アパシーがーる。




さて、ここで一つ疑問が出来た。
どうしてエルキドゥ先輩は、あたしにここまでしてくれるのだろうか。会長みたいにただの興味本位で、後輩をからかっているのであれば別にそれはそれで構わないのだが……この人の場合は、何か違う気がする。これは直感で、確信ではない。それでも、この人の明るさには、何か裏があると思ってしまう。
食後の紅茶を飲みながら、対面で座りあたしと同様に紅茶を啜る先輩を見る。ティーカップが妙に似合っていて、本当にこの人は男性なのかと疑ってしまうレベルに小顔だし、可愛い。あと髪の毛サラサラ。うらやましい。
あたしの視線に気が付いたのか、先輩は閉じていた瞼を開け、こちらを見るなり頭をかしげた。

「どうしたの? 何か気になる事でもある?」
「いや……気になるというか、先輩って本当にお綺麗だなぁと」
「そんなに褒めても何も出ないよー? でも、ありがとう。嬉しい」

微笑む姿もまた絵画の様に美しく、窓から差し込む太陽の光の所為か髪の毛がキラキラだ。キラキラ。目の前にいるのは天使なのか。男の娘天使なのか。もうボキャブラリーが無くて表現できないのだけれど、自分が男だったら惚れてる勢いです、はい。ただし先輩は女になって下さいね、お願いしますね。
カチャリ、と音を立ててソーサーにカップが置かれる。
あたしは目をそらしていたのだが、今度は先輩があたしを見ていたようで。視線が合わさると、綺麗な翡翠色の瞳に吸い込まれそうになった。
この人は本当に、本当に不思議な人だ。嫌な感じはしないのに、心を全て掴まれているような気持ちになる。ある意味、アーチャーと同じなのかもしれない。あれは無自覚なドンファンだが、エルキドゥ先輩は自覚しているドンファンかもしれない。

「……今からは僕の独り言。だから聞かなくても良いからね」
「え、……あ、はい」
「あはは、聞かなくても良いってば」

彼の言う通り、まだカップに残っている紅茶を啜りながら、聞いてない振りをしてみる。意外とこれが難しいのだが……演技と思い込んで凌ぐしかない。
話を聞いて欲しいけどコメントは欲しくない。聞かなかった事にしてほしい。――という事ならば、この名前ちゃんの演技力をここぞとばかりに発揮しようじゃないか。

「最初はね、ギルが君に興味を持ちだした時、僕は君の事が嫌いだったんだ」
「……っ、?」

最初っからドギツイのが飛んできましたけど!? 鉄球ですか!? そんなカミングアウトされても嬉しくないのだけれど…!?

「でね、君がどんな子なのかと思って、声を掛けたんだ。それが、生徒会室に誘った時。やっぱり君はギルから聞くよりも面白い子だった。話をする度に、君は新しい一面を見せてくれて、ギルの言う飽きる事が無い人だと思ったんだ。僕もギルと同じ位興味を持った。部活で頑張る君、授業中に居眠りをしてしまう君、バイト中の気怠そうな君。その全てが今まで接してきた人間よりも人間らしくて、新鮮で、面白かった。……だからね、僕、考えたんだ」

にっこりと微笑んでいたエルキドゥ先輩の瞼が、また、うっすらと開かれていく。翡翠色をしているはずの瞳が、深淵に覗かれているように感じてしまって、鳥肌が立った。
何かあたしは言ってしまったのだろうか。でも、聞いている振りをしていただけで何も言葉を発していない。何が優しいエルキドゥ先輩だよ。これは殺気が混ざったような視線だよ……!!
目線をそらす事が出来ずに気圧される中、エルキドゥ先輩は深淵からあたしを覗いて引きずり込もうとしてくる。抵抗できずにあたしは闇に飲み込まれてしまうのか。
……いや、それは駄目だ。この闇に飲み込まれたら戻ってこれないと思う。それは嫌だ。あたしはまだ、やりたい事が沢山あるのだから。
まばたきってどうやるんだっけ。呼吸の仕方ってどうだったっけ。
世界が揺れている気がしても、冷や汗が背中を流れる気がしても、忘れてはいけない。あたしは、やっぱりアーチャーが――、

「君がギルと一緒になってくれたら、みんな幸せになれるのにって」
「……っ、…は、…」
「ねぇ、名前ちゃん。ギルと一緒になってよ」

悪魔の囁きだ、と思った。


(2018/07/20)