5杯:金曜日
選べ、と差し出されたのは怪し気なカプセル三種。誰がどう見ても飲んだら死ぬ系の薬だ。或いは中毒になって狂うもの。
「いや、私まだ死にたくないんですけど…」
「毒薬ではない」
じゃあ一体何の薬か、と視線で問えば答えられた三文字の言葉に聞いたことを後悔した。
服用した人間の性的興奮を高める、所謂媚薬。組織の研究員が開発したというそれを差し出してきてどういうつもりか。いや、答えなどはじめからひとつしかない。テネシーが飲めと、そういう事だ。
これは分かりやすいカプセルだが、媚薬の殆どは液体やジェル状のもの。ハニトラ相手にこっそり仕込まれればそれは酷いことになるのは目に見えている。確かに一度、経験しておくべきだとは思うが、いかんせん怖すぎる、いろんな意味で。みょうじなまえの、素の顔を見て怪しんだライが疑わしきは罰する方式で殺しにきている可能性も無きにしも非ず。
そして、これまでの三日間で随分と乱れているというのにこれ以上感じてはどうなってしまうのかという未知への恐怖だってある。
テネシーはそのカプセルの乗った手の主、ライを見上げた。
「……」
「……」
ライと関係を持ってから今日で4日。相変わらず何を考えているのかは分からない。言葉が多くないライから得られた情報も無く、それでも何か変わった事を挙げるとしたら。
ーー絆されかけている。この、血も涙もないような、何のためらいもなく人を殺す犯罪者に。
触れ合う肌の熱と、荒くなる呼吸。彼も人間だったのかと当たり前のことを確認し、体を重ねる毎に距離が縮まっていくような、そんな馬鹿みたいにな錯覚を起こしているのだ。勿論降谷さんのことはまだ好きだし、そもそも相手は世界規模の犯罪組織の幹部でありその頭のてっぺんからつま先まで黒い闇に染まっている。…それに、彼女持ち。いや待って、待て待て待て待て、私は、一体何を考えているんです?
カッと頬に熱が集まり、口を手のひらで覆う。ライは訝しげに眉を寄せたが構っている余裕は無かった。
確かに絆されかけていると自覚はしている。でも、それだけ。彼とどうにかなりたいなんて、いや、既にどうにかなっているけれど、これは仕事で、…ああ、もう!
「頂戴!」
恐ろしい思考から逃げるようにライの手から媚薬をひとつ奪う。辿り着いてはいけない。考えるな。ゴクリとカプセルを嚥下し、固く目を瞑った。
「……?」
そうして数秒間、刺激を待ったがテネシーが恐れていた変化は来ない。恐る恐る瞼を上げても目の前にはライが居るだけ、薬を飲み込む前となんら変わりはなかった。
効果が出るには少しばかり時間が必要らしい。
身体が燃えるように熱いーー。
額から幾筋もの汗が垂れてはシーツに吸い込まれていく。呼吸もまともにできず、熱を含み荒んだ吐息が宙に溶けた。
死ぬかもしれない。ライから受け取った薬はやっぱり毒薬で、ノックであるテネシーへの制裁だったのか。きつく自分の体を抱き締めて縮こまる。手が小さく震え、心臓がこれ以上無いほどに強く波立つのを感じた。
「っ、はぁ…は、く…」
「辛いか」
「あっ、やだ、触るなぁ…!」
頬を撫でられただけ、ただそれだけでも肩は大きく跳ねて体中に妙な期待が駆け巡る。じわりと愛液が溢れ下着を濡らした。体の内から高ぶる熱はテネシーの脳を溶かし、ただライから与えられる刺激を待つ。素肌に纏うシャツが擦れるだけでも小さく声を上げてしまうため、テネシーは身動きが取れずにいる。
ライがテネシーの耳元へと唇を落とし、嬲るように舌を差し込めば、彼の吐息といやらしい水音が直に鼓膜へ響いた。
「ひっ、あ、ん…!なに、これっ、やぁ…っ」
嬌声は封じられ、甘く柔らかい唇の触れ合いが始まる。ちゅ、ちゅ、と繰り返されるバードキスがもどかしくて、もっと深く繋がりたくて、テネシーは舌をぬるりと潜らせた。歯列をなぞり、上顎、頬の内側。自分の舌が熱いからか、少しばかり冷たく感じる。そうして充分に咥内を堪能すればライの舌を絡めとりちゅうと吸い付いた。逞しい体にすがり付き、送り込まれるままに彼の唾液を飲み込んだ。気持ちいい。苦しいほど貪りあって、静かに離れた二人を透明の糸が繋ぐ。それがどうしようもなく愛しく、けれど途絶えてしまえば寂しさしか残らない。
「は、っ…んんっ、ライ、ライぃ、あつい、の…!ね、酷くして…」
