運命とやらが憎い毎日
運命とやらが憎い毎日
*転生/現パロ/男主(へし切長谷部→長谷部国重)
ぼくには前世の記憶がある。
政府に徴集されて、審神者になって、刀剣男士を従え戦った記憶。それを思い出したのは小学5年生のとき。10歳にもなれば好きな女の子だっていたし、サッカーや野球などの外で遊ぶことが大好きだった。
前世のぼくは女の子だったから思い出した時は随分と混乱したけれど性別の違いは大きく、前は前、今は今。前世のわたしと今世のぼくを混合することはなかった。
相変わらず好きな女の子がいて、昼休みには友達とボールを追いかける。くだらない下ネタだって笑って話すし、給食もいっぱい食べた。
人より少し頭が良くて、女心のわかる男の子。高校生になるまでのぼくはそれだけのどこにでもいるようなただの少年だった。
ただ家から近いからという理由で入学した高校は、やはり地元だからか知った顔がたくさんあった。中学時代の先輩に一緒に馬鹿やった友人達。
ここでもぼくは変わらずに生きていく筈だった。新しい彼女を作って、ちょっと悪いことしてみたり、アルバイトだって。
あれこれやりたいことを数えながら、男子トイレのドアを押す。そこでぼくは見つけてしまったのだ。
終わりの見えない戦争、泥と血に塗れてそれでも尚、わたしの隣で常に輝き続けた愛刀を。
へし切長谷部。
その姿を確認した瞬間、ぼくは盛大に噴き出して大笑いした。呼吸がうまくでなくて、頬もピクピクと痛み悲鳴を上げたが、もう、可笑しくて仕方なかった。
長谷部はもう少し少女漫画を読んで乙女心を勉強するべきだ。といっても、ぼくは乙女でも何でもないので勉強した成果を見せられても困るのだけど。
それにしたって、前世で支えあってきた主と刀の運命的な再会がまさか男子トイレなんて!
小学から集英、白泉に秋田も白眼を剥くぞ。
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あれから2年が経った今、ぼくと長谷部はクラスメイトとなり割と仲良くやっている。ひとつ困ったことを挙げるなら、ぼくが彼を好きになってしまったという事だろうか。
彼の飾らない態度が好きだ。
ぐちぐちと小言を連ねる癖に、最終的には手伝ってくれる優しさが好きだ。
実は笑うと可愛いところも。
案外家庭科が苦手なところも。
走っている時の顔つき、うつくしい藤の瞳。
気付いた時には好きな所ばかり考えていて、泣きたくなった。
「まだ残ってたの、長谷部」
「…ああ、なまえか。」
「なんだよ、ぼーっとしちゃって」
教室でひとり、何をする訳でも無く座っている長谷部はどこか様子がおかしかった。
いったい何を考えているのか、藤の瞳からは感情が読み取れない。
ざわざわと妙な胸騒ぎ、焦り。
ーーー嫌な予感がする。
「……夢を、見た気がする。思い出せないが酷く懐かしかった。俺は、…あの人は、」
背筋に冷たい風が通り抜け、身震いする。動悸が高まり呼吸も荒くなった。
ああ、だめ。だめだよ。それを思い出してはいけない。やめてくれ。きみはもうへし切長谷部ではないし、ぼくだって主ではないんだから。
あの時トイレで出会った長谷部は自分のブツを見て大爆笑されたと勘違いして怒る、至って普通の男子高校生で前世の記憶は無いことがよく分かった。へし切長谷部よりも短気で、ちょっと子供っぽい。効率厨だけど、主、主命が なんて、そういった話をされたことも無い。
ほんと、どうして今になって。
思い出したって良いことない。かつての自分が持っていたものは全て失くしたのだ。
へし切長谷部が褒めた長い黒髪も、高い声も、やわらかな身体も。
彼が求めているのはぼくではない。
記憶を取り戻したらきっと彼は探し始めるだろう。
自分が居るのだからきっと審神者も転生している筈、と。どこにも居ない主を探し続けるのだろう、……ぼくを放って。
息苦しい。まるで光も届かない海の底に沈んでるみたいだ。真っ暗でどれだけもがいても水面には浮かべなくて、鉄の重りでも繋がれてるのかもしれない。ああ、死んでもなお彼の心を縛り付けるあの女が憎くてたまらない。
ちょうだい。へし切長谷部はおまえにあげる。だから、長谷部国重をぼくにちょうだい。
「おい、なまえ。どうかしたか?」
ぼくが思考の海に溺れている間に長谷部は帰る支度を終えていたらしい。先程までのぼんやりとした表情はすっかり消えて、眉間に皺を寄せぼくの顔を覗いてくる。顔の近さにドキリと心臓が飛び跳ねた。
「いや、なんでもないよ。」
醜い感情を押しとどめて鍵をする。
どうかこの汚い恋心に気付かないで。
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