アパシーがーる。




いやはや、午前の男子の試合は凄い熱気だった。
あと、黄色い声援がうるさかった。
総当たり戦の組みわけではあるけれど、なかなかいい試合が見れたと思う。
筆頭に上げるとすれば、アーチャーとクーさん。そして、会長とオディナ先輩。結構時間のかかった試合ではあったけれど、見応えがとてもあった。
それから、ランスロットもいい線いってたなぁと。ちなみに、小次郎とランスロットは剣道部で最後までどちらを選抜するか悩まれていたらしい。一人は会長なのだから、会長に次ぐと考えたら妥当な筋だとは思う。
というか、会長は滅多に部活に出ない割に、ちゃんと強かった。ちょっと見直した。
あぁ、それからアーチャーと士郎の一騎打ちは面白かったなぁ。主に外野が。
友達名前ちゃんがアーチャーの応援でとても叫んでいた。それに負けないくらい凛と桜ちゃん姉妹が士郎を応援していて、セイバーはお弁当をひたすらもぐもぐしていた。うん、皆自由だなぁ。
結果、弓の扱いには手だれたアーチャーが勝ったけど、これが弓じゃなかったらまた違った結果にはなったんだろうと思う。
アーチャーは、クーさんとの試合で負けているので、決勝のトーナメントに進めるかどうか、というところだ。
我が空手部の主将、副主将は残念ながら決勝のトーナメントには進めない。ほぼ惨敗に近い負け試合が続いていたからか、空手部一同で慰めなければいけない事が確定した。それはそれで辛いのだけれども。

「しっかし、あのアーチャーが苦戦を強いられてるなんてね」
「仕方ないですよ。今回は他の部の方も勢いが凄いですから」
「シロウもあの射出スピードだと決勝へは危ういでしょう」
「名前はどう思う?」
「んー、今年も会長の一人勝ちじゃないかな? 決勝トーナメントに出れるのは、会長とクーさん、オディナ先輩はほぼ確定でしょ?」
「それでしたら、後はアーチャー、シロウ、ランスロットが有力でしょうか?」
「まぁ、そうなるわよね。空手部も柔道部も駄目みたいだし」
「……うちの主将達がトイレで泣いちゃうから。それ以上言わないであげて」

昼食を終えて、予選の模造紙が貼られてある掲示板で女子会トークを繰り広げる。何だかんだ言いつつ、皆、決勝トーナメントがどうなるか気になっているようだ。
凛はアーチャーをどうからかうか考えているし、桜は士郎の応援をライダーと話し合っている。セイバーは、購買で買ったサンドイッチをまだもぐもぐしていた。

「昼休憩後は、槍術部同士の試合とかなんだね」
「これはこれで見ものじゃない? イケメンとイケメンじゃない方の試合だし!」
「敢えて聞かないけど、友達名前ちゃん、それ本人の目の前で言っちゃダメだからね?」
「私的にはアーチャーが決勝に行って欲しいから! クーには負けてもらいたいんだよねっ」

あぁ、なるほど。と一人で納得した。
昼休憩後は、剣道部の会長とランスロット。クーさんとオディナ先輩。そして、アーチャーと士郎がそれぞれ柔道部との試合。見知った人か出る試合はそんな感じだった。
空手部は、もう、応援したところで結果は分かっているのでしない。主将と副主将にはハーゲンダッツを一つずつプレゼントする事にした。

「全勝してるのが会長だけですね」
「その会長に負けてるのが、まだ試合していないランスロット以外、と」
「あの金ピカ会長、部活にも出てないくせに……本当ムカつくわ」
「しかし実力は相当なものです。友達名前とセイバーはどう思いますか?」
「んー……ギル兄は昔っから強かったからね。自信たっぷり過ぎて鬱陶しいくらいだったかな」
「なんだか、簡単に想像出来ちゃいますね」

決勝トーナメントに出場出来るのは六人。そこには部活の柵も無く、ただ勝った人が出場出来る。
模造紙とにらめっこして、ふと、疑問が出てきた。

「あれ? でもさ、これってもう決勝に行くの決まってない?」

あたしの一声で、談笑をしていた皆の会話が止まった。
何を言っているんだこいつは、という感情が一番顔に出ていたのは凛だった。

「だってさ、会長は全勝。クーさんとオディナ先輩は会長以外に全勝してるから、この三人は確定でしょ? 残り六試合の勝敗関係無くしてみても、アーチャーは五勝してるから確定だし」
「あ、そう言われてみればそうですね。後は衛宮先輩が柔道部の方に勝てば四勝になるから、ギリギリ出場出来るかも!」
「では、ランスロットは既に四勝。会長に勝っても負けても出場は出来る、と。そう言う事ですか?」
「そうね。ライダーの言う通りだわ。なんで気が付かなかったのかしら! せっかくアーチャーをからかおうと思ってたのに!」

