六月も半ばに差し掛かった今日。配られたプリントを見たあたしは絶叫した。


同棲、十五日目。



「うるさいぞ、名前ー」
「名前、どうしたアルか?」
「……三者面談って……何、」
「あら、一年の時もやったじゃない。忘れちゃったの?」

忘れたわけじゃないんだよ、妙。ただこの時期  というか、今あたしの保護者的存在はあの変態保健医だからどうすれば良いかっていうことでして…!

「ちゃんと親御さんに渡せよー。はい、じゃあ解散!」

あたしが一人考えてる間にショートホームルームは終わっていて、教室には掃除当番の風紀委員の面々が残って掃除を始めていた。
憂鬱な雨は、六月半ばになってもあたしを憂鬱にさせるみたいだ。

「はぁ〜…」
「名前、大丈夫ですかィ?」
「あ、総悟…」

帰る用意を済ませてため息を吐くと、近くを箒で掃いていたらしい総悟が話しかけてくれた。
大丈夫じゃない旨を伝えてみたら案外、いつもみたいに茶化さないで聞いてくれた事にビックリだ。

「そういや、高杉……先生が名前ん家にはいやしたねィ」
「そうなんだよね…」

遠足の時に妙達がバラしたらしいあたしの変態同居人の事は、もうクラス中が知っていた。
このクラスにはあの変態保健医のファンなんていないし、ましてやファンになるどころか嫌ってる人が多いので特にあたしも焦らずに居れるわけだけど、時たま他の女子生徒に皆が教えようとか考えてそうで怖かったりする。特に、現在進行形で相談に乗ってくれている総悟なんて、それをネタに脅してきそうで怖い怖い。

「ひどいや名前。俺は土方コノヤローにしかそんな事しやせんぜィ?」
「俺はそれはそれで悪いと思うぞ、総悟」
「げっ」

掃除をサボってあたしと話していたんだ、そりゃあ土方に何か言われるのは明白で。
総悟に掃除を促す事もしなかったあたしも悪かったわけだし、今日は何も予定がないので掃除を手伝うことにした。
そしていつの間にか掃除を放って逃走した総悟や妙に殴られに行ったゴリラなどなどに怒りを覚えながら箒を片付けると、土方がバツが悪そうに謝ってくる。

「土方が謝ることないじゃん。悪いのはゴリラと総悟達なんだからさ」
「ん、…そうだな」

あたしが弁解してもまだ少し悪く思っているのか、土方は苦笑している。あれ? あたし、土方と二人でこんなに喋ったのって、初めてかもしれない。いつもは総悟がいたりしてるから気にしてなかったけど、土方って意外と礼儀正しかったんだ。
うわっ、あんまり周りに居ないタイプ!

「悪ィ、やっぱ、途中まで送る」
「いいよ、別に! だって、総悟と話してたあたしも悪いし…」
「いや、送らせてくれ」
「でもまだ夕方だし  

瞬間、雷が鳴った。校舎の近くで光ったらしく、白い光が瞬く。雷が苦手過ぎて苦手過ぎて笑われるくらい苦手なあたしは、悲鳴をあげて、あろうことか側に居た土方に、抱きついてしまったのだ。
すぐに我に返って離れようとすれば、ポン、とあたしを落ち着かせようと頭に手を置いてきた土方。

「送った方が良いだろ?」

と、はにかんだ笑みで言ってくれた。あたしは雷ごときに怖がっている自分に内心で叱咤しながらも、それをお願いするのだった。

「土方…」
「ん?」
「……ありがと、」
「こっちこそ、苗字には総悟が迷惑かけてるみてーだからな、」
「でも、あたしは総悟含め、皆と喋ってて楽しいから、迷惑かかってる気はしてないかも」
「そうか…」

今更だけど、あたしと土方はお互い苗字呼びだということに気がついた。
大して意味は無いんだけど、Z組の中であだ名、または名前で呼び合ってないという状態は、なんか、寂しかったりする。

「ねぇ、土方」
「なんだ?」
「あのさ…トシ、って、呼んでも良い?」
「…は?」
「いや、あの、あたしってZ組の皆の事をあだ名とか名前で呼んでるからさ、土方だけ苗字ってのも、…なんかおかしいかな、と思って…」
「なんだ、そんなことかよ…」

いきなりうなだれる土方。すると、今度はいきなり笑い出した。
ごめん、意味がわかんないよ。つか、土方ってこんなキャラ?

「別に良いぜ、トシでも」
「ほんと? 良かった。なら、あたしのことは名前だね」
「いや、苗字のままじゃダメなのか?」
「ダメ! なんか面白くないし!」
「なんだよそれ」

あ、また笑った。土方  トシはおもいっきり笑うことなんて少ないから珍しい。笑ったら、こんな表情になるんだ。
まじまじと顔を見ていたもんだから、顔になんか付いてるか? と聞かれてしまう。
笑っている表情を見ていた、とかあたしが言えるはずもなく、あたしは頭を左右に振って違う話題を探そうと唸り始めれば、またまたトシは笑った。

「お前、本当に百面相で、見てて飽きないな」
「それ、良く言われるんだけど、あたしそんなに見てて飽きない?」
「あぁ、いつも飽きない」
「いつもって、なんかトシは毎日あたしを見てるみたいじゃん」
「え、あ…そうだな、……あ、そうだ、名前」
「なに?」
「テスト勉強捗ってるか?」
「……………はい?」

いま、トシはなんて言った? てすとべんきょうはかどってるか?……テストって、もうすぐだったっけ?

「プールの授業に入る前に期末を終わらせるのが銀高だろ?」
「去年も、そうだったっけ…?」
「バッチリ」
「マジでか」
「まぁ、今日、名前を送ることが出来ンのも、テスト前で部活が休みってのがあるからな…」
「あ、そっか。総悟が朝そんな事を言ってたような気がする……やっべ! 全く勉強してないし範囲とか全くわかんないんですけど…!」

授業は聞くだけ聞いて、ノートは板書するだけして、後は寝るだけがモットーであるあたしにとって、期末テストがこの時期にあるなんて興味も無いし記憶に残しておく大事な事でもなかった。
いや、大事なのだけれど、なんでこの高校の教師たちはテストに関して何も予告してくれないのか。……違うか、あたしが聞いていなかっただけか。

「……なんなら、俺ん家来る?」
「え…?」
「変な意味とかじゃなく、他のテスト危なそうな奴らとか呼んで、勉強会みたいな。俺ん家広いし」
「まじっすか! トシ最高! ありがと! 早速明日、妙とかにも聞いてみるね!」
「じゃあ、今週の土曜か日曜ってのはどうだ? まだ日にちあるし、予定とか決まってない奴多そうだし」
「そうだね!……あ、あたしこっちだ」
「逆か……家まで送る」
「それならトシが遠くなるっ。もう雷とか鳴らなさそうだし、すぐだから大丈夫っ」
「そうか…?」
「うん! じゃあ、また明日ね!」

不安そうに佇むトシに笑顔で手を振り、あたしはあたしの帰路を歩く。
途中から雨は弱まって来て、家に着くと止んでいた。
今日はトシと予想以上に喋れたし、今回のテストも良い点数取れそうだし、良かった!



あれ? あたし何か忘れてない?

(2008/10/20)
(2019/09/01 再編集)