4杯:木曜日
「ひあ、あ、…っやあ、ん…ぁああ!」
「…イク時は言えと教えた筈だが」
「やっ、ごめんなさ、…あ、ぁっ」
達した後にも続けられる刺激がテネシーに追い討ちを掛ける。ライの指は未だ深くまで潜り込み、激しく水音を鳴らしていた。
「あっぁ、ふ…ま、また…いっ、ちゃ……!んんぁ、あ、いっいくイッちゃう…〜〜〜!」
腰が大きく浮き、内腿が痙攣する。連続した絶頂にテネシーは教えられた通りの言葉を紡ぎ、ぜいぜいと喉を鳴らした。
この部屋で迎える三日目の朝。
大きな雨粒が窓ガラスを叩き、空は厚い雲に覆われどんよりと暗い。部屋の中には甘ったるく淫猥な空気が広がり、ベッドの上ではテネシーがきっちり仕込まれた快感に体を震わせている。
「ん、…はぁ、ライ…お願い…入れ、て」
「ふっ、…随分と媚びるのが上手くなったじゃないか」
「っね、はやく…」
奥を突かれる気持ちよさを知ってしまったテネシーは、切ない物足りなさから腰をくねらせライを誘うが、彼はその様子を鼻で笑い冷たく見下ろした。
「お相手したいのは山々だが、今日はこれから仕事がある」
「…っなら、さっさと行ってきて…!」
自分にできる精一杯の誘惑を軽くあしらわれ、カッと頭の中が煮え滾る。誘う言葉に被せた甘い色を瞬時に消し、ライから遠ざかるようにシーツの海に顔を埋めた。着実にハニトラ技術は上がってきているのは感じるが、未だにこの男のスカした顔を崩すことは難しい。
「中が寂しいんじゃないのか?」
「……だまって」
確かに期待していた膣はきゅんきゅんと硬い猛りを待ち侘びているが、そんなものは時間が経てばすぐに治まるだろう。何でもいいから早く出ていって、と念じるものの、ライはその願いに反してテネシーが包まっていたシーツを乱暴に暴いた。
「なにっ」
突然明るくなる視界に驚きとっさに拳を構えるが、その手はあっさりとライに捕まり拘束される。背中で両手を束ねられ、カチャン、嫌な金属音。みょうじなまえが良く聞き慣れたものだ。背筋に嫌な汗が伝う。
ーーまさか、自分が、犯罪者に手錠を掛けられるなんて……!
大きく腕を動かそうとも、更なる金属音が鳴り響くだけで自由が利かない。組織の幹部相手に気を抜いていたことを自覚させられ、ぐっと唇を噛み締める。
「一体どういうつもり?」
「相手にどんなプレイを要求されようが応えれるようにしておくべきだろう?」
「何を言って…、ちょっと、その手に持ってるのは…」
「ああ、見るのも初めてか」
右手に真っ黒のアイマスク、そして左手にはーー。
「……今日のスリーマンセルは俺とスコッチ、……バーボン。仕事後にアメリカン・ウイスキーを呑むもまた良いと思わないか?」
「ーー!!」
「ふ、ーー!……ぅ…っ」
これ程誰かに殺意が湧いたのは初めてだった。
右も左も分からない暗闇の中、ただ無機質な機械音と激しい雨音、自分の荒い呼吸だけがテネシーの耳を犯す。自身の中を抉るバイブは規則性無く動き回るが決して外れないように固定されている。両胸にもキツいピンクの飾りが付けられ、じくじくと腫れた乳首を責め立てていた。
「う"ぅ…んぐ…!」
無理矢理嵌められた猿轡のせいでライへの罵声も出てこない。顎どころか、首にまで唾液が伝ってべたべただ。
頭の中がライの言葉で埋め尽くされる。
仕事終わりに3人でアメリカン・ウイスキーを?死ね!逮捕なんて生温いことはやってられない。いますぐ殺してやるべきだ。
きっとあれは唯の脅し。テネシーの反応を見て楽しんでいるだけ。
………本当に?
