アパシーがーる。
あたしは今、どこに居るのでしょうか……?
至る所に金、金、金。装飾過多という言葉がそのまま見事に合うような調度品の数々。金持ちしかその凄さを当たり前と思えないような、いや、金持ちでも関心して引くくらいだと思う。
そんな調度品の数々に囲まれて、あたしは必要以上にフカフカとしたソファーに座らされていた。
「紅茶飲めるー?」
「あ、えっと、はい」
紅茶は少し苦手な部類に入るのだが、飲めると言ってしまった。
それほどに、緊張するこの空間。もう、執行部部室とか言わない。どっかの王族の一室例えてやる。
「はい、どうぞ」
テーブルに置かれたティーカップ。カップもソーサーも、ティースプーンまでも装飾が細かくされていて、ウン百万とかしそうな気がする。
紅茶もさぞお高いものっぽいので、ぶっちゃけ飲む気が無くなる。
目の前の美人さんみたいに優雅に飲める気がしない。
「あの…」
「あ! 自己紹介がまだだったね! 僕はエルキドゥだよ。エルキーでもエルでも好きなように呼んでね!」
いや、名前も聞いてなかったけど! そうじゃなくて!
講義始まってるんですけど!?
「どうかした?」
「いや、あの、講義が……」
「大丈夫! ギルに言って、今日一日出席扱いにしてもらうから!」
いやいやいや。どんだけ大学にコネ持ってるんだよ会長。
じゃなくて! あたし的には某褐色に会わないと申し訳なくなるわけでして。何としてでも講義に出て、ワタシゲンキダヨ、って姿を見せないといけなくて。どうしようこの状況。
「僕ね、ずっと君とお話してみたかったんだ」
「は、はぁ…」
「ギルとか友達名前から話を聞いてたから、どんな子なのかなぁって」
でもまさか、こんなに小さいなんて思わなかったけどね。と、エルキドゥ先輩は続けた。
その小さいというのは、身長なのか、それとも胸部なのか。どこの事を言っているのかは初対面なので追求しないでおく事にする。
「初めて君の姿を見たのは、演劇部の新入生公演の時。周りの新入生よりも、一際輝いて見えたんだ。それから次は、異種武道大会。それから、学年、学科、部活別の球技大会でしょ。そして――」
「あの、もういいです。大丈夫です。お腹いっぱいです」
自分の話を聞くのが居た堪れなくなって、話を遮ることにした。あたしはそこまで活躍した覚えがないので、何と言うか、自分をそこまで見てくれている人がいる事に対して、恥ずかしい。
「それでね、聞いたんだ、ギルに。あの子はどんな子なの? って。そしたらね、ギルってば普段しないような顔をして、面白い女だって言ったんだよ」
その、普段しないような顔ってなんですか。そこが気になります、先輩。
多分、鼻高々に笑っているような顔なんだろう。あの人は、あたしをよくからかってくる節があるし。
「友達名前も面白いって言ってたから、どんな子なんだろうってね。だから、さっきは嬉しかったんだ。ぶつかってきてくれて」
「ぶつかった事を嬉しいと言われたのは初めてです」
「だよね? 僕もそう思う!」
どこだ。どこに笑うところがあったんだ?
目の前できゃっきゃと笑う先輩はとても可愛らしい。なんでスカートじゃないのかな。スタイルが良いからジーパンも似合ってるけど、美脚をさらしてもいいと思うのに。と、思ってしまう。
可愛い人や美人さんはスカートを履けばいいと思う。
「ん? なんだ、エルキドゥ。来ていたのか」
「あ! ギルー! お邪魔してるよ」
「……貴様もか」
「あ、はい。お邪魔、してます、はい」
講義が終わったようだ。カバンを持った会長が部室――間違えた、王族の一室に入ってきた。
所謂、社長室のような大きくて柔らかそうな椅子にどっしりと腰掛け、デスクに置かれている書類に目を通し出した。
「……我の朋友が迷惑をかけたな」
「はい?」
「廊下ですれ違いざまに連れて来られたのであろう?」
「違うよギル! 廊下でぶつかったの間違いだよ」
「そこって訂正するところです?」
「まぁ良い。講義の件は気にするな。出席にしといてやる。今回だけだがな」
あ、本当にしてくれるんだ。それには感謝の言葉を口に出しておいた。
「それにしても、だ。ディルムッドにしつこく言われたのだろう?」
「は…?」
「男と二人きりになるな、と」
「……ん?」
「えー! ディル君そんな事名前ちゃんに言ったの? ひどいよー!」
すみません。話の意味がわかりません。
男と二人きりってのは今日言われたばかりだけど、なってないぞ? どういう事だ?