まぁ、士郎が決勝トーナメントに行くには、アーチャーと我が部の主将が柔道部の代表である主将に勝たなければならないのだけれども。
アーチャーは大丈夫だろ、多分。試合においては絶対に手を抜かないし。
問題はうちの主将だ。柔道部のもう一人に勝ってるけれど、今のメンタルじゃあどうなるかわからない。
まぁ、勝ったらギリギリ決勝に行けるみたいだし、やる気はあるだろう。
こう考えたら少しは面白くなってきたかもしれない。
早く昼休憩が終わればいいのに、とあたしは思い出していた。





「ですよねー」

泣いている姿を部員に慰められる主将を見ながら、嘲笑を込めて思った事が口から出ていた。
結果は簡単だ。
会長は全勝。クーさんは会長との一敗のみ。オディナ先輩はクーさんに負けてしまって合計二敗したけど、他は勝っているので進出。
アーチャーも六勝と大健闘を果たし、士郎とランスロットがそれぞれ四勝でギリギリ決勝トーナメントで闘えるようになった。
そして、我が空手部主将は三勝。ギリギリ決勝トーナメントへと駒を進めることが出来なかった。

「大丈夫ですって。負け戦の中、他には勝てたんですから」
「苗字……そうだな。後はお前がやってくれるよな」
「嫌ですよ、面倒くさい」
「苗字先輩頑張って下さいっ」
「主将と副主将の無念を晴らしてくれ!」
「え、だから嫌ですよ、面倒くさい」
「ハーゲンダッツを部員一人一人が毎日奢るから!」
「えー……じゃあ考えときます」

ダッツさんは悪くない。でも完全に餌付けされているなぁと思ってしまう。
まぁ、主将達が悔しがるのも理解は出来る。この異種武道大会は、言ってしまえば今年の部費を決定づける大会でもあるのだ。
決勝トーナメントに進むだけでも部費は弾まれる。それが優勝となれば他の部活よりも比率的に言えば2倍以上となるのだ。そりゃ頑張るよね、皆。
あたしはというと、特に頑張る気も無く、とりあえず言われたから出場しているだけだし。ぶっちゃけ部費とかはどうでも良かったりする。
ちなみに部に昇格していないサークルもあったりする。この大学ではサークルが同好会という扱いになっているからか、サークルの方々は二軍から一軍に上がろうと切磋琢磨しているらしい。
アサ子が所属している投擲サークルとかもそうらしい。投擲と弓道の違うところはナイフか弓矢か、ってだけだと思っているけれど。
サークル自体は人数が5人集まったら作れるらしいのでその辺は高校とかと同じ感じなのだろう、と勝手に解釈しているのだけれど、結局会長が気に入らなければ却下されそうな気もするなぁ。

「……君は、空手部の方に居なくても良いのか?」

観客席へと移動すれば、弓道着のままのアーチャーが女子達に混ざっていた。

「いいの。だって慰めるのとか面倒なんだもん」
「薄情だな」
「薄情で結構ですよー。だって試合見れないじゃんか」

空いていたアーチャーの隣に座る。決勝トーナメントの組分けがそろそろ発表されるはずだ。そして、明日の女子の部の対戦順も発表される。あたしにとってはとても大事な事だ。ハーゲンダッツがかかっているのだから。

「そろそろですね」

セイバーがサンドイッチを食べ終わって呟いた。
それとほぼ同時に司会のエルキドゥ先輩と言峰先生が壇上へと立った。

「えー、男子の部の決勝トーナメントを発表する前に、明日の女子の部についてお知らせがあります」

エルキドゥ先輩の凛とした声がマイクを通して体育館内に響く。中性的な顔立ちのせいか、やっぱり女子に見えるなぁ、なんて思った事は内緒だ。

「女子の部は薙刀部、柔道部が辞退をした為、空手部、剣道部、槍術部、弓道部のみの出場となります。ですので、決勝トーナメントへ出場出来るのは四選手に限定させてもらいます」

柔道部と薙刀部が辞退か……ん? 試合前に辞退出来るならあたしもして良くね? と思ったが、考えを読まれていたのか、凛からしないわよね? と釘を刺されてしまった。ちくしょう。

「美綴さんが辞めちゃったからかしらね」
「私のせいにするなんて遠坂は嫌な奴だよな」
「元々薙刀部は部員も少なかったのだろう?」
「え? そうなの?」
「去年の新入部員は綾子だけだったみたいだからねー。そりゃ綾子が辞めたら誰が出るんだろって話だよね」
「苗字もひどいなぁ。私には弓道が合ってたんだってば」
「自分に合ってる合ってないは大事だよな。オレも自分の得手にはしっくりきたしな」

いつの間にか槍術部の二人も加わって雑談が始まる。
一般的にイケメンと呼ばれる部類の人達と美人と言われる部類の人達に囲まれてしまっているので、ぶっちゃけ周りの視線が心配だったが特に気にする事も無かったようだ。
視線を泳がせていたからかアーチャーに気にされたが、特に何も無いと言っておいた。

「では、女子の対戦表を発表する」

言峰先生の低い声が響く。
結局は総当りなのだが、対戦の順番によっては体力面でキツくなったりするので、意外と対戦の順番は大事だったりする。
自分の場所を確認する。最初の対戦者は、――ん? 誰?

