんの」
「…………」
「だろうね」
 御子柴百太郎、撃沈。
 水希は呆れからため息をつき、手を腰に当てる。
「まあふらっと会えるんじゃない」
「そんなぁ……」
 水希は完全に他人事である。
 完璧に見捨てるなんてひどい話だが、百太郎が肩を落としても、水希にはどうしてやることもできないのが事実だ。
「じゃあな」
「えっ?!」
 ひらりと手を振ることもせず、水希は百太郎に背中を向ける。
 百太郎は大きく目を開いて、慌てて水希の前に回り込んだ。
 通路を塞がれた水希は、隠すこともなくため息をつき、値踏みするような目で百太郎のつま先から頭のてっぺんまで見て、子犬のような顔をする百太郎を睨めつける。
 正直かなり怖い、が、ここで怯んではいられない。
「一緒に探してくれるとか、ないんすかぁ?!」
「やだよめんどくさい」
「同じ水泳部じゃないすかあぁ!!」
「理由になってないだろ」
 同じ学校の水泳部ならまだしも、百太郎と水希は通う学校が違う。今の百太郎の言葉を承諾してしまうと、「手伝ってくれよ! 同じ男だろ!」が通用してしまうじゃないか。それは少々いただけない。
「凛先輩の後輩を助けると思って!」
「まんまじゃん。それに凛の後輩は凛の後輩だろ。俺には関係ない」
「水希さんってなんでそんなにひどいんすかぁ?!」
「ひどくない」
「俺の育てたクワガタ一匹あげますからぁ!」
「いらない」
 百太郎は号泣した。取り付く島がないとはこのことだったのか。
 もはや必死で頼み込むほかなく、「お願いしますよお!」と涙声で訴え、水希の腰にしがみつく。はたからみればかなり奇妙な光景だ。通行人はみな水希たちを見ては首をかしげる。こそこそと話をするものはいるが、声をかけるものはいない。
 しかし、広い世の中。例外はある。
「なにしてるんだ。水希」
 露骨に引いた顔をして声をかけてきたのは遙だ。
 遙が来たことで百太郎も幾分落ち着き、パチパチと瞬きする。
 水希はほんの少し目を大きくした。
「厄介なのに絡まれてただけ」
「珍しいな。お前がチンピラ以外に絡まれるなんて」
「喧嘩売ってんの?」
「俺が売ってやらなくても水希はたくさん押し売りされるだろ」
「おまえのが1番質悪い」
「あ、あのー……」
 なにやら不穏な雲行きになった2人に百太郎は声を上げる。少々殺気立った青色と若葉色がいっぺんに百太郎を見た。
「2人は今、偶然会ったんですか……?」
「そうだけど」
 あっさりと頷いた水希に百太郎は唖然とした。偶然出会った途端の会話があれなのか。普通、「おう! 偶然だな!」ぐらいの挨拶をするんじゃないか? なのにこの2人、そんなものを伴わずいきなり喧嘩腰だ。合同練習のときも度々思っていたが、この2人の仲の悪さは半端でない。
 百太郎が口を引きつらせていると、水希が不意に閃いた。
「……ほら、俺と遙が偶然会えたみたいに、おまえも偶然見つけられるんじゃないの」
「ポエムっぽいな」
 なんのことかは知らないが、遙は思ったままを率直に口にした。もちろん水希は鋭い目で遙を睨んだのだが、彼の胸ぐらをとってやれなかったのは、2人の間に百太郎が立っていたからだ。
 不発の苛立ちをため息を吐くことで宥め、水希は疲れた目をする。
「……とりあえず俺は帰るから。遙にでも手伝ってもらえよ」
「えっ……そんな、水希さん!」
 今度は立ち止まらない。言葉通り、水希は帰って行ってしまう。
「そ、そんなぁ……」
「……」
「……、……」
「……どういうことだ?」
 百太郎のもとに、偶然出会った、遙を残して。

 ◇

 今回の連れがついつい寄ってしまいそうな系統のお店を回ってみているのだが、どうもその姿は見つからない。駅前で楽しそうに会話をする人々の中で、似鳥愛一郎は深いため息をついた。
