夏休みが始まったからって気が抜けないのが学生というもの。
家事したり、洗濯に掃除、それから……って、あれ? あたし主婦業しかしてなくない?


同棲、十八日目。



夏休みが始まって一週間。お昼ご飯であるカップ麺を啜りながら日頃見れない昼ドラを見てて、ふと何かがおかしいことに気がついた。
運動部の練習があるとかで保健室を開けておかないといけない高杉先生は学校に行っていて家に居ない今、高校生らしくオシャレして出掛けたりするべきなのにどうしてあたしは主婦業をして満足してるんだ、なんて、今更だと思ってしまうあたしの思考回路よ元に戻れ!
食べ終わったカップ麺の器を捨てて、とりあえず部屋に行き夏の日差しに当てた乾したての布団にダイブする。ふと思い立って携帯を探すが中々見つからなくて、気付いたらまたリビングに戻っていた。

「いやだから、そうじゃなくて!!」

自分の行動に自分でツッコミしてしまい、逆に虚しくなる。シーンとした静寂の中、一つの名案が浮かんできた。

「これは、高杉先生の秘密を握るチャンスかも…?」

要するに、あたしが長期休みなのに主婦業に専念してしまうのは全部高杉先生のせいであり、あたしが命令される立場なのはあっちの方が地位が少し上だからだ。
それをひっくり返し、それもかなりイメージが変わる秘密を見つけ、あの少し抜けてる両親にそれを言ってしまえば、あたしがあの短かった一人暮らしがまたできる…っていう寸法でさァ。あれ? なんかあたし総悟になっちゃった。

「善は急げ!」

善なのかどうかは解らないけれど、とりあえずいつ帰ってくるかわからない先生なので掃除機やらを持っていかにも掃除してました、みたいな雰囲気を醸し出しつつ先生の部屋になっている客間へ忍び込んだ。
相変わらず質素だけど、余計な物が無くて意外と落ち着く部屋。本棚が大きくて、医学の本やら題名を見るだけでは何の本か判らないのもある中、あたしは一番下の段にあるアルバムを見つけて取り出した。

「こんなのとっておく筈無いと思ってた…」

アルバムは小学校、中学校、高校、大学の卒業アルバムだった。ひとつひとつ見ていくことにする。

「あ、銀八」

県立と書かれた小学校のアルバムでは銀八とのツーショットがかなりあった。ツーショットと言うよりかは近づいてはないけど、一緒に居ることが多かったみたい。クラスも同じだし。

「…収穫無し、か。次行ってみよう」

またもや県立と書かれた中学校のアルバムを取り出す。中を見ると、やっぱり銀八がいた。高杉先生は予想通り部活はしてなかったみたいで、部活動のどこにも写真はない。……部活動は疎か、他の学校行事にも出てないじゃん、写真が全くないじゃん。唯一いるのはクラスの集合写真ってどうなんだ。
銀八なんかまだ目が煌めいてるしなんか今とギャップあり過ぎてキモイ。あ、卒業式も修学旅行も出てないんだ…。

「全く無いじゃん。次!」

次は都立銀魂高校……って、先生は銀校の卒業生だったんだ。しかも地方からの上京ってやっぱりどうなんだ。
銀魂高校はただの公立なので、家族と引っ越してきたという事なのだろうが…。まさか、約十年前の大先輩なんて想像もしてなかった。しかも銀八やっぱりいるし、ストーカーかなんかと勘違いしてしまったけど、想像したら気持ち悪いので止めた。
んでもって、今度は全く先生の姿はない。クラス写真の休んでる人がよく写る右上とかのスペースにも顔が無いから、休んだんだろうと思う、それかサボっていたかのどっちかだ。
アルバムを見ていく内に、段々と銀八の目が小学校の時よりも死んだ魚のような目になっていくのが分かった。……次行こう、次。

「あ、次は空知大学だ」

特に驚くこともないだろうと適当にページをめくる。どうせ写ってなさそうだし、ストーカーだったはずの銀八の姿はアルバム内に一切無く、多分空知大学ではなく銀魂大学へと入学したんだろうと想像出来るし、第一、飽きた。
つまり、もう面倒臭くなったのでパラパラとめくった後に本当に掃除して夕飯を作ろうかと頭が働いたのだ。

「そして特に先生が写っている写真も無い、と  ……ん?」

ふと目についたページ。そこにはちゃんと印刷されている写真じゃなくて、大事そうに保護フィルムに入ってただ挟んだままの写真があった。
裏返しになっていたので恐る恐る表を向けると、長髪の教授と思われる人と高杉先生、そして、女の人が写っていた。女の人の隣にいる高杉先生は、あたしは勿論、他の人には見せないような笑顔で笑ってる。珍しいオフショット。あたしはそれを、無意識にエプロンのポケットに入れてしまった。

「おい、」
「…!!?」
「人の部屋で何してんだ」
「あ、お帰りなさい…」

声がして、振り向いて見れば部屋の主人が開きっぱなしのドアに寄り掛かりながら立っていた。
やばい、なんて焦ることもせず、アルバムを片付けながらも、掃除をしていただけです、と元から用意していた言い訳をした。
高杉先生は、いつものように喉で笑っている。

「そうかよ」
「そうです」
「信じられねぇな」
「信じるも信じないも勝手にどうぞ。あたしは今から夕飯の支度をするんで」

アルバムを違和感無く元あった場所に収納し、部屋のごみ箱と掃除機を持ってリビングに移動する。
すれ違い様に呼び止められて、微かに心臓が跳ねた。

「名前ちゃんよォ、大方、俺の秘密かなんかを探してたんだろうが失敗だったなァ。ンなもんここには無ェよ」
「…ンなもん探す暇があったら、あたし他の主婦業してますので」

今度は苦し紛れの言い訳。先生が喉で笑ったのを合図に、あたしはリビングへ繋がる扉を閉めた。

「こ、怖かった…」

急いで掃除機を片付け、ゴミ処理をしたりして夕飯の準備に取り掛かる。
こんなに早く帰ってくるとは思わなかった、などと愚痴をこぼしながら時計を見るとまだ17時過ぎ。夕飯を作るのにはちょうど良い時間なのだが、早く帰ってくるなら携帯にでも連絡ぐらいしてほしい。…って、あたしの携帯今行方不明なんだった。

「はぁ…」

ため息を漏らして切った野菜を鍋に入れ、肉を入れて煮込みながらアクを取る。
付けたままのテレビからシチューのCMが流れて、カレーの予定だった夕飯をシチューに変更したのはそういう気分だったから仕方が無い。


今は誰かに指図をされたい気分。

(2008/11/10)
(2019/09/01 再編集)