アパシーがーる。
世の中には、理不尽な事がたくさんあるとあたしは思うのだ。
人に優しくしろとか言うくせ、結局自分には何の恩恵もなかったりとか。なんか、とりあえず色々。
あたしは世の中を楽しく生きたい。それと同じように如何に息抜きをしながら過ごせるかを考えて生きたい。
ガス抜きというか、サボタージュする事もたまには大切なのである。
「それは始業式初日から大学に来ないとか、そんな冗談じゃないだろうね?」
「……げ、アーチャー…」
こたつでぬくぬくと暖まっていれば、突然現れる来訪者。幼なじみの褐色……間違えた、アーチャーが呆れ顔をしながら我が城へと侵入してきた。
アパートの一室、1LDKの一人暮らしには申し分ない広さのあたしの城である。
「無礼者! ここは我が城であるぞ!」
「無血開城を試みたのだが……」
「すみませんでした。すぐ着替えます」
アーチャーが冗談を言う時って一番怖い。
ぬくぬくと暖まってたこたつから出て自分の部屋に向かう。覗くなよ! と釘を刺せば、君みたいな貧相な体云々と言ってやがったから、後でローキックをお見舞いしてやる。
四月と言ってもまだ少し寒い。生温かい風はまだ来ないのか。
とりあえず適当なTシャツと短パンとパーカーを装備した。あとはニーハイ。これで少しは寒さも凌げるだろう。
「アーチャー、準備できたよー」
「わかった。では、鞄を持って私の所へ来い。朝食なら既に出来ている」
私の所に、というのは、この部屋の隣の一室。アーチャーが一人暮らしをしている部屋に来い、ということだ。
うちの両親はアーチャーにかなりの信頼を寄せていて、不埒な娘だけど宜しくとか何とかぬかして高校も今通う大学も同じ所に入学させやがった。一人暮らしを始めると言えば、アーチャーも一人暮らしをすると言い、大学近くに住みだしたものの結局お隣さんなのは変わらない。
小学校からの付き合いだからか、もうお互い遠慮なんて無いし。
ただ、アーチャーの実家に遊びに行けば、女の子が欲しかったというママさんに今でも着せかえ人形にさせられるのはいただけないけど。
「いっただきまーす!」
今日の朝食は和食だった。
焼き魚はあらかじめある程度解されていて、さすが長年の付き合いだとか思ってしまう。
もさもさと炊き立ての白ご飯を食べ、お味噌汁もがぶ飲み。食べ方が汚い訳じゃなく、豪快なだけ。美味しいものは豪快に食べた方が美味しく見えるし、何よりも美味しく感じるのだ。これ、あたしの持論。
「御馳走様でしたー!」
お粗末様だった、と言うなり食器を片付けて早速というように食器洗いを始めた。
テレビを点ければお天気お姉さんが今日の気圧配置がどうだとか色々説明していたのを食い入るように見ていれば、アーチャーがやっと暖かい気候になってきたな、と呟いた。
「うん。あったかくなってきたから、お姉さんの露出もだんだん増えてきた」
「……君は何を見ているんだ」
「お姉さん」
「天気を見ろ。そして歯を磨いてこい」
洗い終わった食器を拭きながらアーチャーが言う。誕生日に気紛れであげた赤いエプロンまだ使ってるのか、とかツッコミ疲れた箇所は何個もあるが、とりあえず機嫌をこれ以上損なわない為に洗面所に向かった。
アーチャーの部屋は、あたしと同じ1LDKの造りなのだが、一つ違う点があるとすればユニットバスではなくセパレートタイプだと言うことだ。あと独立洗面所。これ大事。
他は同じ作りなのにどうしてこうも隣同士の部屋で違いがあるのかとか色々思ったりもしたが、今となっては別段気にしてない。むしろ湯船に入りたかったらお風呂セットを持って隣人の家に突撃するくらいだから。アーチャーもなんだかんだ文句言いながらお湯溜めててくれてるし。
洗面所には、黒のラインが入った歯ブラシと水色のラインが入った小さめの歯ブラシがコップに立てかけてある。
恋人同士というわけでもないけれど、なんだか毎回これを見る度に笑みが漏れるのだ。
「早くしないか。一限に遅れるぞ」
「うーっふ」
歯磨きをしている最中に声を掛けないで欲しい。あ、口から泡が垂れてきた。
結局、アーチャーに急かされてアパートを出たんだけど、アパートから徒歩10分圏内に大学があるんだから別に急がなくても良いと思うんだけどなー。前にそう言うニュアンスで文句言ったら、だから君はいつも遅刻ギリギリなんだとか説教が始まったから、今では心に留めている。
ほんとお母さんだ。アーチャーママも良くしてくれるんだけど、こんな小姑みたいな、サーフィンで褐色になって髪も色素が抜けて白髪ぽいかーちゃんなんていらない。
「名前」
「なにー?」
「今、私に対して失礼な事を考えなかったか?」
「え、なんで?」
「君がそのような表情をする時は、よからぬ事を考えている時だからね。少しカマを掛けてみたのだが、本当だったようだな」
「何言ってんのかーちゃん。あたしはいつもかーちゃんに感謝してるんだよ? よからぬ事なんて、そんな後で跳び蹴りかローキックしてやろうとかしか考えてないよ」
「それがよからぬ事と言っているんだ。あと、私は君の母親ではない!」
じゃあ家政婦、と口にしたら殺されそうだから止めておく。かーちゃん怒ると怖いもん。冗談抜きで怖いもん。
前に大変な目に遭ったからもうあの時のことを思い出したくない。怖かったとしか言えない、いや、マジで。
「ぶつかるぞ」
アーチャーの忠告虚しく、あたしは大学の門に激突していた。
(2012/12/11)