「名前の一回戦はネロですか。なかなかにいい試合が見れそうですね」
「え、誰?」
「剣道部女子の期待のホープだな」
「え、そうなの?」
「名前何も聞いてなかったの?」
「あー……出場する事に対して億劫だったから」

ネロ? ネロちゃん? 寝ろ、なんてとても心地のいい命令系なのだろうか。

「アルトリア先輩!」

女子の発表が終わり、男子の部が発表されるという時、観客席の背後から声が聞こえてきた。
振り向けば、セイバーと似ているようで似ていない、元気っ子が立っていた。

「名前、紹介します。彼女がネロです」
「む? そなたが明日の一回戦の相手か! 1回生、剣道部所属のネロ・クラウディウスだ!」
「あー、2回生の空手部、苗字名前です」

なんか、どこぞの会長と似ているような雰囲気がする。装飾過多が好きそうなところとか。
髪型こそセイバーに似ているものの、赤いリボンとか、主に胸部とか話し方はセイバーとは真逆のようだ。

「そこの観客席の生徒達、うるさいよ?」

黒いオーラを纏ったエルキドゥ先輩の声と視線が突き刺さってきたので、全員が冷や汗を浮かべたのは内緒だ。

「……では、男子の決勝トーナメントを発表する」
「一回戦。槍術部3回生、ディルムッド・オディナ。そして、弓道部2回生、衛宮士郎。そして、第一シードは剣道部4回生、ギルガメッシュ。二回戦は、弓道部2回生のエミヤ、剣道部2回生のランスロット。第二シードが槍術部4回生クー・フーリン。――以上となっています」

ざわ、と観客席がざわつく。
今から男子の部の決勝トーナメントが始まるんだ。
今あたしの座る観客席には進出者が四人居る。普通だったらピリピリしてるものなのだろうけど、これからの試合を楽しみにしているようだった。

「アーチャー、頑張ってね!」
「あぁ。私の出来る限りを出し尽くすつもりだ」

友達名前ちゃんがアーチャーを応援するのに、抵抗があったわけではないけれど。士郎を凛達が激励するよりも自分の耳に聴こえてきた。
振られてしまったのだから気にするな。なんて、他人が言える事だ。本人はとても辛いものなのだよ、うん。

「おいアーチャー」
「なんだクー・フーリン」
「お前さっきは本気じゃなかっただろ。次は本気で来いよ。ぶっ殺してやるから」
「クーさんは殺気立つのを止めてくれないか。苗字さんが引いているだろう?」

オディナ先輩の言う通り引いているのは確かなのだけれど、なんでこう男という生物は対抗意識を燃やすのだろうと考えてしまう。
闘争本能を抱くのが男性の心理ではあるのだけれど、そこまであからさまにしないでもいいと思うのだ。

「そういえば、名前は誰を応援するのですか?」

ライダーの一言で、雑談を始めていた全員が黙った。
他の生徒の声は響いているのに、どうして全員あたしを見ているんだ。

「ん? 苗字先輩は誰も応援しないのか?」
「え、あ、いや、そういうわけじゃない、と思うけど……」

ネロちゃんが追い討ちを掛けてくる。

「えー? アーチャーじゃないのー? だって幼馴染みだしー?」
「ね、姉さんっ、その言い方はちょっとあからさま過ぎます……!」
「ではシロウでしょう。高校からの友人ですから」
「それは関係ないのかもしれませんよ、セイバー。全体的なバランスを見るとオディナ先輩が無駄の無い動きをしていますし」
「ま、まさかのクーを応援するの!? それはやめときなって! だったらギル兄を応援した方がいいって!」
「同学年だし仲のいいランスロットじゃないの? よく喋ってんじゃん」

女性陣が好き勝手に言い出す。それとは対象的に、あたしは男性陣から詰め寄られていた。

「苗字さん、俺だよな?」
「いやいや、お前らここは年長者に譲れよ!」
「君は名前との接点でいうとただの先輩後輩の繋がりだろう。やはり、幼馴染みである俺が――」
「お前も幼馴染みって連呼するな。俺だって実力はある。応援してくれても、損はないと思う……多分」

ずい、と詰め寄られて、言峰先生の一回戦を開始する声と重なるように、あたしはこの場に居ないランスロットの名前を口から出すことしか出来なかった。


(2015/06/03)