2杯:火曜日
心臓は痛いほどに鼓動を刻み、体の内側から沸き上がる熱がテネシーを支配していく。数歩先のライがコンパスの違いを気遣うようなことはなく、振り返りもしない姿を見ていることで頭を冷やし落ち着かせる。
これは、仕事だ。
フロントで預かったシルバーのカードキーが滑り扉の鍵が開く。扉の先は至って普通の部屋、それでも1人で寝るには大きいダブルサイズのベッドが目に付いた。連れられたのがラブホテルじゃない分まだマシだが、こういったホテルでは壁が薄いんじゃないだろうか。テネシーは少し不安になった。
予習として、パソコンで見た無料の動画では女性があんあんと甲高い声で喘いでおり、自分もこんな風に乱れてしまうのかと絶望したのは昨夜のこと。女優のそこに出入りするブツのグロさに最後まで見ることは叶わなかったが。
「シャワーを浴びてくる」
部屋にテネシーを残し、シャワールームへと消えたライを確認して力を抜き、柔らかなベッドへと腰掛けた。
「…むり、やっぱり無理です。うううう〜〜」
確かにライはイケメンだ、バーボンには負けるけれど。それでも彼は世界規模の犯罪組織の狙撃手であり、これからテネシーに触れるだろう長い指は血に塗れている。そんなことを言ってしまえば、スコッチもバーボンも、テネシーも人殺しでありその手も綺麗とは言えない。しかし、自分達は警察官だ。全ては日本の為にしていることで、ジンやライ、他の組織の人間とは一緒にはされたくない。
長年連れ添ってきた処女をまさか犯罪者に捧げる事になるなんて。
かすかに聞こえるシャワー音がテネシーを現実に縛り付け、逃さない。
とりあえず、と鞄から避妊具を取り出し枕元に置いておく。犯罪者との子供を孕むなんてとんでもない。
「待たせたな」
「!…いや、私も行ってくる」
バスローブを纏って現れたライから逃げるようにシャワールームへと向かい、胸元を強く抑えた。
ーーびっくりした…。いけない、テネシーの無表情が既に剥がれ掛けている。熱を持った頬は赤く、鏡に映る姿はふだんのテネシーからは想像出来ない様な顔だ。組織のテネシーと言うよりも、みょうじなまえ本来のもの。
服を脱ぎ、敢えて冷たい水でシャワーを浴びる。熱くなった頭が冷えて丁度いい。
体を洗ったは良いけれど、私もバスローブを着ていくべきなの…?
裸にバスローブはキツイ。下着を再び身に纏ってその上からバスローブを羽織ることにした。
大きく息を吸って、浮かべる無表情。
私はテネシー。
仕事は必ず成功させる。
「では、どう仕掛けるつもりだったのか見させてもらおうか」
ライが仰向けに寝転がり、言い放った言葉には愕然とさせられた。こいつ、私が処女だと確信している癖に何をーー。
「…ふざけてる?」
「まさか」
あらかじめ問題点は知っておいた方がいいだろう、表情も変えず吐かれた言葉に、確かにと頷いてしまった時点で負けは確定。
するりとベッドに手を付いて上がり、彼の上に覆い被さる。ベッドが軋む音がやけに大きく耳に残った。
ええと、ここからどうすれば?
彼をその気にさせてしまえばいい、昨日の動画を思い出してそっと顔を近付ける。テネシーの黒髪が垂れてライのものと混ざり合う。昨日とは違い彼は瞼を降ろし深緑を隠していた。
ちゅ、ゆっくりと唇を落として彼の熱を奪う。かさついたそれはもちろん美味しくもなんとも無い。
「……」
「……」
ライの視線が突き刺さる。それでももうこれ以上は分からないのだから勘弁して頂きたいのだけれど。
「んんっ!…ふ、ぁ…っ」
下から頭を引き寄せられて、唇に噛み付かれればすぐに舌が侵入し咥内を荒らしていく。舌先で歯茎を撫でられ、テネシーは全身に鳥肌が立つのを感じた。
浮かしていた腰はへたりと落ち、そのままライの熱の上へ。確かに感じる違和感に体が揺れる。
「キスならこれくらいはやってみせろ」
「っむ、り…!」
漸く解放された唇はしっとりと水気を帯び、吐き出されるのは荒い息ばかりで言葉を紡ぐことすら難しい。いつもはなんてことないライの低音にもぞくりとするのだから、どうしようもない。
ずん、と腰を揺らされれば零れる自分の高くて、甘い、女の声。
「抑えるな」
わかっている、私は恋人との熱い時間を過ごしに来たわけじゃない。男を転がす技術を学びに来ているのだ。
いやらしく男を誘い、甘い蜜をチラつかせ、罠に掛ける術を。
「んっ…」
いつの間にかベッドに縫い付けられ、その身をライに弄ばれているテネシー。唾液を纏った舌が人間の急所を何度も撫で上げる。ライが首筋に甘く噛み付く様はまるで吸血鬼だ。細長い指が鎖骨に触れ、そのまま下がっていく。恥ずかしさで目を瞑ってしまいたいが、そんな訳にもいかない。ゆっくりとバスローブを開かれて、自分の持ちうる中で一番セクシーな下着が曝される。
仕事までに新しい下着を買いに行かなきゃと遠くで考えていれば、上からフッと笑う気配。
「下着のセンスは良いらしい」
決して安く見せない深紅のサテンに黒く細かいレースで飾られたそれは、ライのお気に召したようだった。男はこういう下着を好むのか。なまえはどちらかと言うとふわふわと甘いパステルや花柄の方が好きなのだが、男と女の好みは違うもの。
ライがテネシーの下へ腕を伸ばせばいとも簡単にホックを外され、その赤で胸を隠すには随分頼りない。
首へのキスが再開されると同時に胸に指が触れ、やわやわと揉まれる度に形を変えていく。円を描くように優しく、時折乳首を掠めて刺激してはテネシーの反応を楽しんでいた。
「…ふ、あ…!」
未知の快感に腰が揺れ、白い体が朱に染まる。胸から脇、腹、腰、そして足の付け根。焦れったいくらいに丁寧に太股を愛で、指は中心へと移る。
「…随分濡れている」
「黙って!もう、早く終わらせてよっ…」
いちいち、言わなくてもいい事を!
