いつもの早朝、徹夜でゲームしていた母親をシャワーへ投げ込み、日課のランニングへ向かう。この時間は想の日常の反省をする大事な時間だった。
春休みにこちらに引っ越ししたばかりの想はランニングコースも考えながら、体力作りに勤しんでいた。
周りが才能の塊の化け物だらけだったから最近は心に少し余裕ができていたところで今回の失態。
「きをひきしめなきゃ」
というかわかっていたけど海鳴市から雄英高校通うの結構辛い…。
いくら発達した技術でもミッドチルダよりは遥かに劣る。乗り換え含めて2時間の乗車は流石にしんどい。免許もないから個性で空も飛べないし。
「でも一人暮らしだと母さんが人間らしい生活やめちゃいそうだし…」
やっと分身じゃない母さんと過ごせるようになったのになぁ
私の母は不思議な力をいくつか持っている。個性は蓄積という一見聞いただけじゃ疑問に思う個性だが、驚くことに次元震で行方不明になっていた際いくつものチカラを自分のものにして、奇跡的に生還したのだ。しかもいくつもの人生を歩んできたらしい。その技術を学びたいと思っているが、まずは魔導をしっかり身につけてからだと。納得しているが便利そうに使ってるチカラに羨ましくもある。
あんなのでも私の憧れなのだ。私だけじゃなくて、母さんの後輩のなのはさんたちや教え子たち皆の憧れが私の母なのだ。
するときはちゃんとするカッコいい母である。最近の現場での母は見たことないが、昔の記録は離れて暮らしていた際散々眼を通した。
「独り立ちはいつだってできるし…もう少しだけ頑張るかぁ…」
「あら?想じゃない。こっち帰ってきてたの?」
「えっ」
急に横につけられた車から声がかかった。この土地に私の知り合いなんていない筈だ。想は不思議そうに声をかけてきた人物へ足を止めて下りるウィンドウに首を傾げた。
「覚えてるかしら、あなたの母親の後輩なのだけど」
「………あ、たしか…バニングスさん…?」
「アリサでいいわよ。トレーニング中なの?」
「はい、ちょうどランニングしていました」
「そう、ちょっと時間ある?」
携帯を取り出し時間を確認した後、頷いて返した。
「6時まででしたら大丈夫です。」
「早いわね、なら送りながら話すわ。乗りなさい」
「失礼します、アリサさん、こんな時間までお仕事ですか?」
「いいえ、ひと段落ついて友人と飲んできた帰りよ。」
「そうなんですね。」
「なまえさんは元気?」
「聞きたかったのは母の話なんですね」
「ごく稀に報道される端に映るくらいしか知る手段がなくてね。それもここ最近は滅多に無いから近況なんて全然わかんないわ」
ツチノコかぁ。まぁ母はコミュ症だと言って全くメディア露出は少ない。時たま報道陣のカメラに映り込むツチノコののような存在である。父曰く昔は本当にコミュ症だったらしいが。
「今日も徹夜でゲームをやるくらいには元気でしたよ」
「相変わらずかあ…」
「昔からなんですか?」
「ずっと昔は高嶺の花のような凛とした先輩だと思ってたのだけど」
「うーん…?」
アリサの言葉に想は母の話をしてるんだよな?と渋い顔をする。
アリサもわかっている。と静かに頷き、話を続けた。
「彼女、本当にすごかったのよ。全校生徒が憧れる文武両道、才色兼備。儚げ系の完璧上級生だと勝手にライバルに思ってたら、その実態がまさかのコミュ症ゲーマーで負けず嫌いだとは本当に、本当に信じられなくて、なんどもなのはを問いただしたわ…」
「あぁ…母の昔を知ってる人はみんなコミュ症っていいますよね。あ、でも確かになのはさん…も、母に夢見てるところ有りますが…」
「そんな彼女が今や知る人ぞ知る特殊ライセンスヒーロー、変わらず規格外でホッとしたわ。」
