アパシーがーる。
あたしがアーチャーと知り合った頃、こいつはか弱い男の子、みたいな印象だった。女々しいと言う言葉が本当に似合う、女っぽい男の子で、小学校の制服である黒い短パンがとても似合っていた。
小学校は私立とかではないけれど制服が支給されてて、あたしはよくスカートの下にズボンを履いて先生に怒られてた。
アーチャーは転校生で、あたしとは違うクラスだった。同じ幼稚園だった子曰く、可愛い男の子という話しか聞いてなかったから、それほど興味がなかったのを覚えている。
そんな冷めた小学二年生の秋。空手の稽古が終わって帰宅していた時、近道をしようと近所の公園を通り抜けようとしたら、上級生の輪の中に奴は居た。
言葉の通り、上級生の輪の中。囲われた鳥のような状態だった。
奴は泣きそうな顔をしていて、囲んでいる上級生は得意げな顔をしていて。虐められているんだ、とすぐに理解出来た。
『弱い者虐めは良くない。ヒーローになりなさい』
空手の師範がそう言っていたからか、あたしの中の正義感が反応したのか、気がつけばその輪の中へと全力で走っていた。
そして邪魔すんなと襲いかかってきた上級生をあれよあれよという間に地面に伏せさせていたのだ。少しはしょったけど、こんな感じ。
ははーっと殿様に頭を下げるみたいにひれ伏すずたぼろの上級生の前に立つ同級生の女の子。それが自分の後ろにしゃがみ込んでいた男の子にはどう見えたのか分からないけれど、あたしはその瞬間に気に入られてしまったらしく、これまた気がついたら助けた男の子の家へと招待されていた。
そして驚いたのは、女々しい男の子の家は、あたしの家の真後ろについ最近建てられた高級マンションの最上階だった事だ。
あたしの家は貧乏で、昔ながらの長屋を少し改築したような家だ。それに比べてこいつはこんなマンションの、しかも最上階に住んでいるのか。と、幼いながらに格差社会を思い知った。
それから育ててくれているという一緒に住む親戚さんに紹介され、家族ぐるみで仲良くなり、中学も同じで、高校も同じになって、大学までも一緒になった。腐れ縁にも程があると思う。
そしてあたしは、気付きたくない気持ちに気付いてしまうわけだけど。
「部活は終わったのか?」
「新入生獲得云々の話だったからバックレてきた!」
「それをどや顔で話す君に呆れを通り越して殴りたくなって来るな」
「やだ! アーチャーはいつからパワハラするような男になったの!?」
「……もう良い。帰るぞ」
「はーい!」
先に部活が終わったらしいアーチャーに、大学の中庭で待っててもらっていたのをロッカールームで思い出し、少しだけ駆け足で向かった。
案の定というか、何というか。女生徒に告白されていたのを最後まで見届けて、告白した相手が去ってからアーチャーの側に寄る。
そのまま大学の敷地を出て、アパートまでの道のりを二人で歩いた。
自分よりも30cm高い位置にある顔を見る。
元々の肌の色が思い出せない程、太陽光に焼けた褐色の肌。
中学の頃にハマったサーフィンのせいで色素の抜けきった髪の毛。
小学校の頃はあたしより小さかった男の子は、いつの間にかぐんぐんと成長期を迎えても尚、身長を伸ばしまくった男性へと変わっていた。
「……ねぇ、アーチャー」
「どうした? 夕食への我が儘なら聞く耳持たないぞ」
「ちぇー」
「名前、君は食に対する意識を改善しなければならない。第一、ジャンクフードで一日を過ごすから身長が伸びないんだ」
「うるさーい! まだまだ伸び盛りなの! これからなの!」
「女性の成長期はもう既に終わっている筈なのだが?」
夕暮れがだんだん沈んでいく。住み慣れてきた我が家まであと少し。
あたしがずっとアーチャーの事が好きだと言えば、この幼なじみは卒倒するのだろうか。
(2013/01/03)