3杯:水曜日
鼻を突く青臭さに吐き気が込み上げる。溜めた唾液を垂らし、その凶悪な熱に舌を這わす。口の中に広がっていく苦味にテネシーは眉を寄せた。
「ただ舐めるだけじゃ終わらんぞ」
「…わかってる。少しは静かにできないの」
「まさかこれ程出来ないとは思っていなくてな…。バナナかキャンディーを舐める練習から始めた方がいいんじゃないか」
「ならバナナでもなんでも買ってきて。…それか、貴方がお手本でも見せてくれたら上達するんじゃないの。咥えて見せてよ。あの黒くて硬い、熱い塊を」
冷たく言い放ち視線で挑発。ベッドから数歩離れた机の上、乱雑に置かれたテネシーのベレッタM92が黒く光り、存在を主張している。離れようとするテネシーの手首をライが掴み力任せに引き寄せ、圧を加えれば呆気なく折れてしまいそうな細い指をぺろりと舐め上げた。
「っ、な、に…!」
「手本を見せろと言ったのはお前だ」
至近距離で鋭い視線をテネシーに投げながら、リップ音を響かせる。指の付け根、水かきを舌先で優しくゆっくり、見せ付けるように舐められればびくりと肩が揺れた。皮膚が薄いため、感じやすい場所のひとつだ。
白い顔、黒い髪、赤い舌が絶妙なコントラストを描き、見てはいけない物を見ているような、そんな錯覚を起こした。
「ん、…ぁ…っ」
どれ程そうしていただろう。たったの数分かもしれないし、1時間以上経っているような気もする。熱い舌で溶かされた指先はべたべたに濡れて微かに震えていた。
そのまま昂りへと誘導され、ひと回り大きなライの手のひらに覆われて握らされる。
唾液が潤滑剤となり、手を動かす度にずちゅずちゅといやらしい水音が耳に届いた。亀頭、竿、陰嚢。順に触れてその感触と相手の反応を頭に叩き込む。
「手本は見せただろう…出来るな?」
一度目を伏せる事で了承の意を示し、唇を寄せた。やっぱり、苦い。
ライの舌の動きを思い出して、竿は大胆に舐め上げ同時に右手で上下に擦る。子猫のようにチロチロと舌先で亀頭を撫で、そのまま裏筋へ移動すればカウパーがじわりと滲んだ。
ライが反応してくれている、その事実はテネシーの沈んでいた気分を浮上させていった。
私だって、これくらいやれば出来るんです…!やられてばかりでは終われない、確実にテクを習得してみせる。
そのまま勢いに乗って大きく口を開けた。見ただけでも大きいことは分かっていたけれど実際に口に含むとその太さ、長さがよく分かる。既に顎が痛む。
「視線は絡ませろ、もっと唾液を出せ。歯は立てるな」
言われた通りにライを見上げ、口の中に唾液を溜める。ライの言う通りにするのは癪だけれどそれがハニトラ修得までの一番の近道なのだから仕方ない。
じゅぶ、じゅぷ、
たっぷり含めた唾液が上下運動を滑らかにし、口の端からもだらりと零れては顎を伝い、ライの陰嚢へと落ちていった。
「ん、ぐ…っ、ふ」
強弱を付けながら吸い付き舌の腹で半円を描く。ライの手がテネシーの頭へ降り、優しく撫でて耳元に滑り落ちた。擽るように触れるその手が妙に心地いい。認められているのだろうか。……それは、ちょっと、うれしいような。
そこでハッと考え直す。いやいや私は何を…。
今こうして太陽が眩しい昼間っからライと致しているのは仕事のためだ。どうやら昨日散々酷くされた後のこの甘さに思考が正常さを失っているらしい。ハニトラのあれこれを学んでいる癖に自分が嵌ってどうする。必要の無い感情を追い払い、眼下のそれに集中した。
最初よりも確かに大きくなっているライの自身は赤黒くグロテスクで、とても硬い。これが昨日、自分の処女を突き破ったもの。
「随分余裕そうだ、な…!」
「ぅあ"…!」
