アパシーがーる。

 
「男の子ならもっと強くならなきゃ」

そう言われたのは十年程前だっただろうか。
親の仕事が理由で親戚に預けられる為に転校した先の小学校ではすぐに目をつけられ、子供特有の虐めに遭っていた。
彼女にそう言われたのも、持って来いと言われたはずのゲームソフトを忘れ、待ち合わせ場所であった公園で殴られ蹴られを繰り返していた時だった。
ゲームソフトを忘れたのはわざとだった。
その日は弓道の練習の日で、鞄の中には愛用の弓がある。いざとなったらそれを用いて――と思っていたのだが。
鞄に手を掛けた時に、思わぬ助っ人が現れた。それが、彼女だった。

完膚無きまでに――という表現は少し過剰すぎるかもしれないが、彼女は苛めっ子をやっつけるヒーローになったのだ。
そして、俺を助けた少女は、安否を気遣うよりも先に言ったのだ。男の子ならもっと強くならなきゃ、と。

その場の成り行きではあるが、その少女に家まで送ってもらう事となり、タイミング良くマンションから出て来た親戚と居合わせてしまったのだが……それはまた、後程の話としよう。
そんなこんなで、俺とヒーロー……苗字名前は家同士も近く仲の良い幼なじみとなったのだ。



「アーチャー? どうかしたのか?」
「――いや、なんでもない」

思いの外、昔に浸りすぎていたようだ。
衛宮士郎に射の順を促されるなど、我ながら不覚である。
ちなみに、この私の目の前に立つオレンジ色の髪をしたツンツン頭は家族と言うか、一応弟ではあるのだが、個人的には認めたく無い。
ちょっとした家庭の事情で、離れて暮らしていたものだからか、家族とは認められない。個人的に。

「士郎ーっ! アーチャー! 真ん中当てちゃってー!」

静かに待っておくと言っていた白髪の少女――に見えるが実は腹違いの姉が叫ぶ。
俺の家庭は色々複雑なのだ。察してくれ。
弓を携えたまま藤村教諭の元へと歩む。どうしたのかと問うてくる教諭に早退の旨を述べると、日頃の生活態度のお陰か許しを得ることが出来た。
今日は早々に帰宅して、名前の好きな夕飯を作ろう。

「――、」

何を考えていたんだ、俺は。
名前とは、一週間前に喧嘩したっきりだと言うのに。

「あら、もう練習は良いのかしら」

……と、そういう時に限って今一番会いたくない人物に会う。会ってしまう。
遠坂凛――名前の友人であり、高校の時からの仲だ。まさか卒業後は海外留学をするなどと言っていたから、同じ大学に入学しているのも未だに信じられないでいる。

「珍しいわね。早退?」
「あぁ。体調が優れなくてな」
「あら、それこそ珍しい」

アンタからそんな言葉を聞くなんて、と、凛は本当に驚いているように言った。
そして、あの子も休んでるみたいなのよ、とも続けた。

「あの子?」
「名前に決まってるでしょ。なに、アーチャー。まさか知らなかったの?」
「私と彼女が連絡を絶っている事を、君は知らなかったのか?」
「知ってはいたけれど……」

そう言い淀んだ凛は、他に言いたい事があるようで、なかなかそれを口に出せないでいるようだ。

「私が言うのも何だけど、」

視線を巡らせながらも、言葉を選んでいる凛の姿は少し新鮮だ。
彼女は心を許している相手には何でも、言葉を選ばずに言うタイプなのだが……言葉を選んでいるという事は、私にも名前にも気を遣っているいるのだ。
こういう間は何とも言い難い緊張感がある。

「あの子の事を一番解ってやれるのはアンタだけなんだから。ちゃんとやりなさいよ」

言葉を選んだ結果、彼女の的を射ていない言葉は、俺の心をほぐさせるには充分だった。

「なっ、何よ! 笑わなくても良いじゃないの!!」
「い、いや、笑うつもりは、無かったのだが……すまない、く、くくっ」
「人が気を遣ってやったっていうのに…!」

昔は名前が凛をからかう事は多かった。
しかし、まぁ、こんなに楽しいものなのか、と思う。
話が脱線してしまったが、つまり凛は、よく話し合えと言いたいのだ。

「と、とりあえず! 一旦演劇部の人にでも聞いてみなさい。何か知ってると思うから」

彼女なりのお節介に礼を言い、俺自身何を言えばいいのか考えはまとまってはいないが、名前に対する情報を集める事にした。
更衣室で着替え、練習をしているであろう演劇部の方へと向かう。
何故か、足取りは軽かった。


(2013/12/10)