アパシーがーる。
担がれたあたしを助けてくれたのは講義が終わったアーチャーであり、会長もその場に居合わせたセイバーへと意識転換してくれたのでなんとか難を逃れたあたしに対して苦虫を噛み潰したような渋い顔をする幼馴染の存在は、やっぱり自分の中で大きな存在だと思った。
いやでもしかし、だ。彼は友達名前ちゃんが好きであり、友達名前ちゃんもまた彼が好きなので、二人の両片想い状態はいつ終わるのかと隣に本人が居るのにも関わらず、ついつい思案してしまう。普段は好きだと思ったら速攻アタックのアーチャーらしくない。進級して二カ月が経つというのに、勿体ない。恋人たちの夏が近付いているのだから、早く付き合ってしまえばいいのに。
そんな事を表面に出さずに考えていれば、会長をあしらい終えたセイバーにコンビニへ行く事を提案された。
断る理由も無いし、そもそも今日大学に来たのはアイリ先生に用があったからだ。快くその申し出を受け入れれば、ついでに合流した士郎や凛、桜ちゃん達も交えて大勢で大学近くのコンビニへと行く事となった。
学食にはコンビニと差異の無い売店もあるのだが、何から何までが庶民向けというわけではない。利用する率で言えばそりゃあ売店の方が多いが、ここは庶民らしく庶民のコンビニエンスストアの方が落ち着くというものだ。
大学敷地内を出てすぐの横断歩道を渡るともうそこはコンビニの敷地内。店内は、時間も時間だからか客は居なかった。
レジカウンターの中には怠そうに頬杖をつきながら欠伸をする店員しかいない。ガヤガヤとしていても迷惑する人間は居ないと判断し、あたしはアーチャーから距離をとろうとセイバーや凛の輪へと加わる。
男は男で仲良くしてなさい。仮にも兄弟だろうが、と気まずそうな士郎とアーチャーを横目で見遣ったが、それはそれ。友達名前ちゃんとの仲も気になるが、この兄弟の仲も気になる。似た者同士の同族嫌悪はいい加減にしてほしいものだ。
アイスを選びながら凛も二人の事が気になるのか、チラチラと様子を伺っているのが二人にばれそうだったので、凛とアイスを籠にどかどかと入れるセイバーを商品棚に隠れるように引っ張り込んだ。
「な、なんなのですか! 私はまだアイスを――」
「そんなの後でも良いわよ。ほら、セイバーも気にならない?」
凛の視線を追うように、セイバーが肩を並べて気まずそうな表情を浮かべる男二人を視界に映した。そして一言、なるほど、と呟く。
「彼らは本当に血の繋がっている兄弟……かどうか疑いたくなりますね……」
「ややこしいものね、衛宮君の家って」
「両親が忙しくて、小さい頃は三人とも別々の親戚に預けられてたしねー。まぁ、その両親は保健室に居るわけですけど」
「稀有な運命よね、全く」
「三人……という事は、あと一人は?」
「あれ? ライダーは知らなかったの? 一つ上の学年に二人のお姉さんが居るのよ」
「なっ――、」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。姓はアイリ先生の方だから気付かないのも無理ないか。あたしも大学で初めて紹介されたし……というか、男二人からの話でしか存在は知らなかったんだよねー」
「そうよね。私達もそうだわ。全くよくわからない姉弟よね」
「その事に関して、凛と桜は何も言えないのではないでしょうか…」
「ちょ、セイバー、それは禁句だから……!」
凛と桜ちゃんに関しても、なんだかんだややこしい姉妹なのだ。いや、本当に。
この大学はややこしい人間たちが集まる法則でもあるのだろうか、と思ってしまう位に人間関係がややこしい事を再確認した。むしろ、自分の親が教師をしている大学に入学するこの友人達の気が分からない。あたしは大学まで親が絡むのはあまり好かないし、絡んでくるのであれば一生すねをかじり続けていたいくらい。あたしはニートになりたいのです。
「しかしながら、会話をしているのか、これではわかりませんね…」
ライダーの意見は尤もである。あたし達から見て二人の背中しか見えないし、声も小さいのか店内BGMでかき消されているようで聞き取れない。それぞれ雑誌を見ているようだが、その雑誌の中身ですら背中で隠れて目視しづらい。
「会話しているようには見えませんね」
「ねぇ、名前。あとで探りを入れるとか、出来ないの?」
「アーチャーは士郎の事となると口が堅くなるからなぁ……。でも、手はある」
「さすがです、先輩」
「という事でスマホを取り出します」
「それで、どうするのですか?」
「とある人物にメッセージを送ります」
「誰に送るのよ?」
「そうすると、二人はスマホを確認します」
「……確認してますね」
「そして二人は同時に頭をポリポリ掻くでしょう」
「なんと! 同時です!」
「最後にこのコンビニにメッセージを送った人物が現れます」
あたしがそう言った瞬間、コンビニの自動ドアが開いて客を迎える音楽が店内に鳴り響いた。
チロリロリーン、と鳴り終わるや否や、同じタイミング、同じ速度で自動ドアへと顔を向ける男二人。あたし達も入ってきた人物が見えるようにと商品棚を移動する。
コンビニに入ってきたのは、この場に不釣り合いなくらい白銀の紙色と赤い瞳の色が映えている、先程話をしていた二人の姉だった。
確かに連絡を送ったけど、行動早すぎじゃないか?
