避けられる話




避けられる








私には最近少し気になっていることがある。
それは、仕事帰りや休みの日にたまに赴く私の憩いの場。駄菓子喫茶カラフルでの出来事。


カラフルでは店主のやつでさん
お孫さんの介人さん
そしてキカイノイドの方々が働かれていて、ご年配の方から小さなお子さんまでが通うみんなに愛されているお店だ。

そこで最近起きている気になる事というのは





「私ってガオーンさんに嫌われてるんですかね・・?」




ガオーンさん、とは猫のようなお耳とドレッドヘアーが特徴のキカイノイドの男性だ。

彼は、丸みがあってキュートで暖かい生き物が大好き!とのことで介人さんややつでさん。そしてカラフルに来る人間のお客さんの皆さんを溺愛している。
かくいう私も彼に出会った最初の頃は、店に入るといつも側まで駆け寄ってくれて話しかけてくれたり、お世話を焼いてくれたり。
たまには近過ぎる距離感での接客もあった。
最初はその近い距離感に驚いたが、彼の愛想の良さと朗らかさに嫌な気はせず、寧ろ好意を抱く様になっていった。


が、しかし
段々と近過ぎる距離が適切な距離感になり
褒めちぎられていた言葉が減ってきて
とうとう挨拶程度の最低限な会話へと変わっていった。

私はガオーンさんに恋をしている!とかいう訳ではないけれど、いつも周りを明るくしてくれて素敵な人だなーと感じていたので、
別に構わないいえば構わないけれど、他の人間の方々にはキャッキャうふふな対応なのに私には塩対応というのはいささか寂しく感じてしまう。



色々考えてみたけど、答えは分からない。
なので同じくカラフルで働いているキカイノイドのジュランさんに相談してみていることにした。


「それはさ、ぶっちゃけ本人に聞いてみないとわかんねーだろ」

「ですよねー」

年長者であるジュランさんに相談すれば何か腑に落ちる回答などが得られるかなぁという淡い期待は崩れ
結果、正論を返してもらうことになった。








「って、ナマエちゃんに相談されたけど実際どうなの?」
「ちょ・・なに?!なんでジュランに?!っていうかなんでそんな話になってんの?!」


頭をかかえて狼狽えるガオーン。
そんなガオーンを見て笑いながらジュランは続けた。

「お嬢ちゃんが相談して来た相手が俺で良かったなぁー。
もしブルーンだったら『それは、間違いなく・・嫌われてますね!!』とか言っちゃってたかもしんねーよ?」

「失礼ですよ!ジュラン!私は恋愛ワルドと戦って以来、恋愛の事に関して更に知識を深めていますよ!」

「じゃあよ、ガオーンのナマエちゃんへの態度ってどう思う?」

「恋愛に関する本で読んだ事があります。
ずばり!『好き避け』ってやつですよね!!そうですよね?ガオーン?」

「最っ悪・・・」

カラフルの2階へ続く階段に腰を下ろし膝を抱えてガオーンは再び頭も抱え込んだ。
あの子への気持ちを人から指摘される羽目になるなんて・・最悪だ・・!



最初は可愛い人間ちゅわんだなと思っていたんだ。
手入れの行き届いた毛並みも綺麗だし
女の子ならではの柔らかそうな身体は守ってあげたくなるし
話しかけたら、僕の事を見上げてふふっと笑ってくれる顔もとっても可愛い人間ちゅわん


だけど、いつからか他の人間ちゅわんとお話するみたいにナマエちゅわんと関わることができなくなってきて
いつの間にか距離ができてしまった。


だって可愛すぎるんだもん?!

人間ちゅわんはみんな可愛くて大好きだけど
ナマエちゃんへの感情は少し違っていて
それが恋だと気付くまではそう時間はかからなかった。

ただ認識してしまうと
これまでの様に、気軽にナマエちゃんにお話したり、触れたりすることに抵抗ができてしまった。

「ナマエちゅわん・・」




ある日の昼下がり。
仕事が早く終わった私は、カラフルを訪れた。
いつもの仕事終わりは日も暮れており暑さはそこまで感じないが
今日はまだ太陽も高い位置にあり、じりじりした太陽の光が肌に突き刺さってくる。

この暑い中を休憩無しで家まで帰る元気はないので、涼みがてらヤツデさんのサンデーを食べにきたのだ。

暖簾をくぐり中に入ると店内はいつもの様子と違い、しんとしていた。
静かな店内に1つの声が響いた
「いらっしゃいま・・あっ・・!」
ガオーンさんだ。しかもバツの悪そうな顔をしているような気もする。