下着の上からそっと触られれば大袈裟な程に体が揺れ、ライから遠ざかるために膝を立ててしまう。感じているとかそういう事ではなくて、本当にこのままセックスしてしまうという恐怖から。口では早くしろと言いながらも、実際にそうなると恐ろしくて仕方がなかった。
知らぬ間に下着は脱がされ、とうとうテネシーは何も身につけていない、生まれた時の姿に。
羞恥、快感、嫌悪、恐怖、ぐちゃぐちゃに混ぜられた感情が渦巻いてテネシーは何も考えられなくなる。
「ひ、…あ、あっ」
小さな尖りを押し潰されれば太股が震え、じんじんと痺れるような甘い快感の波がテネシーを襲った。チラリと見たライの顔はいつもとなんら変わらない青白い顔色、痩けた頬、目の下の隈。彼の下半身は確かに反応していた筈なのに、その顔には何の欲も浮かんでいない。自分だけがこんなにも乱されている現実に悔しさが募る。
いっそここで殺してしまおうか。武器を持たないのはどちらも同じ、まず目を潰して、それからーー
「っあ!?」
テネシーの下半身を愛撫している左手はそのままに、ライの右手が細い首を覆った。力を込められヒューヒューとか細い息を吐くことしかできない。
「物騒な考えは捨てるんだな」
「ラ…イ…!」
「最初くらいは優しくしてやろうと思ったが…。まだ6日ある、中で快感を拾うのは明日からでもいいだろう」
望み通り、終わらせてやる。自分を見つめる瞳の冷たさに背筋が寒くなる。彼が何をするつもりか、テネシーは理解してしまった。
指一本の侵入すら許していないそこに当てられる硬さ。いくら濡れていても簡単に入ることはないだろう。腰を引き、逃げようともがいとも簡単に捕まり、掛けられる圧。
「やだっ、や、やめてくださ……!」
大きく首を降っては飛び散る涙。それを見てもライは決して止まることはなく、テネシーは顔を真っ青にして呼吸を止めた。
ふるやさん、ふるやさん、ふるやさん、
「ぃ、〜〜ぁあああ!!!!」
容赦無く突き刺さる熱、身を割かれるような痛み。テネシーの処女は呆気なく散らされた。気持ち良さなんて全く無いし、ただ痛くて、苦しくて。
「…やだっ、動くなっ…」
鈍い痛みと自身の中に入った異物に慣れるより早く、ライは動きを再開した。腰がゆっくりと進み、手は小さく腫れる一粒の蕾を刺激する。
「っひあ…い、た…!」
少しずつ潤いを取り戻していく秘部は、ライの昂りをしっかり咥えこんで離さない。
打ち付ける腰の音、テネシーの掠れた悲鳴が部屋に響いていた。
顔を逸らせばすぐに引き戻され、目を瞑るかライを見つめることしか出来ない。その際、頬に付いたのは自分の血か。
「ひぐ、…うっ、も、やめ…!んんっ…」
手も足も、必死に抗っているつもりでも圧倒的に力が足りず、制圧されては更に強く揺さぶられる。
甘い言葉が欲しい訳ではないが、あまりにもライがなにも言わないから。
ただ言葉も無く、酷く扱われるくらいなら、
「ライっ、キスして…!」
いっそ唇を奪われていた方が気が紛れるかと思ったのだ。
「…了解」
腹に打ち掛けれた白濁が熱い。
喉は枯れて声も出せず、全身が酷く痛い。閉じかける瞼を必死に持ち上げては髪を掻き上げる男を睨んだ。
「今日から月曜日までこの部屋から出る事は許さない、必要な物があれば言え」
薄れ行く意識の中、悪魔の囁きを聞いた気がした。いや、悪魔などではない。奴は魔王だった。