悪夢。  そう、これは悪夢だったのよ名前。
頑張ったのだから変えられようのない悪夢は、何をしても結局変えられない。


同棲、十日目。



テストが終わった。そして、午後のロングホームルームでその日のテストが返却てきた。後は順位表をもらうだけ。それが終わったら、今日は帰れる。
心なしか、皆そわそわしていた。そりゃあ返却が今日で終わり、明日は春の遠足なのだから皆がそわそわするのは当たり前なんだけれど、あたしは違う意味でそわそわしている。
とうとう待ち望んだ学年順位表が配られる。嗚呼、神様。あたしはもう無理ですきっと頑張って100番台前半だと思います。それでも快挙なのになんだあの保健医、あたしに変な期待すんなよチクショー。

「おめーら、いい加減席座れー」

安物のスリッパがペタペタと鳴って、我らが担任天然パーマネントがチャームポイントの銀八が教室に入ってきた。
手には配布物のプリントとか出席簿を持っていて、それを教卓に置いたのを合図に桂が号令を言う。
バラバラに立って、礼をして、着席するのを確認した銀八は、順位表配るから名前呼んだら取りに来い、だなんて言いやがったからあたし以外は早く帰りたいが為かそれを急かしはじめた。もう、無理。

「うるせーぞお前ら。急かしても遠足は逃げないから。先生も楽しみだから」
「お前がうるせーよ。早く配れや天パ」
「そうだそうだ! 私達これでも忙しいんだぞ!」
「神楽ちゃんキャサリンさん! お前らが1番やべぇから、全く訛ってねぇから!」
「……何言ってるアルか。新八のクセに生意気ヨ」
「……ソウデスネ! ダメガネノクセニ存在感アピールスンナヨナ!」
「なっ、なんで僕が虐められなきゃいけないわけ!?」
「新ちゃん、この世とはそういうものよ」
「さすがお妙さん。良いこと言いますな」
「…………死ねゴリラァァァ!!!!」
「ぶほ!!!」
「死ね土方ァァァァ!!!」
「てめっ、総悟ォォォ!!!」
「銀さん、…あ、間違えた銀八先生、ハァハァ……先生と生徒プレイって燃えるかしら、ハァハァ、」
「おい誰かー、このM女を窓から捨ててくれー」
「私を捨ててどうする気!? 飛び降りプレイ!? そうなの、そうなのね!!? そんなので私は満足しないわ!! さぁ、もっとよ! もっと私をけなして! もっと嬲ってェェ!!」

平和だ。あたしの心境の対極以上に平和じゃないか。Z組はテストの点数とかで内気になるほど弱くはない。弱くないけど、強すぎないかコノヤロー。来年が心配です。

「苗字名前ー」
「え、あ…はい!」

いつのまにか順位表の配布が始まっていたらしく、名前を呼ばれたあたしはさっきまでのもやもやした心境を吹っ飛ばして銀八から順位表を貰いに行った。終ったことは仕方がないし、卑猥な事以外ならなんでもしてやろう、うん。

「ほらよ、  頑張ったな」
「ん、さんきゅ」
「…次、屁怒呂」

銀八から順位表を貰って自分の席に戻ろうとした時、いつもは聞かないような言葉が聞こえたのであたした立ち止まった。なんて言った? あの天パ、なんて言った?

「ちょっと銀八! 今何て言った!?」
「今?…次、屁怒呂」
「違ェよその前!!」
「ほらよ、  頑張ったな」
「そうそれ!」
「これがどうかしたか?」
「アンタから労いの言葉なんか聞けるはずないじゃん!」
「それは言い過ぎだろコラ。銀さん泣いちゃうぞー」
「泣くなら勝手に泣け!」
「つか、知りたいならソレ、見てみろよ」

銀八はあたしの持ってる順位表を顎で示した。ウザイと感じながらもそれを我慢して順位表を見ると、各教科の点数と順位、そして学年順位が書かれてあった。数字は、……9が二つ。

「順位を100近く上げた奴に労いの言葉くらい普通かけるだろー」

きゅうが二つできゅうじゅうきゅう。二桁の数字。これは、夢……?

「…総悟、バズーカーであたしを撃って」
「何言ってんだィ?」
「良いよ、総悟が無理なら、土方に斬ってもらうから」
「せんせー! 名前のデータがぶっ飛びやしたーっ!!」
「何ィィ!!? よし、じゃあ先生が目覚めのチューを、」
「先生、お止めにならないと黒板にめり込むことになりますよ?」
「いやいやいや、ちょっ、待っ  

妙が銀八を黒板にめり込ませた音で正気に戻る。
とりあえず頬を抓ってからもう一度順位表を確認すると、やっぱり9が二つ並んでた。




「……チッ、…中々頑張ったじゃねェか」
「今チッて言いましたよね。舌打ちか。頑張ったのに舌打ちですかコラ」

夕飯時。作り終わったタイミングとほぼ同時に帰ってきた先生に玄関でバッと順位表を見せると、軽く舌打ちをされた。
今日の飯はなんだ? とすぐに切り替えてネクタイを緩めながらリビングへ向かう先生は、あたしへの労いの言葉はそこそこに、余程お腹が減っているのか夕飯の方が気になるらしい。
舌打ちの後だけど一応褒めてくれたみたいだし、なんとか平静を保ちながらお皿に盛ったオムライスをテーブルに置いた。

「オイ、なんだこりゃ」
「オムライスです。何か問題でも?」
「問題も何も、…ククッ」

いきなり笑い出した高杉先生に対して、この作戦は効かなかったかと残念に思ってしまう。
高杉先生のスプーンが、音を立てずにオムライスへと刺さった。


そこにはザマーミロと書かれたケチャップの文字。

(2008/09/05)
(2019/09/01 再編集)