もしライが言ったようにバーボンとスコッチが連れてこられたら…。考えただけでゾッとする。尊敬する先輩とずっと好きだった上司。昨日潰した筈の恋心が軋み、悲鳴を上げた。当然だ、たった1日で簡単に消せる様な想いではないのだから。
バーボンはライが好きではない。ライからの"誘い"に乗ることは無い、とは思うけれどーー。
こんな姿を見られるなら死んだ方がマシ…!
「うぅーー!」
涙を吸ったアイマスクがじっとりと重い。熱を持たぬ機械にされるがまま、何度目かも分からない絶頂がテネシーを襲う。達する度にその感覚はどんどん短くなっていき、少しずつ確実に狂わせていった。ライだろうがバーボンだろうがもういっそ誰でも良い、早くこの部屋に帰ってきて終わりの見えない快感から解放して欲しい。例えその後にライの手垢が付いたみょうじなまえを忌み嫌うようになったとしても、既に失恋確定しているのだから喪う物も無い。
「ッ、ん"、…ぐ、ふ…!」
徐々に遠のき始める意識の中で、静かにドアが開く音を聞いた。
「あら。いやね、まさかライにこんな性癖があったなんて」
「任務完了、お疲れさん」
「この程度の仕事ならスナイパーは1人で充分でしたね、スコッチ」
「バーボン、そうやってすぐ突っかかるのやめろって」
にっこりと甘いマスクで吐かれる毒をさらりと避け、仕事を終えた今、ライが考えるのはホテルの一室で身を悶えさせながら己を待つ女のことだった。玩具には買ったばかりの乾電池が入っている、たかが数時間程度で落ちはしないだろう。自分よりも後にコードネームを貰ったという点では組織の中枢とは程遠いだろうが、テネシーはあのベルモットに気に入られている。そして、この男からも。
「服に臭いが付きます、煙草は解散してから吸ってくれません?」
「……ふ、」
「何笑ってるんですか、気持ち悪いですよ」
「珍しく機嫌いいんだな。何かいい事でもあったのか?」
「ああ…近いうち、良いウィスキーが手に入りそうだ」
冷めた態度を取りながら、分かりやすいテネシーからの想いを撥ね付けないのはバーボンも彼女に何かしら思うところがあるから。憐れなことだ、まさか俺がテネシーの身体を暴いているなんざ、バーボンは考えてもいないだろう。
ベルモット、バーボン。スコッチは誰にでも気さくな態度を取るため不明だがこの2人に気に入られているテネシーを、手駒にするメリットは高い。作られた表情に言葉遣いはノックを思わせるが、もしそうだとしても活用方法はいくらでもある。あの普段の冷たい表情とは裏腹に、快感に弱くぐずぐずになった身体を融かし甘やかせば堕ちるのは恐らく一瞬だ。
「そりゃ良いな、あー俺も飲みたくなってきた」
白く柔らかな肉と艶やかな喘ぎ声。甘い吐息。なによりあの強い意志が溶けて潤んでいく彼女の瞳を気に入っている。
悪いが、アレを他人に飲ませるつもりは毛頭ない。
カードを翳し、ドアを開けた先で待っていたものは快楽に犯され身を捩るテネシーではなく、1人で寝るには大きいベッドの上ですやすやと眠る彼女だった。
テネシーの身体を拘束する鎖はそのままに、ライが付けた筈のアイマスクや玩具だけが取り払われている。本人が取るのはまず不可能、誰かが侵入したと考える方が容易いが、テネシーの胸元に咲く紅でそれも特定できる。
………ベルモット、余計な事を。
綺麗に並べられた玩具の中にふたつ、使った覚えの無いそれはベルモットがテネシーと使用したものだろう。レズビアン用の双頭ディルドとペニスバンド。
ぐずぐずに溶けたテネシーとさぞや楽しく甘い時間を過ごした筈だ。