「いつも通り、仕事をしながら新婚気分で両親は仲良しですよ。あと意味がわからないくらい若造っていうか、昔の映像ととほぼ顔が変わってない…」
「それ!よね!なんなのあんたの母親!ヒーローとしてのたまーーに見掛けるニュース映像の度に、中学から止まったようなご尊顔に!自分の年齢を忘れそうになるのよ…!」
「ご尊顔…」
「あんたも母親似の整った顔立ちだし、どうなってんのよDNA」
「父要素がちょっとしか無くて私も少しかなしいです…」
「まぁあの先輩をどうにかできる相手なんであんたの父しか居ないけど、あんた今はどうしてるの?」
「この間、雄英に合格して、一年生やってます」
「偏差値79の国立じゃない。」
目を丸くして驚く彼女へ頷いて照れ臭くはにかむ。
「無事受かりました。」
「おめでとう。ってことは個性もヒーロー向きなわけか。まぁあの両親だからヒーローに向かない個性が継がれることはないか。」
気さくに笑いかけてきたアリサの言葉に想は首を振り、答える。両親からの個性を持っているわけではないというか
「父をご存知ってことは父が地球生まれじゃないので無個性なのも?」
「え?そうかクロノさんも無個性の扱いなのか」
「ハイ、そのかわり魔力をもってたりしますが、あちらではかなりの人口が所持してますから」
「ならなまえさんから個性を?」
「それも似てるようで少し違ってて…私…名は体で表すみたいな…」
「想…想い?」
「はい。『想い』の力で魔法や身体能力の威力があがるんです。」
「なにそれ素敵じゃない。」
「でもそれで昨日ちょっと失敗しちゃって…反省してたところなんです」
「あー制御ができない?」
「はい…中学まではそんなことなかったんですけど…」
「ならあれね。個性の成長期よ」
個性の成長期。と告げられた内容に想は眼を瞬く。
アリサは自覚ないままだと危ないから、ちゃんと母親や先生の話をよく聞いてきちんとトレーニングしたほうがいいとアドバイスしてくれた。
「アリサさん、ありがとうございます。昨日から緊張してたせいで暴発してしまったんだとばかり思ってたので、少し前向きに考えることができました。」
「んんんホント先輩に似てかわいいわね…」
「えぇ…?でも私ゲームも母のを横目に見る程度で全然嗜んでませんよ?」
「そこじゃないんだよなぁ…」
母に容姿が似ているのは知っているが、今の要素でどこが似ているのだろうか。首を傾げていると携帯出しなさいと掌を向けられる。
「はい」
「これ、連絡先よ。今日みたいに相談しにくいことがあったら連絡なさい。」
「連絡先とトーク!」
「反応悪いときは、仕事してるから待ってなさいな」
「そんな、今日だって相談に乗ってくださったのに」
「いいのよ。楽しい時間だったわ。」
「…ありがとうございます」
「それより、朝浮かない顔してたのはそれだけ?」
アリサの追及は止まらず、さらに胸に燻っていた内容を吐露する
「母親が心配で一人暮らしの相談ができない〜?」
「………ハイ」
「どっちが娘なのよ」
「実は今日も朝からシャワーへ投げ入れたレベルでして…」
「相変わらずあの人はー!!」
うがーっと声を荒げたアリサはハッと我にかえりコホン、と一つ咳払いした。
「想、言ったわよね。私たち後輩は彼女のことを尊敬しているって」
「………はい……」
「自分の母親をそんなに褒められて居心地が悪いのはわかるわ。けどあの人には能力がある。それこそ実績も名声だってある。」
「………はい…。」
「親としてはダメかもしれないけど、尊敬できる人なんだからちゃんと信じて上げなさい。」
「ーーー。」
「不満そうな顔しない!ダメな親かもしれないけど!ちゃんと子供達のこと考えてるのは知ってるから。」
「ーー父さんばっかり構うんです。」
「ええ、知ってるわ。」