「百くん……」
 思えば自分も甘かったのだ。強く言い聞かせたってどうせ彼は本能で動く。縄で体をぐるぐる巻きにして、先をしっかり握っていればこんなことにはならなかった。
 ともかく、百太郎と合流しなければならないのだが。
 先ほどから百太郎へ電話してみているが全く応答がない。一体何のための携帯電話なのかとため息三昧だ。
 こういうときのために、はぐれたら一旦駅前に集合と最初に伝えておいたのに、愛一郎がこの場に立って十数分。未だあの姿も自分を呼ぶ声もない。
 百太郎が集合場所を聞き流していたか、まだはぐれてしまったことに気づかずスキップしているのかは謎であるが――さすがの百太郎でも後者はないだろう。
 愛一郎はまたため息をついた。と、そんなときに。探し人ではないが、見知った人を見つけた。
「あっ、橘さん」
 茶髪、若葉色の瞳。真琴とは違って、全然おおらかじゃない方の橘だ。そんな彼を呼び止めてしまったのはほぼ反射。水希が不思議そうに足を止め、愛一郎を見下ろす。
「さ、鮫柄水泳部の似鳥です!」
 ピンと背筋を張って改めて自己紹介をしてくれた愛一郎に微妙な顔で頷きつつ、水希は隠れてため息をつく。
 見捨ててきた百太郎が探していた人物と出会ってしまうとは。
「橘さんも買い物ですか?」
「ん。まあ」
 買い物以外にこんな場所は訪れないのではないかと思ったがとりあえず頷く。
 愛一郎は水希の後ろを見る。……あれ?
「七瀬さんは一緒じゃないんですか?」
「は?」
「ひぃっ!」
 かなりドスの利いた声かつ人一人殺せそうな目つきだったので愛一郎は悲鳴を上げて後ずさった。
 愛一郎は、高校2年の彼らも知っている。
 最初こそ水希と遙の喧嘩発生率に怯えていたが、実はかなり仲がいいのだと一年を通して学んだし、先輩である凛も笑いながらからかっていた。
 二人は罵声を飛ばしあい胸ぐらを揺さぶり合うわりに、お互いに隣をキープしている。馬が合わないなら近づかなければいいのに、いつも一緒にいるのだ。
 何が言いたいかというと、そんなセットな彼らが単独行動なものだから愛一郎は思わず水希に遙の所在を尋ねてしまった、ということだ。
 が、それはかなり爆弾発言だったようで、目に見えて機嫌が急降下した水希に、愛一郎はぶるりと身を震わせる。話題を変えよう! と、慌てて口にしたのは、
「あ、そ、そうだ! 橘さん、百くん見ませんでしたか?」
 迷子のラッコのことだった。
 水希の瞳がかすかにぶれる。
 うまく気を紛らわすことに成功したものと思い、愛一郎は話を続ける。
「僕たち、一緒に買い物をしてたんですけど、はぐれちゃって……。百くんに何回も電話かけてるのに出ないし、もしもの集合場所にも来ないから困ってるんです」
 はあ、と深いため息。一緒に肩を落とし落胆。
 愛一郎の様子を見ていた水希は、目を伏せ、愛一郎に負けないくらいのため息を吐く。紙袋の持ち手を握りなおす。
 水希もそこまでむごい真似はできない。
「電話はムダだろ。あいつスマホ置いてきたとか言ってたし」
 疲れたように言った水希。
 愛一郎はぱちぱちと瞬きした。
「たっ橘さん、百くんに会ったんですか?」
「会ったっていうか、腕掴まれた」
「腕を掴まれた……?」
「気にしなくていいよ。行くぞ」
「えっ?」
 水希は愛一郎に背を向けてスタスタと歩く。
「行くって、どこに?」と慌てて後ろについてきた愛一郎が問いかけてくる。
 水希はポケットからスマホを取り出し、ダメ元でとある人物に電話をかけながら、愛一郎に答える。
「百のとこ」
 呼び出し音はしばらく続く。やっぱりダメか、と水希は諦めかけた。途端に。
「……なんだ」
「……マジか。今日は持ち歩いてんの?」
「切るぞ」