ガツンと喉の奥を突かれ、言いようのない嫌悪感と吐き気が身体中を駆け巡る。昨日のうちに自分でも驚く程泣いたと言うのに、また涙が浮かんで視界がぼやけていく。
「セックス中に余所事考えていればすぐに分かる、しっかり集中しておけ」
「っ、んん…ふ、…!」
「…っ、出すぞ…!」
熱い精液がそのまま喉へと流れ込んでいく。生玉子の白身を薄くしたような、妙に粘ついたそれは生温く独特のエグみがあってやはり気持ちが悪い。未だ外されることのないライ自身のせいで咥内に溜まっているものも吐き出すことは出来ず、とうとう全てをこくりと飲み下す。
ズルりと抜けても長時間開き続けていた口はすぐに閉まってくれず、テネシーは荒々しく口元を拭ってシーツに蹲った。
それでもふとした時に繰り返す胃の中が逆流するような吐き気は治まることは無い。
「…さいっあく…!」
「ターゲットにそんな罵声を浴びせるつもりか?」
「〜〜〜!…大変美味しゅうございました!!」
投げ渡されたペットボトルの蓋を開け、喉のイガイガを洗い流すように水を飲む。ちゃぷん、揺れる水が太陽の光を浴びてきらりと輝いた。それを眩しげに眺めてからいそいそと真白いシーツを被り、はあ、と深く溜息を吐く。
「あのテネシーの素顔がこんなに表情豊かとはな」
「…なんのこと」
「そんな演技も今更だろう。バーボンは知っているのか?」
「なんでバーボンが出てくるの」
突然出された彼のコードネームにどきりと心臓が跳ねた。ライはこちらを見てはいなかったけれど、この動揺は悟られているだろうか。
「常に無表情のテネシーがバーボンの前でだけ表情が微かに動く。コードネーム持ちで気付かない奴は居ないだろうな」
「…は、い?」
まさかの言葉についた素が出てしまったがそれ所ではない。
だって、それは、つまり。
「お前がバーボンに向ける恋愛感情は全員にバレている、という事だ」
叫び出さなかった私を誰か褒めて欲しい。
私が、いやテネシーがバーボンを好きだと組織内に知れ渡っていた。スコッチやベルモット、あのジンにまで。そして恐らく、本人にも。
最悪だ。潜入捜査している癖に色恋なんかに現を抜かして、きっと自分が知らない所で降谷さんに迷惑を掛けたり足を引っ張ったこともあるだろう。
次会うとき、いったいどんな顔をしてーーー
『僕にも好みがありますので』
『バーボンに振られたらしいな』
私が好意を持っていることに気付きながらも、彼はああ言った。つまり、ライが言った通り私はもう振られているのか。告白もしていないのに。バーボンの言葉全てが降谷さんの言葉だとは思っていないが、告げられた言葉を思い返して胸がズキズキと痛む。
「今にも死にそうな顔だな」
「…貴方はいつもより随分饒舌ね」
ギシリと大きくベッドが軋み、白いシーツに大きな影が落ちる。
「辛いなら忘れさせてやろうか」
「冗談はやめて、これは仕事。バーボンの事ももうどうだっていい」
だいたい貴方彼女がいるでしょ、とあしらって瞼を下ろし降り注ぐ唇を無感情に受け入れる。降谷さんには振られてしまったし、もう初めては好きな人に、と夢見る処女でも無い。
ライがこの相手役を買って出てきたのは幸運だったかもしれない、ベッドの上で、ライ本人に教わる事をすればいいのだ。組織の凄腕スナイパー、ライ。公安でもこの男の情報をそう多くは掴めてはいない。甘い蜜で惑わせて、弱味を引き出す。そして、その血濡れた手に鎖を付けてやる。
「ライ…ん、っ」
とうに濡れそぼったそこはライの指を簡単に飲み込んでいった。ぐちゅぐちゅと音を鳴らして掻き回されれば荒く乱れる呼吸。腰が卑猥に揺れ、体が熱く火照る。
「ひぁ…あ…!」
「昨日は入れてなかったな、…今何本だ?」
「ん、…わかんな…っに、ほん…?」