「煽ったのはお前だ……逃げられると、思うなよ」
ライの低い声が脳に響き、ぐるりと視界は反転。テネシーはベッドに俯せになり、気付けば下着を剥ぎ取られていた。ベルモットから贈られた随分と布面積が少ないそれでも、履いているのといないのでは気の持ちようが違う。しかし、今のテネシーはこれからこの身を襲うであろう快楽への期待の方が大きく、太股を擦り合わせ腰を揺らした。触れられてもいないのにはしたなく秘部を濡らし、犬のように男の熱を乞う。
「ん、らい…っはやく、」
「焦らずともくれてやる…っ」
ぐぢゅ、充分に潤ったそこはライをなんの抵抗も無く受け入れた。
「っんん、く…ぁ、は…っ入って、はいってきた、あ、ああぁっ!」
待ちわびた刺激により視界に星がチラつき、一瞬意識が飛ぶ。それでもすぐに取り戻して与えられる快感を貪った。汗により頬に張り付き、体の動きに合わせて揺れる髪が鬱陶しい、もっと、この熱に集中したいのに。
「イッ、あ、あひ、…っそ、そこ、あっン…!」
バックからの挿入は正常位よりも深く穿たれ、荒々しいそれはまるで獣の交尾だ。
腰を掴んでいた左手がシャツの中へ侵入し、胸へと伸びる。柔らかな脂肪を押し潰し、先端を二本の指にひねられればテネシーの口からは更に高い鳴き声が上がった。
「〜〜っ!、…っ摘んじゃ、だ、めぇ…あっ、ぁあ…っ」
「…いい、の間違いだろう?」
「ンんっ、だっだめ…!気持ちい、から…っだめっです…ぅ、あぁっあ、ひぁっ…!」
この数日ですっかりテネシーの性感帯を把握したライの責めは容赦無く、的確にGスポットへと昂りを打ち付けている。右手は指が食い込むほど強く尻を掴み、その張りを堪能して遊ぶ。テネシーが自分で見た事も無いような場所を、全てライに見られていた。きっとテネシー自身よりもその身体のことを知り尽くしているだろう。
「酷くされるのが好きか?数日前まで処女だったとは思えないな」
「ひぃ…っは、ぁん、ち、が、ちがいます…っ、は、ぁあっンン、くす、りが…ぁ!」
「…っ、そうだな、それで、どうされたい」
「んっ、おく、奥までっ…突いて、ぐちゃぐちゃに、して、くださ…ひ、あぁああーー!」
ギリギリまで引き抜かれ、ああ出てしまうと思った瞬間に最奥までぶち込まれる。望んだのは自分、強請ったのも自分だ。頭の中はとうにぐちゃぐちゃに散らかり、ただこの快感だけを求めている。腟内をずちゅずちゅ擦る陰茎を夢中で咥えていやらしくも自ら腰を振り、きつく締め付け離すことはしない。
この熱がどうしようもなく気持ちが良くて、それ以外もうどうだっていい。でもこれはしごとで、このきもちもくすりのせいだから。だから、いまだけ。
「あっあ、…ら、い、…!ひっ、きもち…!あ、ああんっ、また、イくっイく、ライっ…なか、中に…ちょうだい!」
「ああ…っ」
「ンあ、あぁあっ!!」
緩やかに動きが止まり繋がったまま再び身体が反転。くたりと力の抜けた腕をゆっくり浮かし、下腹に手を当て放たれた精液を分厚い肉越しに触りうっとりと笑む。
「…らいの、せーえき…あつい…っ」
一瞬彼の何かに耐えるような表情が目に付いたが、汗で湿った黒髪を掻き上げるの仕草で放たれた、身震いするほ艶かしい色気に思わず息を詰まらせた。
媚薬の熱と疼きは未だ冷めることなく、腰を引くライに両脚で絡みつく。
「まだ、足りません…っ、もっと、もっとちょうだい」
淫猥な空気を打ち切ったのはやけに執拗いバイヴレーションだった。
最初は無視して行為を続けていても、流石に何分も嫌がらせのように鳴らされ続けられればいい加減にしろと怒りたくもなる。
『ーー、ーーー』
『ーーー!』
「………聞こえている」
電話相手の声はこちらまで届くことは無いし、そもそも熱に浮かされたテネシーには小さな音では聞き取ることも不可能だ。心底面倒、そんな表情で通話している彼の意識をこちらに引き戻したくて、緩く腰を上下させる。媚薬で乱れた女を放って電話するなんて許せるものではない。
「んっ、んん、」
わざとらしく艷声を上げれば、電話の向こうの人間も察して切るだろうか。そんな、ほんの小さな、悪戯心だった。薄く笑ったライが腰の運動を再開し、ぐちゅり、ぶちゅりといやらしい音が響く。一度中に出しているためにいつもよりもずっと大きなそれは、電話越しにも聞こえただろう。