「シローウ、アーチャー! 二人でお出掛けなんてズルいんじゃなーい!?」
イリヤの存在を確認した男二人、とてつもなく焦った表情をする、の巻。ついでに凛も解せない表情をしていたが、そこは気にしないでおく。
だって二人がプライド無しに包み隠さず話す相手ってイリヤなんだもーん。お姉ちゃんのパワーって凄いんだぞ?
「これで情報収集出来る!」
「出来る! じゃないわよ! アンタね、アイツにお願いなんてしたら見返りが怖いのよ? わかってんの!?」
「ゲームの協力プレイを申し出たら簡単に承諾しましたけど?」
スマホのメッセージ画面を見せる。あたしが送ったのは、コンビニなう。士郎とアーチャーが二人で何か話しているけど聞こえないので探りを入れてほしい。報酬はこの間発売したゲームの協力プレイでどう? という内容だ。
ちなみに、このゲームでイリヤが詰んでいる事は彼女のボディーガードであるヘラクレスさんや、彼女の家のメイドであるリズさんから聞き取り済み。
イリヤからは、約束だからね! というなんとも可愛いスタンプ付きで返事を貰っている。この画面を見た凛は頭を抱えているが、これはあたしの作戦勝ちと言ってほしい。
結果、弟は姉に弱い。
こちらをチラッと見たイリヤパイセンのウィンクを確認したところで、あたしは自分の飲み物を持ってレジに向かう。
他のメンバーは終わりまで確認したいようだったが、アイスが溶けるという一言でセイバーを味方につけ、全員でレジへと向かったのだった。
その後、大学に戻ってひたすらアイスを食べ続けるセイバーを眺めながら姉弟仲良く話をしているのだろうなぁ、なんて物思いに耽る事、数分。ぐったりとした表情の弟’sが戻ってきた。
その表情から見て、イリヤパイセンの相手はさぞ疲れたのだろう。姉は強し。衛宮家のピラミッドの頂点はいつまでたっても揺るがず、女が君臨し続けるのだろう。母親然り、姉然り。
あとは二人をぐったりさせた張本人からの連絡を待つことにしよう。
士郎が戻ってきたことにより、講義が残っているメンバーはそのまま別れたのだが、あたしとアーチャーが残るなんて聞いていない。時間が最初に巻き戻った感覚がする。午後の講義は大丈夫なのかと問えば、午後イチは休講だという。彼があたしに嘘をつくはずがない。だからその言葉を信じる。が、去り際の、ちゃんと名前を送り届けるのよー! と言いながら去って行った凛の言葉も気になる。
変に気を遣うなよ……なんて、あのお節介シスターズに話しても意味が無いだろうけれど。あたしに気を遣う前に、お前らの想い人をなんとかしなさいな。
「君はもう帰るのか?」
「…え、あぁ、うん。とりあえずアイリ先生にケガの具合見せたかったってのもあるし……なんか会長にあれよあれよと移動させられてるし……。うん、疲れたから寝たいかな!」
「ならば、今日の夕飯は軽食にしよう。軽食と言っても、手は抜かないがな」
「さすがアーチャー。そこにシビあこ」
「……? なんだ、それは……」
「気にしないで。定型文だから」
夕飯を楽しみにしているという会話で話の流れを止めて、家まで送ると言ってくる幼馴染を必死に食い止めながら、なんとか一人で大学の門を出た。
理由はただ一つ。なんだか嫌な予感がしていたからだ。
今日は散々振り回された。このまま大人しく帰す、なんて、寸前の行動と矛盾している事をあの人がするわけがない。多分、これは機を窺っていたに過ぎないのだ。
噂をすれば影。自分の住むアパートへと向かう為に曲がるはずの角に、黒塗りの車が停まっていた。
(2018/10/12)