あたしが理解していない表情をモロに出していたからか、呆れたように会長がエルキドゥ先輩を指さした。
「何を勘違いしているのか知らんが、こいつは男だぞ」
「ひどいよギル! もう少し秘密にしておくつもりだったのに!」
苗字名前、思考停止しました。
なんとか思考を取り戻し、既に始まっている部活に顔を出す。
執行部にいた事を説明すると遅刻した事を責められていたのがピタッと止んだ。
会長の力が強大という事を学んだ。
「あ! 衣装着れるようになってる!」
衣装合わせ最終日という事もあって、衣装係の友人には泣いて喜ばれた。あとは立ち稽古、通し稽古。ゲネプロ、本番を残すだけとなった。
新入生歓迎公演まであと1週間。
今更ながら、まだ四月の半ばなのか、とここ二週間でいろんな事があり過ぎた事を考えて、どっと疲れた気がする。
そして、そんな日常は忙しさと共に加速して過ぎていく。
「貴方を愛する事が出来ないのなら、私は今すぐ、消えましょう。貴方の為ならこの命など惜しくない。貴方が居なければ、私は存在しないのだから」
「止めてくれ、ディーレ。君にそんな事をさせたくはない。君にはずっと私の側に居て欲しいんだ」
「ごめんなさい。愛しい人。それは出来ない。私と貴方は永遠に結ばれる事の無いから。だから、――さようなら。愛しい人」
「ディーレ……!!」
「カシオナ皇子? どうかされたのですか?」
「……いや、何もない。何もないのだ」
「でも、泣いておられるようですよ? 何か悲しい事でも?」
「何もない。何もなかった。私は、何も――」
ブザーが鳴る。終わった。舞台が、終わった。
一度閉まった幕がもう一度開き、壇上には出演者が一人、また一人と一礼をする。
その中で主役を演じた幼馴染みは最後に出てきた。
感情のこもった迫真の演技。隣に座る友達苗字さんや先輩方も、周りに座っていた生徒達も、盛大な拍手を送る。――自分も、例外無く、拍手を送った。
「ありがとうございました!!」
出演者全員が揃って謝礼を述べる。
この大学の演劇部はレベルが高いと幼馴染みが言っていた。
豪勢な劇場があるのは元より、各界の重鎮などが訪れる事が出来るようにVIP席があるらしい。入った事はないが、去年の今頃に幼馴染みが興奮しながら話していた事を思い出す。
もしも……もしもの話だが、その重鎮の一人に幼馴染みが声を掛けられたとしよう。
そうなると、幼馴染みは自分の元を離れ、その業界で生きていく事になるのだろうか。
主役の女性と皇子のように、結ばれないまま。離れたままになるのだろうか。
――何を考えているんだ、私は。
「アーチャー? どうかした?」
「大方、苗字さんの演技に感動したんじゃないのか?」
「コイツが? それは無いな」
周りがうるさい。
閉まった幕。観客が立ち去る音。閉幕後の独特の雰囲気。
幼馴染みはそれをどのように受け取っているのだろうか。
「先に行ってるね?」
何故か最後まで居残りたかった。
自分の幼馴染みが、自分を好いてくれていた幼馴染みが出た舞台を、最後まで眺めていたかった。
今までそういった事は無く、彼女の舞台を見たら出てくるまで外で待っていたのだが、今回は、何故か残っていたい気分だった。
観客が全員出ていったと思ったのか、閉まっていた幕が開く。
舞台の中央に立っていたのは、私服に着替えた幼馴染み。
観客がまだ残っていた事に驚いたのか、それともその観客が俺だという事に驚いたのか。一瞬表情が強張ったようだが、その後は照れながら笑みを浮かべる幼馴染みの第一声は、お腹減った、だった。
(2014/10/12)