「やめろよ。かけ直すのめんどくさいだろ」
 驚くことに、携帯を携帯しない遙が呼び出し音を断ち切った。
 いつもはスマホを持ち歩く百太郎が忘れた代わりに遙が持ち歩いていたのかもしれない。
 出だしから不穏な会話をしつつ、水希は本題に移る。
「まだ一緒にいる?」
「お前のせいで俺から離れようとしない」
「そう。ならいいや。今どこ? そいつの連れ連れて行く」
「見つけたのか?」
「帰ろうと思って駅に行ったらばったりね。迷子の集合場所だったらしいよ」
 水希は粗方の事情を話し、遙には今の場所から動かないように頼んで、一度電話を切った。
 それにしても……。
「ウメじゃなくてモモか……」
「え?」
「なんでもない。こっちの話」
 水希が話そうとしないので愛一郎もしつこくは聞けない。気になりつつも心なしか速足の水希に一生懸命ついていく。
 今は背中しか見えない水希は、たびたび見せる表情こそ怖いが、
(なんだかんだいい人なんだよなぁ……)
 愛一郎は一人こっそりと頬を緩ませた。


 水希が最初、百太郎を見捨てたのにはわけがあった。
 すべての原因は水希が持っている紙袋。しゃれたそいつはとある洋菓子店の物だ。
 最近オープンしたばかりの店だが、ネットでの評判がすごい。水希もSNSを通じてその店を知り、早速足を運んだ次第である。
 とはいっても情報を得てすぐには訪れられなかった。このアーケードは電車で何駅か行ったところにあるので、学校と部活がある日は時間がない。だから水希は学校も部活も休みな今日が来るのを心待ちにしていた。
 つまるところ、早く家に帰って紙袋の中の箱。そいつを開きたかったのだ。

 遙に聞いた通りの場所に来ると、すぐに彼らを見つけることができた。
 水希たちがやってきたことに気付いたのは遙だけだ。百太郎はずうんと影を背負い、うなだれている。そんな彼は遙から「迷子のときは駅前集合だったらしいな」という言葉を聞いて以来この調子だ。
「百くん!」
「どわぁっ! ああっ愛先輩!?」
 愛一郎は腕を拱き仁王立ち。明らかに怒っている。百太郎の口がひきつる。
 始まったお説教を横目に遙は水希の方へ近づいた。
「水希」
「ん、……迷子のお世話は?」
「疲れた……」
 本気で疲労困憊した瞳をする遙に水希は苦笑いする。渚ぐらいのハイテンションに引っ張られてさぞ大変だったのだろう。
 なんだかんだ、百太郎を遙に押し付けてしまったことには罪悪感があるので、水希は遙の肩を軽くたたいた。お勤めご苦労。労わりである。
「遙、おまえ今日何しに来たの」
「近所の書店が全滅だった」
「……? ああ、あの『水中生活』とかいうわけのわかんない本……」
 そういえば数週間前から明らかに遙の食いつきそうな本が書店の張り紙で宣伝されていた。帰宅時も遙が書店の前で立ち止まるので(主に真琴が)困っていたのだが、もう発売されていたのか。
 それにしても近所の書店が全滅、というのはそれほど売れ行きが好調だということなのだろうか? 謎だ。
「そういうお前は何してたんだ?」
 と、遙は水希の持つ紙袋に気がついて、
「……相変わらずだな」
 水希が答える前に肩を竦めた。
 こんなツンケンした男が洋菓子店めぐりなど、ギャップが過ぎると思うのだが、どうだろう。
 遙の呆れたような顔つきに水希は眉を顰めた。二、三言言ってやろうとした口は、高めの声に止められた。
「あの、橘さん! わざわざありがとうございました!」
「……ん」
「それと、七瀬さんも。百くんがご迷惑おかけしました……」
「ああ……」
 百太郎を一頻り叱った愛一郎がぺこりと頭を下げる。
 遙と水希は何もそこまでしてもらわなくても、と困っている。