「ーーこの春休みにせっかく一緒に暮らし始めたのに、休みを合わせた父さんとずっといるんです。」
「そ、そう…」
「ーー私だって父さんと母さんと買い物とか遊園地とか水族館一緒に行きたいのに、これはデートだからダメだって言うんです」
「…………」
「ーー母さんが3人のお出かけはヤダって、デートだからって…ふたりで…いつまでも新婚気分なのは身を持って知ってるんですけど…一緒に住み始めたのに置いてかれるんです…」
「……ああああ、もう、泣かないでええ」
「大切にされてるのもわかるんです。私まだまだ母さんみたいに隠密できないから、母さんと似た顔で一緒に出歩いてたらすぐにバレちゃうから…でも、だからってぇええ…」
「ごめん!私が無遠慮だった!思春期の軽い反抗期だと思ってた!今から先輩のことにカチコミにいくわよ!」
この春休みを思い返し本格的に泣き始めた想を慌ててオロオロと宥めるアリサ。想は自分自身も反抗期だと思っていた内容にこんなにも怒ってくれた母の知り合いに、怒っていいことだったのだと言われた気分でさらに泣いた。
ついたみょうじの門前に泣き腫らした顔で想は車を降り鍵を出し、中へと進んだ。アリサへ来客用のスリッパを勧め消えそうな声で「ただいま。」と告げた。
「あれぇ、想おかえり、誰かと一緒な……の…え、想大丈夫??」
「……」
「あれ?アリサじゃん、久しぶりだね」
父がいないためゆるっゆるの部屋着で現れた母に、想はこっそりため息をついだ。来客だとわかっていてその格好でてるのだ。
「なまえさん!ちょっとお話があるんですけど!!その綺麗な面貸してくれませんかねぇ!?想は早くシャワー浴びて、学校の支度してきなさい!」
「ええ〜今から?」
「はい!!!」
アリサの怒声に想はピッと背筋が伸び、チラリと2人を見て浴室へと逃げ込んだ。
ーーーー
汗と涙お湯で流し髪を乾かし着替えた想は鏡の前で着慣れない制服姿で一回転する。うむ、目はまだ腫れてるけど我ながら可愛い。シャワーと共に落ち込んだ気持ちを吹き飛ばした想は怯えた犬のように足音を立てないよう、こっそりとりリビングへと向かった。
「母さん…アリサさん?」
「想!」
「戻ったのね,制服似合うじゃない。」
「ありがとうございます、それでこれは一体……??」
「キツく叱っといたから。まぁ事情があったみたいだし今後はしないでしょうよ。あとは家族会議でも何でもしなさい」
腰元に抱きついてきた母に想は困惑する。
「家族会議って…言われても…私これから学校……」
「今日は早く終わらせてかえってくるからぁ!捨てないでええ!」
「捨て!?何言ってんの?」
「じゃあ言いたいことも言えたし私は帰るわね」
「え?!あっアリサさん今日はありがとうございました!」
ひらひらと手を振りカッコよく帰っていくアリサに想はこの現状をもう少しどうにかしてから帰って欲しかったと母を引き離す作業に戻りながら思った。
「遅刻するから!!!」
「想学校終わったら連絡して!!」
「わかった!わかったから!!」
「絶対だからね!」
朝っぱらからギャーギャー騒ぎ立てながら家を飛び出し、いつもよりスピードを乗せて駅まで向かう。
「にしてもあんな母さん初めてだったな」
なんだったんだいったい。と疲労を滲ませた顔で首を傾げる。
新幹線に乗り込んだ想は食べられなかった朝食を思い出し肩を落とす。雄英着く前にコンビニに寄ろう。
−−−−
「あれ、想ちゃん、今日お寝坊さんなん?ご飯食べられなかった?」
「寝坊じゃあないんだけど…ないんだけど…なんか…朝から色々あってさ」
「疲れとるね、大丈夫なん?」
「ううお茶子ちゃんありがとう…」
自席でコンビニのおにぎりをもぐもぐ食べていると登校してきた麗日が首を傾げながら想の目の前まで現れた。