通話していたライが突然、携帯電話をテネシーの耳に宛がった。何の説明もないためにその意図は分からない。
「んっ、あ…っ!?」
下から抉るように強く打ち付けられ、つい演技でも何でもない、感じたままに喘ぎ声が漏れる。
「や、やだぁ…!」
『ライ、何してるんですか、僕は仕事の話をしているんですよ。…いえ、答えなくても結構です。聞きたくもないし貴方のお遊びに付き合うほど暇じゃない』
ひゅ、呼吸を忘れた喉が鳴り、目を見開いた。
う、そ。
嘘なんかじゃない、聞き間違えるはずがない。ずっと、尊敬して、大好きなひとの、声。
サァと頭が冷えていく。媚薬の熱は身体の内で未だ燻り続けているけれど、震える唇をきつく噛んで意識を保つ。両手で口を覆い、濃い吐息と喘ぎ声を抑えても、ライが強く腰を振る度に鳴らされる水音を隠すことが出来なかった。
「ーーっ、ふ、…!」
駄目、声を漏らすな、まだ、まだ知られていないはず。気付かないでと願うけれど、鋭いあの人が気付かない訳が無いとも思う。大粒の涙がライの胸へと降りかかり、いやいやと首降っても彼の動きが止まることは無い。
わざわざ通話をスピーカーにしたライは口角を上げて、バーボンへと問いかけた。
「そう言うな、…誰だと思う」
『はあ?知りませんよ。ただ、貴方を選ぶなんて随分物好きなようですが』
「ふ、バーボンも知っている女だ」
「ーーっン、…く、…!」
ぐちゅ、昨日から開発が始められたポルチオに雄が押し当てられ、あのなんとも言えない、妙な快感が背筋を走る。噛み締めていた唇は簡単に開きら一度声が漏れてしまえばもう閉じることは不可能だった。
「…ぁっ、や、ぁあ、やだぁ…!ライ、やめ、んっんん、ごめ、ごめんなさ、切って…!ばーぼ、ん、」
『……まさか』
「思いのほか、いい声で鳴くと思わないか」
「やだ、やだっ、ばーぼ…った、……〜〜っ、あっ」
"助けて"なんて言える訳が無い。ただの組織の女をバーボンが助けにくる必要はないのだ。とにかく携帯電話を切らなくてはと手を伸ばせばバランスを崩しポルチオをより強く捏ねられた。ライによって全く手の届かない場所に追いやられた携帯電話はまだ繋がっている。
「ら、らいぃ、ひっ…おねが、いっ!きって、でんわ、きっ、あっ…んん、そこだめっ、おくは、」
『テネシー』
とうとうバーボンに、降谷さんに知られてしまった。嫌われた。胸のうちから悲しみが溢れて心臓が痛むけれど、名前を呼ばれてしまえば肩がびくりと震え、膣がきゅ、切なく縮こまる。こんな、いやらしい。彼の声で感じたくないのに。
「ひっ、く、ぁ…っふぁ、やだぁ…!だめ、や…っんんあ、っ…うぅ……!ば、ばぁぼんっ…ン、」
動くのを止めてライの胸へと倒れ掛かるも、彼がテネシーの内腿を叩き、低く「動け」と声を掛けられればがくがくと痙攣する足を立て、自然と腰が上下運動を再開した。恥ずかしい、降谷さんが聞いている。恋愛感情抜きにしても尊敬する上司に聞かせるようなものではない。ごぷり、中の精液が泡立ちライの下生えを濡らした。
「ベルモットからの任務だ。ハニートラップまでに使えるようにしておけ、とな」
『…そうですか、知りたくも無かった情報をありがとうございました。では、明日の仕事は』
「も、っやだ…!ライ、ライ…!おねがいっ…!きって…っくださ、あ、あっあ、…ひんっ、いっ、いっちゃ、」
「薬が強かったのかこの調子だ、後で掛け直す」
『なっ、薬!?……彼女にはまだやって貰いたい仕事があるんです。…潰したら、許しませんから』
ブチッ、と機械音を鳴らして通話は途絶え、ライは携帯電話の電源を落とし、ゴミでも扱うように床へと投げ捨てた。
「…く、…っどうだ?今の気分は…」
「あ、あ…っ、も、わかんな…!そこ、そこ、きもちい、んっんあ!やあ、ぐりぐりしちゃ、ひっ…いくっ、ライのせーし、いっぱい、ほし…ぃあ、ああっ…ン…!イッ、……っ!!」
私、馬鹿みたいですよね。こんなことされて、まだこの熱に触れていたいなんて。
降谷さんからの電話と狂うほどの激しい絶頂。それからの記憶は、無い。
腫れた目元を指でなぞる。自分とは全く違う、柔らかな女の肌。口に含んだ避妊薬をテネシーに流し込み、端から零れた水を親指で拭った。
「…ラ、イ……」
「堕ちた、か」