「…チッ」
刺々しい殺気で身体が跳ね起きた。
「…っ、ライ…」
テネシーを見詰める双眼は常より鋭く、今にも身体が凍りつきそうだ。目が覚めた今、周りを見渡して状況を把握する。明るい視界、並べられた玩具、黒いコートを着込み肩に商売道具を背負うライは仕事から帰ったばかりだろう。その彼がテネシーをあの悪夢から解放したとは思えない。うっすらと頭を過ぎるのは砂糖菓子のように甘い"彼女"との戯れ。
「ベルモット…!」
あのドアが開く音、その後の女の声。全て、思い出した。
「…あの女に貸した覚えはないが」
「なに、その言い方。私はあくまで仕事の為に貴方に抱かれているだけ。…それに、ベルモットとのセックスは随分勉強になったしね」
言葉にするのも恥ずかしいが、本当に気持ち良かったのは事実。蕩けた身体はベルモットの優しく愛でるような愛撫に過敏に反応していて、あれは女相手だからこそのセックスだったと思う。百戦錬磨のベルモットからすれば先日処女を卒業したばかりのテネシーなど、赤子同然だろう。
突き刺さる男の視線は変わらない。何に苛立っているのか知らないがいい加減にして欲しい。まだ昼だと言うのに、ひどく身体が重い。
「ホォー、…ならその成果を見せて貰おうか。男の機嫌くらい簡単に取ってみせろ」
朝からほぼ絶えること無く暴かれ続けたそこはいとも簡単にライを飲み込み、締め付ける。
「はっ、…んん…くっ」
痛む腰を振る度にじゅぶじゅぷと音が漏れ、口からは熱い息が吐き出された。テネシーの下で赤く染まる彼女を見る男に腰を振る意志は欠片も無く、しかしその緩やかな動きには不満げに眉を顰めた。
「その程度で満足するとでも?」
「や、だって…もうっ動けな…!あついぃ…っ」
ライに嵌められ、ベルモットと戯れた玩具などとは違う、そう動かずとも感じる確かな熱がテネシーをじわじわと追い込む。震える足を立て再び腰を浮かし、落とした。
ずちゅっ、
「…ぁあ…!」
テネシーが出来上がっているのに反してライはいつも通り、なんとも無いような無表情。一時間程前には噎せ返るほど甘いセックスをしたからか、それが妙に寂しかった。
もっと触れたい、触れてほしい。こんなことなら、苦しい程に求められた方がずっといい。
やらしいことをしすぎて、とうとう頭が可笑しくなったのかもしれない。ちがう、これは仕事だから。仕方ないことだから。くたりと力の入らない腰はそのままに、錠の外された右手を男の痩けた頬に添える。グリーンアイは組織の銀色と同じものだが、どこか違う。あの男よりも、もっと深く、ずっと美しい。そっと瞼に唇を寄せ、次いで唇に。数回バードキスを繰り返し尖らせた舌で薄い唇をちょんとつついた。開かれた唇からライの咥内へと侵入し、教わった通りに深く吸い付いていく。
「…っん、は、ライ、動いてくださ、い…貴方が、欲しい…です」
もはや自分が何を言っているのかも理解出来ずにいた。熱に浮かされた脳が勝手に唇を動かしライを誘っている。
「ひぁ…!」
テネシーは自分の中で膨張したそれに反応し、身体を揺らす。
そして間を置かず、ガツンと下から強烈な衝撃。ぐぢゅっ、激しく穿たれ大きな水音を鳴らした。逞しく割れた腹筋に手を置き揺さぶられる身体を支えるもすぐに崩され、ライの上に覆いかぶさる。
「ぃ…っ、あ、あっ、ラ…イィ…!」
「…は、…っテネシー…」
ぶわり。耳元で罪深いコードネームを呼ばれただけで全身の毛穴が開き、ぞくぞくと鳥肌が立つような感覚。
「な、あ、あああぁ…!」
