Zet at zeT



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暖かい気候に桜が咲いて、散って、陽射しが眩しく暑い季節になって。
木々が色付き鮮やかな絵画のような世界になって、いつの間にかそれが散ったかと思うと白塗り化粧の雪景色。
ゆっくりと化粧が落ちていけば新しい生命の芽吹きを感じ、過ごしやすく暖かな気候になり、また桜の木に桃色が灯っていく。
ーー何度、繰り返しただろう。
縁側から見える庭の木は、桃色から始まり、緑、橙、そして白に染まってまた桃色へと変わる。
色が変わる度に、私は白い紙に筆を走らせるのだ。
私と彼らが繋がれる唯一の方法。これ以外無いというのは、やはり辛いものだと痛感してしまう。
ーー今年も桜が綺麗に咲きました。押し花にしたのでお送りします。皆、変わりなく元気で過ごしてますか?
他人行儀な内容だけれど、気恥ずかしくて昔のように接することが出来ないのは、私も大人になったという事だと思いたい。
遅過ぎる成長かもしれないが、女として三十を過ぎた手前、人生の節目も兼ねて大人になったと表現しておこう。
三通分の手紙を書き終わり、それぞれ宛先の書かれた封筒へと押し花も忘れず一緒に入れて封をした。
返事は毎回返ってくるのが一通。年に一、二回なのが一通。そして、一切返事が返ってこないのが一通。
宛名の人物の性格や状況が反映されていて、これはこれで面白いのだ。
返ってこない人物の近況はよく返ってくる人物が語ってくれるので、二人分の文通をしているつもりで楽しいし、年に一、二回というのも仕事が順調な証拠だと受け取れる。

皆、未来を見据えて走り出していて、私だけが過去に縋っているのかもしれない。ーーそんな事を考えてしまったのは、今まで返事なんて来たこと無かった人物からの手紙を、郵便受けの中に見つけたからだった。
今し方、三人への手紙を出したばかりなのに。なんというニアミスだろう。しかもそれが、初めて返事を受け取る相手だったのだから、急いで内容を確認して返事を書かなければならない。
返事がきたという嬉しさが勝り、待ちきれずに玄関で封を切った。宛名は久しぶりに見る、やる気のなさがチラホラと滲み出た、彼の字だった。
その独特の字が列ぶ手紙の内容に目を通せば、下書きがうまく消せていなかったり、漢字を間違えて雑に黒塗りしたりと性格は変わっていない事が分かり、思わず笑ってしまった。
慣れない事をするもんじゃない、と書いている手紙の内容は、皆変わりが無い事や返事を送れなくて悪いといった内容で、彼自身ではなく周りの事がほとんどだった。
それも、彼らしいのかもしれない。それが、彼という人間なのだ。
また彼らに触れられたような気がして、心が弾む。どう言葉を紡いで返事を書こうかと考えながら、家の廊下を自室に向かって進んでいく。
自室に入るなり、一度大きく深呼吸。床に座って再度文字列へ目を走らせ、勝手に口角が上がっていき鼓動が早くなるのを感じる。
私は自分で思う以上に舞い上がっているようだ。
彼からの返事もその一端ではあるのだが、最後の、最後の一文が、一番私の心を高鳴らせている。

ーー成長したどっかの誰かさん連れて、顔見せに行くからーー

机の引き出しの中には、送れなかった手紙の山が入っている。彼はどこまで成長しているのだろうかは分からないけれど、多分、きっと、四人揃って会いに来てくれるのだろう。
師匠のように以前の記憶はあるのだろうか。いや、無くても良い。彼にもう一度会えるなら。
動かなくなった私の両足を見て、以前の彼なら苦虫を噛み潰したような表情をしただろうけれど、今の彼はどうなのだろうか。
ーーもし、私の事が解るのなら、また一緒に居てくれるだろうか。
想像は尽きない。いつ来るかも書かれていない手紙の返事を、私は気持ちを落ち着かせながら書き始めるのだった。





※龍脈と師匠のお力で少し早く成長しつつ、記憶を引き継いでるのではないかという妄想。