数学の公式って、何かの役に立つのかな。化学ってあたしの将来に必要なのかな。
ぐちぐち言ってると隣に居る変態保健医に頭を叩かれた。


同棲、九日目。



あたしは今、現在進行形でスペインの女性の如くスパルタな高杉先生から勉強を教えてもらっている。
原因なんて、そんなの思い出したくもないのだが、体育祭の優勝パーティーが終わって、全員が解散する時に銀八の言い放った言葉。

「お前ら二日後の中間テストも頑張れよー」

勉強を一切していない勢にとって、焼き肉をたらふく食べて幸せ気分を現実に引き戻し、尚且つ地獄に突き落とすには相応の言葉だった。
つか、テストの寸前に言う担任の天パも悪いと思うんだ。なんで一週間前に言わないんだ怠慢にも程があるだろう天パ。死ねよマジで死んでくれ。

「そこ、間違ってんぞ」
「……え、嘘!」
「誰が嘘つくかよバーカ」

今度は頭を小突かれた。今ので公式ぶっ飛びましたよ先生。あたしがこれ以上馬鹿になったら先生のせいだからな!

「おい、数学と化学の教科書貸せ」
「何するんですか?」
「お前が馬鹿になったら両親に顔向け出来ねェからな。仕方あるめー」

そう言ってあたしから教科書を奪った先生は範囲を確認して赤ペンで何か書きはじめた。
気になって見ようとしたら、見るなら英語の単語でも覚えとけ、と軽く睨まれてしまったので、静かに英語の単語帳とにらめっこを始める。
だが、すぐに暗記なんてできる訳無く、頭は働いてるんだけど体が諦めてパラパラとただページをめくるだけになっていた。

「……何してんだ」
「頭は単語を暗記しようとしてるんですけど体が反発してる行動」
「阿呆ぅ」

だって本当にそうなんだからしかたがない。なんてそう思ってると、頭が指令出すんだから体が拒否してるッつー事は脳みそも勉強したくねェに決まってんだろ、と先生談。脳内のあたしと会話を成し遂げたのだった。
毎日思ってるんだけど、先生はどうしてあたしの考えていることがわかるんだ。本当にエスパーかもしれない。

「ほら。これでちっとは頭に入りやすくなったろォが」

テーブルに置かれた教科書を開いて再度テスト範囲のページを見ていくと、例題には先生の字でいろいろとポイントや公式の覚え方が至る所に書かれていた。
解りにくい公式には先生流の別解が書いてあって、スッキリして解りやすい。助かります先生!

「これで上位に入らなかったら、」
「ちょっと待ってください。あたしみたいな馬鹿が上位に食い込むわけないじゃないですか! せめて100位以内に入るぐらいです」

そう言った瞬間、高杉先生が笑った気がした。
普通の笑みじゃなくて、あたしに対してからかう事を考えてる笑み、だと思う。……嫌な予感。

「なら100位以内だ。無理だったらオシオキだな」
「はい!? お、おしおき、って…具体的には、どういう……」
「いろいろ、だ」

先生は意味深な笑みを浮かべながら、風呂入ってくる、と言ってリビングを去って行く。
いろいろ……いろいろ……いろいろってナニ!?

「やばいよやばいよ……とりあえず山場の数学と化学を頭に入れて、英単語は寸前に暗記できるとこまで暗記して、……わからないとこは土方と総悟に聞こう。よし!」

きっと2Zで勉強が出来るであろうメンバーを適当にチョイスして時間を気にせずメールを送り、あたしは教科書に先生が書いたポイントや別解を凝視して無理矢理頭に入れ込む。一夜漬けの鉄板というやつだ。
国語はまだなんとかなるのだが、公式を覚えたりなどの暗記系統は、正直言って苦手である。理数系や社会に英語。もうほとんど暗記ばかりじゃないか。こんなものを勉強せてどうなると言うんだ、全く。あたしの将来に必要なのは、一とのコミュニケーションをする為の道徳や国語力だけで充分。
だって、日本人だし。留学生の神楽だって日本語喋ってるし。英語って必要あるの? あ、中学生の時に覚えた道案内は使う機会が一番多いと思ったから、未だに忘れてないんだけどね!
気付けばいつの間にかお風呂から出ていた先生は、リビングに来るなり冷蔵庫にある缶ビールを開けていた。

「まだやってんのか」
「おしおきなんて、嫌ですから」
「ククッ、そうかよ」

喉を鳴らして笑われ、ガキだな、なんて野次が飛んでくるけれど気にしない。あたしは負けません! 自分の貞操を護るために頑張ります!

「ま、せいぜい頑張るこったな、名前」
「頑張りますよ。やってやりますよ100位以内!」
「楽しみにしとく」

憎ったらしい笑みを浮かべたままビールを飲む先生は、既に自分の部屋と化している客間へと向かう。
時計を見ればもうすぐ深夜0時。あとの分は明日頑張るとして、あたしは教科書を閉じた。



覚えた公式が寝たら頭から消えてる、なんてこと、無いよね?
(2008/09/02)
(2019/09/01)