もう、誰かこの自己中心的な大魔王を何とかしてくださいマジで。
同居人に学校を休ませて、自分の熱が下がるまで面倒見させるとかありえないでしょうマジで。


同棲、十四日目。



結局、あたしは木曜まで学校を休み、久しぶりに晴れた金曜日、教室に入った途端クラスメート全員から身体は大丈夫なのかとか色々質問攻めにあった。妙にノートを借りて休み時間とか一生懸命写してたけど、やっぱり今日中ってのは無理だった。だから借りたのに、なのに  

「なんで夕方になったら雨降ってんだよチクショー!!」

あたしのシャウトが昇降口に響いた。日直だったあたしを置いて急いでるからって妙と神楽は先に帰ってしまったし、頼ろうとした土方達は部活だから時間かかるだろうし、はて、どうしたものだろう。
いつもは折り畳み傘を置いてるはずなのに、靴箱を何回見てもその存在は無くて。

「絶っっっ対大魔王のせいだ!」
「大魔王? 誰だそれ?」

相変わらずシャウトしていると聞かれていたようで、背後から話し掛けられた。
振り向けば、自称ペロペロキャンディーをペロペロし過ぎて煙を出しながらスーツと白衣をだらし無く着込んだ銀八が、死んだ魚のような目をしてこちらを見ている。

「銀八……言わなくてもわかるでしょ? 俺様変態保健医の事だよ」
「ああ、高杉か…」

納得した銀八はペロペロキャンディーの火を携帯灰皿で消して、傘無いのか? と訪ねてくる。大魔王のせいでありません、と答えてみたら、自業自得じゃん、なんて普通にあたしに非があることを言いやがった。
確かにね、確かにそうなんだけどさ、こんな日に日直をあたしにする担任の根性もどうかと思うわけ。あ、担任って銀八じゃん。

「俺、傘一本しかねーからな…」
「借りようとか、あたし考えてないから大丈夫だよ銀八。その傘をさして単車に乗って交通事故起こしてください」
「なぁ、それって俺に対する嫌がらせ? ねぇ、嫌がらせ?」
「気のせいですよ〜……多分」

銀八とやいやい言ってる内に雨がひどくなった、…気がする。
あたしは徒歩だから雨に濡れて帰ったら確実に風邪をひく、冗談無しに風邪ひく!
大人しく銀八から傘を借りるか、それとも鞄で雨を凌ぎながら走って帰るか……究極の二択を迫られている中、オーディエンスも居ないので誰かに最善の回答を聞くことも出来ない。

「……何してんだ」
「あ、高杉先生」
「げっ!」
「銀八、てめーは失礼にも程があんぞ」
「高杉先生の口から失礼なんて言葉が聞けるなんて…!」
「…名前、おめーは黙っとけ」

軽く睨まれて押し黙る。だって、高杉先生は怒ったらかなり怖いのです。表現出来ないくらい怖いのです。素直に黙るあたしは偉い!

「もう一度聞く、何してんだ」
「…別にー? 俺が名前に傘を貸そうがお前には関係ないだろ高杉」
「なるほどな」
「………あ、…あれ?」

高杉先生が何に怒っているのか解らないけど、銀八がどうやら墓穴を掘ったらしい、高杉先生の笑みが深まった、…気がする。

「行くぞ」
「…えっ、ちょ…ちょっと先生?」

ぼーっと二人の教師のやり取りを見ていると、いきなり手を引っ張られて雨が降る外に連れられた。
引っ張られながらも振り返ると、銀八は驚愕、という言葉が似合うような表情をしていて、逆になんでそんな顔してるのか聞きたいくらいだった。
そんな事を考えている内に職員専用駐車場に着いて、高杉先生が車のロックを解除した後、すぐに中に入れられ助手席に座らされてしまう。急ぎ足だったからか、それとも雨足が少し弱まっていたからか解らないけど、あたしはあんまり濡れてない代わりに先生の白衣が濡れまくっている。
あれ? ちょっと待て。先生、濡れすぎじゃね? あたしと比べて濡れすぎじゃね?

「ここで待ってろ」

それだけ言うと、高杉先生は濡れた白衣を後部座席に投げ入れ、また雨が降っている中、校舎へ駆けて行った。
改めて外を窓越しに見ると、豪雨ではないものの強めの雨が降っていてまた風邪をひくんではないかと思ってしまうくらいだ。

「あ、れ…?」

その中を早歩きで職員専用駐車場まで来たのにあたしはあんまり濡れてなくて、先生は白衣を通り越して中のシャツやズボンまでも濡れていた。……ふと不思議に思って後部座席に投げ入れられた白衣をまじまじと見てみる。

「…まさかあたしの知らない内に雨から庇ってくれてた?」

そう口に出してすぐ頭を左右に振った。あの自分中心何様俺様変態保健医様が自分を犠牲にしてまであたしを雨から庇う必要なんてないし、いや、その前に車の、しかも助手席に乗せるとかも考えられないし。それに、親戚の娘だから庇ったかもしれないじゃないか。
何を自惚れようとしているんだ。血縁関係がないとはいえ、一応親戚だ。加えて、つい最近まであたしに看病されていたわけだから、尚更風邪をひかせたりはしたくないはず。腐っても保健医なんだがら、きっと、そうなのだ。


「そうだ、…それが一番有力じゃん!」
「何が有力なんだよ、」
「ぎゃわ!!」

いつの間にか運転席に入ってきた高杉先生の声にビックリしてしまい、変な声を出してしまった。
なんつー声だしてんだ、と軽く笑って、車を発進させる。チラ見してみると、先生はさっきよりも濡れていた。




水も滴るいい男ってやつですか。

(2008/10/16)
(2019/09/01 再編集)