さようなら、あたしの自由な時間! こんにちは、先生との二人暮し!
同棲、十三日目。
あたしを不幸に陥れる悪魔の差し金なのかなんなのか、大魔神 もとい、大魔王…もとい、高杉先生は翌日の早朝に帰ってきた。
ちょうど朝ご飯を作っていた時だったので食べるのかどうかを聞いてみたら、かなり疲れていたのか、いらねェ、と一言だけ言って部屋に戻って行く。
あたしが学校に行って、それから帰ってくるまでの間ずっと部屋で寝ていたらしい先生の起きてきた第一声が、だりィ…、だった。
夕飯を軽食にして、食べた後にとりあえず熱を計ってもらったら微熱。保健医が自分の体調管理をしっかりしないのもどうかと思うけど、一週間かかる出張での仕事をわずか数日で終わらせて夜行電車で帰ってくるという無謀な事をしたのだから、体調を崩すのも仕方ないか。
とりあえず先生のおでこに全く似合わない冷えピタを貼って休ませることにし、あたしも早々に自分の寝支度をして寝ることにした。
「あの、先生……?」
「なんだ、」
「退いていただきたいんですが」
「嫌だ」
「いや、嫌だ、って言われましても…」
朝起きて普通に朝食を食べていざ学校に行こうとしたあたしに、大魔神の手が延びてきた。気付けばあたしの視界は変わっていて、見えるのは天井とさっきまで客間で寝ていたハズの高杉先生の顔。
押し倒されている云々よりも、穏便に済ませたいと思い丁寧語でどいてほしいとお願いするものの、子供のような否定の言葉であたしのお願いは受理されなかった。つか、自分が冷静過ぎて怖い。
押し倒されたのがソファーの上だったので背中や頭は痛くないが、いかんせん、重い。
「先生は出張の分学校を休めますけど、あたしは学生なんでそうはいかないんです」
「行くな、」
「あたしに拒否権は無しなんですか、そうですか」
この状況を何とかしたい一心で先生を押し返そうと抵抗がありながらも頑張って先生の身体に触れると、かなり熱く感じた。まさか、と思い額ををくっつけてみる。…熱い。
「なんだァ? 誘ってんのか?」
……この人自分の身体の異常さに気付いてねェよ!! 本当に保健医ですか? ねぇ貴方本当に保健医ですか!?
「…先生、熱ありますよ。部屋で大人しく寝ていてください。あたしは学校行きますんで」
「行くな。それから熱なんてねーよ」
「いやあるから。身体熱いから。先生、今日はいうこと聞いてください。じゃないとあたしに風邪がうつる!!」
あたしの熱弁も意味なく、先生はニヤリ、と笑って顔を近づけてきた。いやいや、本気でヤバイって。こんな変態保健医に犯されるとか死んだ方がマシだって! 銀八でももう誰でも良いから誰か助け って、あれ?
「先生………?」
来るだろうと思った唇の感触は来ずに、あたしの体が上から重心が乗っかったように重くなったのできつく閉じていた目を開くと、先生がしんどそうに荒々しく呼吸をしながらあたしに体重をかけて寝ていた。
重い。そりゃ、先生も一人の大人なのだから、重いのは当たり前なのだけれど。
頑張って下敷き状態から抜け出し、先生を部屋まで運ぼうと努力はしてみたけどやっぱり無理だった。
仕方なくソファーに寝かせたまま先生の部屋から布団を持ってきて掛けてやる。それからあたしは銀八に連絡して、風邪っぽいから休む、と自分の事のように休む理由を伝えてから今日一日先生の看病をすることにしたのだった。
「昨日冷えピタを貼って寝かせたはずなのに、なんで熱上がってんだあの変態」
天下の冷えピタ様が効かないなんて事はあるめー。
少し不安を抱えながらも新しい冷えピタ様をおでこに貼って、同じ業者が作ってる氷枕を冷凍室から取り出して頭の下に敷いた。
よし、お粥作るか。
先生の分のお粥を作り終わり、暇な時間が到来したので自分の昼食兼夕飯の買い物に行くことにしたあたしは、地球に優しい買い物バックと食費用の財布を持って最寄りのスーパーに向かった。
スーパーに向かう道中もそうだったが、スーパーに着くと、尚更主婦の方々から注目を集めてしまった。
確かにこの時間に高校生のあたしが出歩いてるのもおかしいけど、一番の原因はガラス越しに映ったあたしの服装が制服を着たまま。そりゃあ、注目されるはずだ。
それでも気にせずに買い物を続けてレジにかごを持って行けば、店員から学校の事を聞かれる始末。テストです、と適当に答えて早々に会計を済まし、買い物バックに買った物を詰め込み逃げるようにスーパーから出て行ったあたしは、もうこんな時間にスーパーに行くまいと決めるのだった。
家に帰ると先生は起きていて、鼻をズビズビいわせながら自分でお椀に盛り付けたらしい、名前ちゃん特製お粥を食べていた。
あたしが帰ってきた事に気付くなり、どこに行ってた、と風邪をひいているのにも関わらず、大層な俺様っぷりをあたしに見せつけてくるので、こいつ仮病か何かかと考えてしまう。
「スーパー行ってたんです。先生が寝てる間に行こうと思って」
「…そうか」
「少し楽になりました?」
「ん、…多分な」
多分てなんだよ多分て。こちとらてめーのせいで学校休んでんだぞコラ。…なんてツッコミは心の中だけにしておく。
先生が食べ終わってまたソファーにごろん、と寝転がったので、片付けをしようとテーブル付近に来たら手を引っ張られて無理矢理ソファーの近くに座らされた。なんとなーくデジャヴな感じだけど気にしない、気にしたら負けだから気にしない。
「……」
「先生、自分が行動を起こしたのに、あたしに何してんだ的な視線を送るのは止めてください」
「…ククッ、そうだな」
よくわからないけど先生も無意識で行動したらしく、すぐに離してくれたけど、なんだか落ち着かないようだった。
えっと、これってもしかしてもしかするのかな?
病気の時は人が恋しくなるっていう事、だよね。
(2008/09/29)
(2019/09/01 再編集)