アパシーがーる。



率直な感想は、こいつ何言ってんだ? だった。
先輩をこいつ呼ばわりはしれはいけないと理解しているのだが、いや、本当に、この人は何を言っているのかと思った。
まず、どうして会長とあたしなのだ、と。何の接点も無い……あるとすればアルトリアを仲介してだったり、病院的な意味でお世話にはなっていたが、あたしは会長に何の感情も無く、きっと会長側もそうだろう。面白い後輩と思われているのは解せぬが、それは多分、周りの人間も居ての事だと思われる。
であれば、なぜ、あたしと会長が一緒に、という選択しが導き出されるのかが分からないのだ。

「あれ? 僕、変なこと言ったかな?」
「えぇ。誰が聞いても変な事だと思いますよ」
「そうなのかな。だって、名前ちゃんと居る時のギルって、楽しそうなんだよね」

僕と居る時よりも、と小声で付け足しているので、これは軽い嫉妬なのかもしれない。と考えを改める事にする。
その嫉妬はあたしが良く知っているものだからだ。ずっと一緒に居たアーチャーが誰かと仲良くしていて、自分の気持ちに気づかないふりをしたまま関係を応援する。……ただのあたしじゃないか。
目の前に居るのは性別は違えど、幼馴染の事が好きで好きなあたしと認識すれば、必然と口から言葉が紡がれていく。

「大丈夫ですよ、先輩。あたしは会長の事、どうも思ってないですから」
「え? そうなの?」
「むしろ苦手の部類です。とりあえずアルトリアだけからかって下さいと思う位ですから」
「ふぅん……」

何かコメントを間違えたのだろうか。あたしが言われて安心する言葉を言ったつもりなのだが、これは不正解だったのだろうか。
だって友達名前ちゃんにこう言われたら安心するもん! いやもう二人とも両想いっぽいから、潔く付き合ってくれたらあたしもここまで考える必要はなくなるのだけれどさ。如何せん二人とも変に奥手なんだからさ。早く付き合えよ、もう。
エルキドゥ先輩は何か考えるように口元へと手をやり、伏し目がちに唸る。あたしには何を考えているのかとか理解出来ないのだけれど、元々この人の考えている事なんて分からないし読心術が使えるわけではないので、早く何か言ってくれないだろうか。

「……もしかしてさ、名前ちゃんは、僕がギルの事好きだと思ってる?」
「え? 好きですよね?」
「好きだけど、僕が好きなのはLikeだよ?」
「それくらい分かってますよ?」
「なら……良いんだけど」

今度はエルキドゥ先輩が解せぬという表情をした。
なんだ、あたしが同性愛を想像したとでも思ったのか。二次元では一応するかもしれなかったりしてしまう事もあるかもしれないけれど、三次元では一応していないつもりだ。妄想と現実は儚くも違うものである、うん。

「あたし、本当に会長に対して好意とか、そういうの一切無いんですけど……」
「本当に? ギルだよ? ギルガメッシュだよ? 結婚したら玉の輿なんだよ?」
「玉の輿には惹かれますけど、相手があの会長なら嫌ですかね。だって会長ですよ? 恋人関係とか結婚生活とかまともであるはずが無いじゃないですか。あたしは一応一般ピープルなので、なんでも普通が良いです」

なぁんだ……と落胆しつつも、くすくすと笑いだすエルキドゥ先輩の感情の起伏がどうなっているのか知りたくなってしまう。一体、何が面白かったのだろうか。
この人に捕まってからよくわからない押し問答が始まり、あたしに何を求めているんだと考えてもそれは外れていて、結果、何の話をしているのかも混沌へと陥っていき収拾がつかなくなる。
会長程でもないが、この人も結構自分勝手に話し過ぎて、外見はとても美少女なのに案外扱いにくい人種なのかもしれない。

「あっ、じゃあさ、僕と一緒になる?」
「はい?」
「そうだね、そうしよう。そしたらギルも君も一緒だし!」
「いやいやいや! 先輩ちょっとそれはおかしくないですか!?」

確信した。
この人は会長同様、人の話を聞かない人種だ。
今更ながらの確信に、苦笑しか漏れなくなる。そりゃあ、会長と長年幼馴染として関係を続けているんだ。元々どちらかが人の話を聞かない人種だとしたら、似た者同士になっていく可能性は高い。結局は似た者同士だと思うけれど。

「え? ギルは嫌なんでしょ? 僕はギルよりも君の事大切にするよ?」
「あの、本当に意味わからないのですが……」

えー、なんでー。と、言ってくる先輩の服装も含め、どうしてあたしは今告白されてるんだ?
でもこれは、きっと、先輩の中では告白ではなく、ただのからかいだと思えてしまうのは――少なくとも、この人達の事を知れているという事なのだろうか。嫌ではないけど、なんだかむず痒い。

「僕と一緒になったらギルも付いてくるよ!」
「一切お得に感じられないのですが……!?」
「ここまで言っても僕と一緒は嫌なのか……」
「嫌っていうわけではなくですね? とりあえず、あたしの話聞いてくれません?」
「名前ちゃんって冷たい」
「そう言われましても……あたしはエルキドゥ先輩とも会長とも一緒になる気なんて、今のところ一切ありませんから……!」
「――誰と誰が、一緒になるだと?」

あ、なんか悪寒がした。なんだこれ、なんだこれ。ヤバい気しかしないんですけど。

「あぁ、なんだギルか。予想より早かったんだね」
「たわけ。お前が会議を休んだから皺寄せが来たのだ。この借りはきっちり返してもらうぞ」

あたしの背後に立つ人物とふてくされたように会話するエルキドゥ先輩から視線を逸らせずに、固まったまま、二人の会話中に隙を待って立ち去ろうかと考えていたのだが。
待てど待てどその時は来ず。
結果的に、あたしは背後に立つ人物になぜこの場所に居るだの早く帰れだの責められ、あれよあれよと担がれて装飾過多な生徒会室へと拉致されるのだった。
担がれている間、とてつもなく笑顔だったエルキドゥ先輩の事を、初めて天使の顔をした悪魔だと思った。


(2018/07/23)