ボーン、ボーンという振り子の音に目が覚めると、短針が真上を指していた。

「んー、よく寝た」

ソファーで長い間同じ体勢で寝ていた身体は当然凝り固まっていて、両手をぐんと伸ばすとボキボキと音がなる。
しばらく家に帰れないくらい激務だったこともあって、久しぶりの我が家に安心したようだ。
洗面所に向かい鏡に写った自分の顔を見ると、寝たのに酷い顔をしていて、降谷さんが珍しく驚いた顔をしていたのと、帰って明日は休めと言われた理由が分かった気がする。
顔色の悪いやつれた顔に、目の下にはまだ消えないクマ。これじゃあ母や兄のようで、鋭い秀兄に見られたら、自分が生きているのがバレてしまうんじゃないかとすら思う。

酷い顔色とクマをコンシーラーやファンデーションで消して、昔、友達に詐欺メイクとまで言われた化粧を施すと、鏡に写る自分ににっこり笑う。
我ながら上手くできていると思う。

「よし! それじゃあ、お腹も空いてる事だしご飯でも食べに行きますか」





普段、庁舎で食べられないものを食べたくなって、マンションを出て歩いて15分程の大通り沿いにある回転寿司屋で食事をしていると、賑やかな子供達の声が聞こえて横目で見る。
すると、眼鏡に赤色の蝶ネクタイをつけた少年を筆頭に昔、画面越しに見たことのある子供達がいて驚愕した。

「うぉー!! すっげぇー!! 寿司が回ってるぞ!!」
「これって、どの皿を取ってもいいんですか?」

同じ列の左側に座った、聞いた事のある声にこっそり耳を傾けると元太・光彦・歩美など、遥か昔にみた主人公とその仲間の子達のものだと確信して、まさかここで事件が起こるのでは? と思う。

――随分と前の記憶だし、詳しく覚えてないんだよなぁ

私がこの世界に転生したのはもう20年以上前のことだから、大きな事件やキャラクター、時系列をうっすらと覚えている程度。
警察官として、事件を未然に防ぐべきだとは思う。だけど、主人公がいるからといって必ず事件が起こる訳でもないだろうし…。せっかくの休みだから、この後は、久しぶりに癒されにエステに行って買い物だってしたい。正直、面倒ごとにも巻き込まれるのはごめんだ。

あともう少し食べたかったけど、会計ボタンを押してお皿を店員に数えてもらい、会計を手早く済ませ、店を出ようとすると男の苦しそうな声と床に倒れる音、周りの客の悲鳴が聞こえてこれはもうエステどころじゃないなと落胆する。

「動くな!!! ――その場からちょっとでも離れた人は後で刑事さんに言うからね!」

食中毒ではないかと店を出ようとする人達に聞こえるように大声で指示して、男が青酸系の毒で殺られた事を話し出す少年の背中を見て「この子、全然小学生らしくないけど隠す気あるのかな?」と思ったのは言うまでもない。




警察が到着すると、皿に毒を着けて殺したと推理し、被害者と同じレーンにいた私を含めた3人と職人が別室で身体検査を受け、何も無いことがわかると再びカウンターまで戻る。

結果、毒物が入った容器も毒を染み込ませたハンカチのような物も発見されず、どうやって犯人が毒を仕込ませのか振り出しに戻った。
被害者が倒れる五分前ぐらい前から向かいの客達は皿を取っていないから毒は仕込めない。厨房の職人もレーンに皿を置いていない――

「つまり、騒ぎの後皿に毒を塗る事ができたのは…殺されたオジさんの左隣に座っていたそのお兄さんと、オジさんの、右側、6人分の席をはさんだ挟んだ先で食べていたオバさんと、オジさんが倒れた時に最初に駆け寄ったこの店長と……、オバさんの右隣に座っていた女の人の4人。そうなんでしょ? 高木刑事?」

確かに。でも、誰が取るか分からない皿に毒を仕込むだろうか?
注文した寿司は被害者の左側にいた男性が取る可能性だってある。
もしかして、皿に毒を仕込んだのではないんじゃ…?

顎に指を当てて考えていると、左手の裾をくいっと引っ張られて、私の裾を引っ張った人を見ると、コナンくんが不思議そうな顔をして私を見上げていた。

「ねえねえ、お姉さん。」
「うん? どうしたの?」

子供が話しやすいように、しゃがんで視線を合わせる。

「お姉さんって、とっても少食なんだね? だってお姉さん、三皿しか食べて食べてないよ? それに、お皿の色をみるとそれって一貫物のお皿だよねぇ? それに確か、オジさんが倒れた時にお店出ようとしてたけど、何か急いでお店を出ないといけない"大事な用事"でもあったの?」



コナンくんの鋭い視線