腰がビクビクと揺れ、訳が分からないうちに絶頂へ。まさか、コードネームを呼ばれただけで。自分でも信じりないが、ライからしても想定外らしく珍しく目を見開き、そして再び細め、笑った。
ふ、と吹きかけられる息は温かい。そして甘噛みされ、唾液を絡めた下が耳へと入ってくる。ぴちゃ、ぴちゃ、直に聞こえる水音は脳を揺さぶり、テネシーをさらに淫らにさせた。
「ひぁ…も…、耳はだめっ、です…!」
止まらぬピストンと首を逸らしても追いかけてくる舌は容赦無くテネシーを高みへと追い込んでいく。そして勢いよく膣の奥深くまで抉るように穿たれれば背筋がしなり、震え始める。
「子宮が下りてきた、…分かるか」
「やあ!あ、あ、…そこはぁ、…っ」
最奥を擦るように、小さくノックをするように愛撫されぞわりと違和感が身体を駆け巡る。
「ひ、こわ、…こわいですっ、やだ…ぁ」
激しかったピストンは形を潜め、緩やかに子宮口ーーポルチオをこねていく。ゴツゴツと突かれない分、酷い痛みは無いが、本能的に恐ろしくて堪らない。こんな所を無理矢理暴かれたらきっと壊れてしまう。
ぼろぼろと大きな雫を落としてライに乞う。
「おね、おねがい…やだっ…むりですっ…っひ、ぁ、ライ、らい、たすけてぇ…」
「…ああ、心配することは無い。ゆっくり時間を掛ければ気持ち良くなれる。…気持ちいいことは好きだろう」
「すき、すきだけど…っ、あ、ぁ、やぁ…」
控えめな粘着音を上げながら、少しの痛みと少しの快感。
ゆっくりとぎりぎりまで抜かれ、そしてゆっくり押し入ってくる。少しずつ、確実に、最奥まで。ピタリと恥骨同士が重なり、完全に全てが入れば同じタイミングで熱い息を吐いた。
閉じていた瞳を開いて深い緑を見詰め、どちらからとも無く唇を寄せる。互いの息を奪い、食らいつく濃厚なキスはまるで愛し合う恋人同士のよう。
「んっ、ふ…ぁ…」
その間もぐちぐちと優しくポルチオを責められ、テネシーはもう限界だった。濡れた睫毛が震え、吐息は一層荒くなる。それすらもライに貪られてしまい、なんとか腕を動かし男の骨ばった指に絡めた。
それを拍子に緩やかな動きから一転、奥は突かれないものの激しいピストンが再開される。
「っ、ん、ん、…ぷは、い、いく、ライっ、も…っ、イッちゃう…!」
「…は、受け取れ…!」
「え、だ、だめっ…!抜いて、やあ…!あっぁああ!」
何度達しても慣れぬ絶頂感に苛まれながらもライの上から退こうと腰を浮かすが、大きな手でがちりと捕まれ抑えつけられる。そして腟内では脈打つ陰茎が熱を放った。
互いの汗と濃い性の臭いが鼻をつく。
「さいて…い、中に出すなんて…!ほんと、死んで…」
ついさっきまで素直に喘いでいた女とは思えないような強がる憎まれ口にライはうっそりと笑った。
「ベルモットからの置き土産だ。孕みたくないなら飲め」
「…ベルモットから?それ、本当に唯の避妊薬なの」
「さあな、だがあの女はお前を気に入っている」
「それもそうか……」
渡された錠剤を飲み込めばライが口移しで水を運んでくる。ついでとばかりに舌を嬲られ、満足げにベッドから離れていった。
自分のお腹に、ライの精子が入っている。どこか受け止めきれないその現実を、少し身体を動かしただけで溢れる白濁がみょうじなまえに突き立てていく。
そう言えば、枕元に置いた筈の避妊具は見当たらないし1度も使われた試しもない。
はあ、大きく溜息を吐いた。まだ3日目、まだ木曜日。明日が月曜日になればいいのに、なんて。
このままこの部屋に居たら可笑しくなりそうだ。
いや、たぶんもうーーー