ぽんぽんと元気出せの意を込めて撫でられたそれに、少しだけ活力を戻した。
ごちそうさまでした、と手を合わせとゴミを捨てに席へ戻れば前の席の人物が登校していた。
「あれ、爆豪くんだおはよー」
「アァ゛?るせェよ」
「えぇ、挨拶しただけなんだが」
お腹が満たされ満足してにこやかに挨拶した想に爆豪は一瞬顔を顰めた後、舌打ちしギロリと睨む。想はいるよねこういう不良キャラと、母のゲームを思い出し少しだけ笑みを崩した。
「み、み、みょうじさん、かっちゃんおはよう」
「あ、おはよう緑谷くん。」
後ろの席へ登校したばかりの緑谷が挨拶してきたので振り返り笑いかける。
「クソナードがオレに話しかけンな!」
「ナード?ってスラングだけど特定の知識が豊富な人のことだよね、緑谷くん何について詳しいの?」
「えぇっ!それは、そのぉ!?」
「緑谷くん焦りすぎて声が裏返ってるよ」
「るせぇ爆破すんゾ、クソデク!」
ボンと掌で個性を爆破させた爆豪に想は眼を瞬く。びくりと怯え切った緑谷に想は再び体ごと向き直った。
「デクくんって言うんだ?」
「い、出久です…」
「そっか、かっちゃんにデクくん。なんか良いね」
「ハァ?ふざけろ」
「私こっちで友達いなかったから仲良い呼び方に憧れるなぁ。私にはなんか無い?」
母親似のこの容姿だし、可愛いあだ名つけてくれたらいいなぁと想は首を傾げながら問いかければ顔を凝視され一瞬の沈黙後二人は再起動した。
「えっ急に言われても…」
「ねェよ。水色で充分だそれか泣き虫女」
「…前者はただの髪色だし、後者は可愛くない…いやまって、爆豪くん私まだ目元赤い…?通学時に冷やしたんだけどな…」
「あぁ゛?バレバレだ」
「え、えぇ…」
泣き腫らした顔で堂々としていたことに恥ずかしくなり鞄を漁り鏡を取り出して写す。確かにいつもよりは腫れてるけど、朝と比較したら随分と治まっていた。まさかこれでバレるとは。
「みょうじさん、何かあったの?」
「んーん、朝ちょっと色々あってね、今はもう大丈夫。」
「な、ならいいんだけど……」
隣席の瀬呂や耳郎のえ?気づいた?と目を合わせて無言で横に首を振りあっている姿にだよね??と内心で首を傾げた。
結局念願のあだ名はお預けになり、そのまま授業は始まり、午前は必修科目、お昼は大食堂で一流の料理が安価で食べられる。
「ええぇ、雄英うけてよかったぁ…」
「ご飯が美味しいだけで生きてるって感じがするよね」
「うんうん!」
お友達になった彼女らとのご飯も美味しかった。
午後からはヒーロー基礎学。オールマイトが登場し教室が沸き立つ。
バリアジャケットとは別に被服控除で要望を提出していた想は注文通りのその出来に黄色い悲鳴をあげた。
「わぁ!新しいコスチュームって心が躍るなぁ!」
「うっわ麗日の衣装パッツパツじゃん大丈夫それ?」
「ホンマやーちゃんと要望を出しておけばよかったぁ」
最後にと腰にバサリとマントを装着した想は自分がオーダーした出来に満足していた。プレートの入った篭手やグローブを順に附けていき、着け心地をたしかめる。流石に慣れ親しんだバリアジャケット程じゃないけど改造も今後自由だと聞かされてからは夢を膨らませていた。
「えっ葉隠さん手足だけ?」
「アイデンティティがなくなっちゃうからね!本気モードはこれも外しちゃう!」
「羞恥心どこ置いてきたの!?」
「にしてもついにヒーロー基礎学かぁ!うぅ緊張するねぇ梅雨ちゃん!」
「ケロ、そうね、楽しみだわ」
授業が始まりいかしてるぜ!とオールマイトに衣装を褒められてクラス中が浮き立つ。
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