昨日の花火以降の自分の行動をよく覚えてない。
いつ部屋に戻って、いつベッドで寝たのかも記憶にない。
ついでに、朝の勉強時間にトシに教えてもらった公式も頭に入ってなくて、気がつけばあたしは銀八の運転するワゴン車に、銀八と二人だけで乗っていた。
同棲、二十二日目。
「……で、俺に聞きたいことって? スリーサイズとか夜の営みの趣向とか以外ならなんでも答えるぞ」
「そんな情報いらねーよ」
つい辛口になってしまった。
銀八にまず朝からの出来事を聞いていると、あたしは自ら銀八に聞きたい事があると言ってワゴンに二人っきりにしてもらったことを思い出す。
高杉先生は早々と妙達を送りに車を走らせたらしい、あの小さいワゴン車にどうやって全員押し込んだのかわからないけれど、とりあえずゴリラはトランクの中だろうな絶対。
「……あれか? 高杉か?」
「…、わかる?」
「なんでも楽観的な名前ちゃんが悩むなんて、あいつの事ぐらいだろ?」
確かにそうなんだけど、なんでも楽観的というのは侮辱表現として受け取ったから銀八の頭をぶったたいてやった。
「これ、…」
「ん?…写真、か」
「先生の部屋、掃除してたら、見つけた」
「なにその喋り方! なんか可愛いんですけど!」
なんか気持ち悪い銀八の頭をまた叩き話を促すと、冗談だって、と笑いながら、あたしが差し出した写真を銀八は受け取った。
銀八が何も知らなかったら、あたしはこの写真をこっそりアルバムの中に直そうと思っている。どうしてあたしが高杉先生の事をムキになって調べてるのか、自分自身の本心が判らないなら忘れちゃった方が良いと思うし。
何も言わない銀八を盗み見ると、車を信号で停めて写真を見たまま動いていなかった。
「銀八…?」
視線や思考は写真から動かないものの安全運転を心掛けている銀八を不思議に思って声をかけると、ハッとして低い声であたしに聞いてきた。
「……どこでこれを手に入れた?」
「えっ、だから、高杉先生の部屋で…」
「名前、…この写真の事は忘れろ」
「……なんで、?」
「なんででもだ。高杉には何も言わないでおくから、その写真は捨てろ。そして、忘れろ」
銀八の雰囲気が変わったのがすぐに感じれた。
お気楽な銀八じゃなくて、教師の銀八でもなくて、ただの銀八。
なぜか怖くなったあたしは、返された写真をいつの間にか強く握りしめていた。
「着いたぞー」
遠くから声が聞こえる。
うっすらと目を開けると、辺りは暗くて、抱き抱えられてるような温かさが布越しに感じた。
それが気持ち良くてまた瞼を閉じれば、このまま俺ん家に直行か自分の家で安心して休むかどっちが良い? と聞かれ、意識が一気に覚醒する。
「ぎゃああああ!! 銀八ィィイ!!?」
「……ちっ」
気づくと銀八におんぶされていたあたしは、すぐに舌打ちをした本人の頭を叩いた。
目の前にはあたしの家。車で来たならあるはずのワゴンが近くに無いことから、銀八はずっとあたしをおぶさって来たんだろう。
なんか恥ずかしいんですけど!
「ほら、お前の鞄。キャリーは高杉が持って帰ってんだろ?」
「…ありがと」
いつから寝ていたんだろう、それが思い出せなくて、しかもずっとおんぶされてた事とか寝顔見られたこととか色々混ざった結果とてつもなく恥ずかしくなったからいつものようにちゃんとお礼が言えない。
いつからあたしはこんなキャラになったんだ苗字名前!!
「高杉が心配してるだろ、早く中入って風呂入って寝るんだぞー」
「……銀八、」
「なんだ?」
「…ううん、なんでもない」
「そうか?……じゃーな」
銀八はあれから最後まで、写真の事を何も言わなかった。だからあたしが聞き忘れたんじゃないかと思って尋ねようとした。
でも、銀八の滅多に聞けない低音の声と車内の張り詰めたような空気を思い出してしまい、聞くのを止める。
聞いたという確信が得れたのは、鞄の中にしまってあった少しくしゃっとなった写真があったからなのかもしれない。
「……ただいま、」
「遅かったな」
家に帰ると、会いたくない人が出迎えてくれた。
(2008/12/11)
(2019/09/01 再編集)