 愛一郎は「ほら、百くんも!」と頭を下げずに何やら思案している百太郎の頭を、無理やり下げさせようとしたのだが、「つーか愛先輩」と、百太郎が話し始める方が早い。
「水希さんのこと、苗字で呼んでるんすか?」
「えっ?」
 百太郎の突然の一言に、驚き声をあげたのは愛一郎のみだったが、水希も遙も目を丸くしている。
「だって水希さんって双子だし……今は水希さんしかいないからいいんすけど、橘さんだと、やっぱり紛らわしいっていうか……」
 周りの空気が自分の想像していなかった方に向かっているので、百太郎の声はだんだん自信なさげに萎んでゆく。
 百太郎の思わぬ発言から愛一郎の泳いだ視線は、思いがけず水希のものと交わった。気まずいが逸らせない。えっと、と頬をかく愛一郎に、水希は小さく息を吐いた。
「水希でいい」
「あっ……は、はいっ!」
 思わぬ展開だ。愛一郎は上ずった返事をした。頬はやや染まっている。彼は最も慕う凛の友人と距離が近づいた気がして、嬉しかったのだ。
 一度小声で練習してから、愛一郎はすうっと息を吸う。
「改めてよろしくお願いしますっ。水希さん!」
 顔を綻ばせる愛一郎のバックに花が咲いたのは気のせいじゃないはずだ。
 水希はあまりにも純粋な愛一郎に半歩後退する。
 一連の流れを見ていた遙はぽつりと。
「こいつは反面教師にしかならないぞ」
「は?」
 こっそり言ったつもりだが、水希に聞こえるには十分な声量だった。
 鋭い眼差しで睨みつけてきた水希に遙も応戦する。バチバチと火花の飛ぶ視線の応酬に、百太郎は身を縮め、愛一郎に問う。
「水希さんと七瀬さんって、なんでこんなに仲悪いんすか?」
「えぇ? 何言ってるの、百くん。水希さんと七瀬さんはすごく仲がいいよ?」
「えっ?!」
 返ってきた言葉に百太郎は絶句する。顔を合わせれば露骨に嫌な顔をし、今も言い合いをしている彼らのどこが仲良しだというのか。
「僕も最初は仲が悪いと思ってたけど……百くんもいつかわかるよ」
 愛一郎はにこりと笑った。
 彼らは最もとっつきにくく、優しさの欠けていそうな人物に見えて、案外面倒見が良く、根は優しいということに百太郎が気づき始めているように、2人の意外な信頼関係に気づくのもそう遠い話じゃないだろう。
 百太郎は首をかしげ、うーんと唸り、唐突に手を叩く。
「せっかくだし、みんなで買い物しませんか?!」
「「は?」」
「ひいっ!」
 水希と遙はハモった。かつ声がかなり低かった。百太郎が悲鳴をあげるのも無理はない。
 慌ててフォローにはいるのは愛一郎だ。
「ぼ、僕もよければお二人にも一緒に来て欲しいです! 凛先輩たちと同い年の方が、欲しいものも近いと思うので!」
「……? おまえら凛にプレゼント買いに来てたの?」
「は、はいっ! あと宗介先輩の分もです」
「えっ俺宗介のなら選ぶの手伝いたい」
 水希の急な食いつきように3人が驚く。提案者はともかく、遙も驚いているので、かなり意外な反応だったというのがわかる。
 ここは百太郎が代表する。
「なんで宗介先輩のは選びたいんすか?」
「いやがらせ」
 いやがらせ。つまり、宗介がもらって口を引きつらせるようなものを選びたいらしい。
 真顔で言い切った水希は、宗介に一体なんの恨みがあるのか。
「遙も行こう」
「めんどくさい」
「本の半額出してやるから」
「行く」
 遙はころっと主張を変えた。なんて単純なんだ、と百太郎と愛一郎は唖然とした。
「で、ある程度決めてんの」と聞いてくる水希。百太郎の提案は受け入れられたのだとわかり、百太郎と愛一郎は顔を見合わせて、お互いに嬉しさで頬を紅潮させる。
「結構文句言っても、もらったものは大事に使いそうだよな。あいつ」
 意味深長な言葉を残す水希は、本当、宗介になんの恨みがあるのか謎である。