他の皆さんの所在を訪ねると
今の時間はお客さんも少ないので、やつでさんは買い出し、介人さんは配達。他の皆さんは休憩に行っていたりでかけていたりでガオーンさんが1人で店番をしているらしい。


そうなんだ、と返事を返した。
何か気の効いた話題を振りたいけれど、最近あまりガオーンさんと話す事が無かったので、何を話したら良いのか頭を巡らせるが、これと言った話題が思いつかない。

忙しく騒がしい私の頭の中とは裏腹に店内には静寂が流れた。


(気まず過ぎるっ)




店内には空調のみが鳴り響く。


「あー・・、私またやつでさんがいる時に出直そうかな!失礼します。」

「ま、待って!」

やつでさんがいないとサンデーも食べれないし、気まずさに耐えきれなくなった私は帰宅を選んだが

それはガオーンさんに止められてしまった。
なぜ呼び止めるのか?
真意が分からないので、振り返り彼の表情を伺おうとするが来た時と同様で少し困ったような、焦った表情しか分からない。


「あっ!そうだ!今日はナマエちゃんが前来た時に売り切れてたお菓子が入荷から食べていかない?」

「へ・・?」 

明るい声でそう言いながらガオーンさんが持ってきてくれたのは私が前にお店に来た時に売り切れで買えなかった駄菓子だった。



その駄菓子を片手に、お店のカウンターへと案内される。
私を椅子に腰掛けを下ろすとガオーンさんは一つ席を開けて同じ様に腰を下ろした。
そういえば、こんなに近くにガオーンさんが来るのって久しぶりだなぁとぼんやり感じながら私は呟いた。

「これ買おうとしてたこと、よく覚えてますね・・」 


確かにこの駄菓子が欲しかったのだが、そのやり取りをしたのはマジーヌちゃんとだったからだ。


「マジーヌちゃんから聞いたんですか?」

「へ?!あ、そうそう!マジーヌから・・・


いや、あの・・本当は、ナマエちゃんがどんな事話してるか気になってたから、離れたところから聞いてました・・。」


バツの悪そうに恥ずかしいそうに、手で顔を隠して頭を垂れながら白状するガオーンさん。



「勝手に話聞いてて、気持ち悪いよね?!」
「いや、気持ち悪くはないですけどっ!なんでだろうーとは思ってますけど」

「?」



「ガオーンさんは他の人には、たくさん話しかけたり撫でたりするけど、私にはしないから嫌われてるのかなぁと思っていたので・・」


話の流れ的に、聞いても良さそうかなと思い
かねてより気になっていたことを直接彼に聞いてみることにした。


「嫌いなんかじゃないよ!」

と言いながらガオーンさんは身を乗り出して続けた。




「最初は、他の人間ちゅわん達と同じでキュートで可愛いなって思ってたんだ。

だけど、いつからか君の顔を見るだけで緊張したり、ドキドキしたり何話していいか分からなくなったり!!」

だから、最近は少し避けちゃってたんだ。

そうだったんですね・・、と落ち着いて相槌を打ってみたものの

私の心の中は大混乱だ。

これは、告白されているの?!なんなの?!


「それは私の事を好き・・とかいうことでしょうか?」
「好きだよ!大好き!」

更にずいっと身を乗り出して、私の目を見つめて肯定の言葉をくれた。

しかし、避けられていると思っていた相手からの突然の告白なんて初めての事で頭がついていかないのだ。


「とりあえずっ・・!私はガオーンさんの事をもっと知りたいです。なので、前みたいにお店に私が伺った時はお話したり、とかから始めませんか?」


「僕、緊張しちゃったり、距離感わからなくなっちゃう時もあるかもしれないんだけど!嫌じゃない?」

「大丈夫ですっ!避けられる方が寂しいです」


そっか、とガオーンさんは呟いた。


そしてガオーンさんは私の頬の横。触れるか触れないかの距離に手を添えた。

「ほんとはずっと、こんな風に近くでしゃべりたかったし
触れてもいいなら君に触れたいなと思ってたんだ」

突然の事に驚きつつも、恐る恐るガオーンさんの顔を見る。
いつもお店で見ていた人無っこい表情とは違った、真剣な眼差しに私の胸はとくんと跳ね上がった。


「触ってもいい?」


どきどき鳴り止まない胸を落ち着かせながら、返答を考えていると
彼の手が私の髪を優しく撫でた。



「可愛いね、ナマエちゃん」
緑色の目を細めて、幸せそうな顔で名前を呼ばれる。



胸の鼓動は高まるばかりで

空調の音はもう聞こえない。



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