アパシーがーる。



何分間、あたしはベンチに腰掛けていたんだろう。
そんなに長くもないし、短くもないはずなのだけれど、何も考えずに、ただぼーっとしていた。
気がつけば、チャットアプリからのきた友達名前ちゃんのメッセージで何時かを知ることになったけど、今から体育館へと向かう気力は無い。
――決勝始まったけど、どこに居るの?
どこにも行けてませんむしろ動けてませんって状態なので、なんにも出来ませんんんんんん!
なんて送れるわけもなく、悩んだ時こそ向かう場所があるじゃないかと、実況中継だけお願いと簡素なメッセージを送ってあたしは道場へと足を進めた。
い草の匂いは休憩時に来た時と変わっていない。
ふぅ、と息を吐いて、座禅を組む。そして、クーさんの事を考えてみることにした。



去年の四月某日。大学の入学式にどんなキャンパスライフが待ち構えているのだろうと心を踊らすわけもなく、あたしはアーチャーに引っ張られながら大学の敷地内へと足を踏み入れた。
指定された場所で名前を言う簡易的な受付を済ませ、アーチャーとは学科が違うので別れて指定された学科別の講義室へと向かった。
向かったはずなのに、あたしはあろう事か迷ってしまったのだ。
白い壁と綺麗に掃除されている窓しかない廊下は、さながら病院の一角みたいで気持ち悪くなってくる。
校内の見取り図さえも見つけられず、一人で大丈夫だとアーチャーに言っていた数分前の自分に叱咤する。むしろ、どうしてこういう時に限って方向音痴になるのだ、と今の自分も叱咤したい。
ガヤガヤと聞こえていた生徒の話し声もしなくなってきた。スマホで時間を確認すると、もうすぐで学科別の講習が始まる時間になる。
受付を済ませたのに講習に現れないとかどんな不良だよ! このままだと怒られる! アーチャーに! 怒らせたくない奴にこっ酷く叱られる!
これはもう先に何処かの講義室に入っているだろう凛か士郎に連絡したら迎えに来てくれるだろうか。
あ、でも、士郎はアーチャーと同じ学科だった気がする。死亡フラグが乱立してしまってる!

「おい、何してんだ?」

頭を抱えて今にでもその場でごろごろと転がってしまいそうになった時、頭上から声が聞こえてきて顔を上げる。
え、あの、青い、髪? 本物の不良さんですか?

「お前新入生だろ? 何してんだ?」
「え、えっと、あの、きょ、教室が、わ、わわ、わからなくて……」

仲のいい友達以外と話すのはいつぶりだろうか。
引きこもりでゲーマーなあたしからすると、大学入学して一番初めに話すのが青い人なんて怖いんですけど、目つきも悪そうだし、本物の不良さん怖い。

「あー、迷ったのか。案内の紙とか持ってねぇの?」
「あ、ある! ます……」

手で握っていたからか、原型をとどめずクシャクシャになったプリントを1枚渡す。青い人はあー、こりゃ迷うわ、と独り言を言って、あたしにプリントを返してきた。

「ついて来いよ」
「え、」
「案内してやるから。迷ったって言えばお咎めなしだろ。ただでさえこの大学広いからなぁ」

先に歩くことも無く、あたしの隣で歩幅を合わせて歩いてくれる青い人は、不良ではなく普通にいい先輩なのかもしれない。人は見かけによらないなぁ、アーチャー然り。

「なんで、苗字はこの大学選んだんだ?」
「あ、いや、ニートするつもりだったんです」
「マジかよ」
「マジです。でも、幼馴染みと親が結託して、受験させられまして」
「お前も難儀な家庭環境だな」
「ははは、確かにそうかも」

ふと、フーリン先輩が足を止めたので、振り返る。
すると、屈託の無い笑顔を私に向けた。

「やっと笑ったな! お前、笑った方が可愛いんだから、笑えよ!」

――それが、あたしと、クーさんの出会い。
あの時は後々留年したって聞いて、やっぱり不良だってなったんだっけ。
そこからなんやかんやゲームの話で意気投合して、仲良くなっていったんだよなぁ。

「――あれ?」

自然と笑みが零れていた事にはっと気付いた。
あたし、告白された事には驚いたけど、別にクーさんの事嫌いじゃないし、むしろ友達としては好きだ。
それが恋愛感情になるかどうかは分からないけど、付き合う事に関しては嫌悪感なんて無いし。想像出来ないだけなんだ。
アーチャーへの想いはまだそんなに断ち切れていないけど、クーさんと付き合ったら楽しそうだし、前向きになれそうな気がする。
案外、簡単な事だった。
告白されて驚いていただけだったんだ、あたし。

「……よしっ」

気合を入れる為に両頬を叩いた。
これで、クーさんと会長の決勝を見れる気がする。
やっぱり、道場に居ると冷静に考えれた。さすが慣れ親しんだ場所だ。
扉から出る前にい草の香る道場へと一礼して、あたしは体育館に向けて走り出す事にした。
まだ、間に合うはず。根拠なんてないけれど。
全力で走った先の体育館は、シン、と静まり返っていた。
マナー設定にしていたスマホが震える。
中に入る事に少し躊躇っていたので画面を確認してみれば、友達名前ちゃんからだった。

『今どこ!? まだ間に合うから! 早く来て!』

懇願とも受け取れる内容に戸惑いながら、到着した旨を伝え、意を決して階段を上り観客席へと向かう。
椅子に座らずとも見える階下の会場の様子は、クーさんが尋常じゃないくらいの汗をかいているのに対し、会長は汗一つかいていなかった。


(戦闘続行スキルなう。2015/08/25)