「3本だ」
膣でばらばらに動く指はどうやら3本入っているらしい。さらに親指で秘豆を弄られ、テネシーは甲高く啼いた。
「あぁ…っん、」
逞しい首筋に腕を絡ませ縋り付き、キスを強請る。互いの舌を透明の糸が繋いでは垂れていった。
びくびくと震える太股に当たるとびきりの熱。 その存在に気付き、昨日の激痛を思い出す。一瞬止まった呼吸と固まった身体に気付いたのだろう、ライがまるで赤ん坊にでも触れるかのように優しく下腹部を撫でた。
「怖がるな…力を抜け」
「は、い…!」
くちゅりと粘っこい水音を響かせそれはゆっくり挿入される。昨日よりも濡れており、丁寧で優しい愛撫のお陰か、確かに痛みはあるものの昨日ほどでは無く、感じるのは腹に入る異物感と少しの快感。
「いぁ…っん、はいっ、た?」
「あと半分、だ…」
狭いなと零して再び腰を進めるライの表情は初めて見るものだった。眉を寄せて汗を一筋垂らす、余裕の無いような。
思わずドキリとして、膣がきゅんとライを締め付ける。ぐ、ぐ、と押し進み、最奥に届いた頃にはテネシーの息は絶え絶えで、ライの背に爪痕を刻んでいた。
そのままの状態できつく抱きしめ合い、テネシーが慣れるまで動くことも、何か言葉を発する事もない。
じんじんと腰から全身へ伝わる甘い熱に浮かされたテネシーがライの耳元に唇を寄せる。熱い吐息、掠れた声が直にライを刺激した。
「ライ、う、ごいて…」
その言葉を受けると長めのストロークでゆっくりと出し入れを始める。昨日レイプ紛いなことをした男と同一人物とは思えないような、甘くて優しい動きだ。
完全に抜けるぎりぎりまで引き、軽くツンツンと突かれ、少し物足りなくなれば奥まで力強くねじ込まれる。昨日処女を卒業したばかりで、まだ2回目だと言うのにテネシーはしっかりと快感を拾っていた。
「あっ、や、奥…だめ…んっんん!」
腰がぶつかり合って二人の汗が飛んだ。時たま触れられる乳首が刺激を待つようにツンと天井へ向かっている。
擦れる肌が気持ちいい。昨日とはまるで違い、ぐずぐすに溶かされるような快感にテネシーは身体が飲み込まれていくのを感じてキツく瞼を閉じる。どこまでが自分で、どこからライなのか。
途絶えることのない刺激と、全身を大きく揺さぶるピストン。それらは確かにテネシーを高みへと導いていく。
乳輪を焦らすように舐め、飾りを甘噛みされれば、荒らされる花弁から甘い蜜が泡立ちながらも零れ落ち、シーツを濡らしていく。
暴力的とも言える快楽に腰が浮き、爪先がピンと伸びた。段々と視界が白く灼かれて呼吸が止まる。挿入したばかりの優しさはとうに消え、痛い程に腰を掴み奥を食い荒らす様はまるで狼だ。黒くて、美しい、狼。
赤くふっくらと腫れ上がった尖りをぐちと潰された瞬間、溜め込まれていた熱が爆発した。
「あっぁ、な…に、ーーーぁあああっ!」
背中が弓のようにしなり、チカチカと光が瞬く。かつてない快楽の波に飲まれて全身がピクピクと小刻みに震える。絶頂感に膣がうねり逃さないとばかりにキツく締め付けた。
「…く、」
ごぷりと音を立てて引き抜かれ、愛液に濡れたままにはくはくと開けるテネシーの口元へ。余韻に喘ぐテネシーは抵抗も出来ずにそれの侵入を許してしまった。
数秒前まで自分のナカにあったもの。自分の愛液を纏ったそれはドクリと大きく脈を打ち、テネシーの咥内に勢い良く子種を放つ。
「ふ、くっ…んんー…っ!」
本日2度目になる精液を無理矢理飲み込み、咳き込んだ。口の中が粘っこくて気持ち悪い。
「吸い付いて全て綺麗にしてくれ」
反抗する気力も無いので言葉に従ってかすかに残る精液を全て優しく吸い、ゆっくりと全体を舐めていく。
ライの熱い吐息がやけに耳に残った。