長かった夏休みはあっという間に終わる。ただ一つ、この期間中に終わらないのは夏休みの宿題だけだ。
同棲、二十四日目。
「あたしさー、夏休みもさー、どっかの誰かさんのために一生懸命だったんだよ? なのにさ、宿題とかひどくね? プラスアルファで課題とかもひどくね? 全体的にやばくね?」
「良いから手を動かしなさい名前」
「つかさー、宿題出さなかったくらいで留年にはならないと思うんだよね。課題は出さなきゃやばそうだけど」
「そう思うなら手を動かしなさい名前」
「あー…金さえ出せば宿題を代わりにやってくれる職業とかないだろうか」
「俺がその職業の第一人者でさァ」
「私は酢昆布一年分出してくれたらやるアル!」
「あるわけないよね、そんなのあったらその人無駄に金持ちになっちゃうもんね」
「名前、とりあえず解る問題からやった方が良いんじゃねェか?」
「あーっ神様ァー!! あたしに宿題をやる気力を与えてくださいィィ!!」
「良いから手ェ動かせッつってんだろうがよォォオ!!」
「ぶべら!! え、俺!? なんで俺なわけ!!?」
「必殺! ゴリラバリアー!!」
「ちょっと待ってェェ!! 誰の許可得てその技あみ出したの!?」
「……ゴリラ?」
「ゴリラって俺の事だよね!? 俺、許可した覚えないんだけど!!?」
「前置きの会話が長ェんだよさっさと本編始めやがれ!!!」
「ゴリラバリアーッ!!」
「うごっ!!!」
意味を成さなくなったゴリラを床に放置して、あたしはシャーペンをくるくる回しだす。
後もう少しでお盆休みだという頃、あたしと妙、神楽に総悟にゴリラは、トシの家にお邪魔して夏休みの宿題をやっつけていた。
妙やトシは合宿の時にもう大半の宿題を終わらしているらしく、手元にあるのは英語と漢字だけ。総悟は数学の答えを丸写ししながら赤ペンで丸をつけていっている。全門正解だと怪しがられるのが普通なんだけど、総悟の場合は毎回高得点だから不審がられない。
神楽もあたしと同じように欠科課題があるにも関わらず、妙に教えてもらいながら着々と終わらせていく。……あれ? 何もやってないのって、あたしと屍になったゴリラだけ?
「……トシ、教えてもらっても、良い?」
「ん、…どこがわからないんだ?」
「…全部、って言ったら、怒る……?」
「怒るっつーより、……すまん、呆れた」
「だよね? あたし自身も自分に呆れてるから大丈――」
「大丈夫じゃないでしょう? 名前、本当に留年しちゃうわよ」
「ううっ!…わかってるよ……わかっちゃいるんだけど、」
「問題自体解らないから仕方ない、か。名前らしいな」
「トシまであたしの台詞に被らないでー」
「まずは数学からだ」
「無視ですか」
「合宿ん時にちょっとやってたからある程度出来てるじゃねーか。この辺はこの公式の応用で、sinイコール……」
「ちょっと待って! さ、さいんって、何だっけ?」
「sin、cos、tan…ってやっただろ?」
「さいん、こさいん、たんじぇんと…?」
「完璧に忘れてるか…図を書くとな、」
プリントの端の方にトシが三角形を書いていく。各それぞれの辺にabcをふっていき、
sinは、ここ。つまりa分のc……といった風に説明していってくれた。これで解りやすくなった!
「これが基本。つか、前の方見てみろよ。お前解けてるから」
「……あ、ホントだ」
「名前はやりゃあ出来んだから自信持てよな」
「うん、ありがと、トシ」
トシにお礼を言った瞬間、はっとした。ゴリラを抜いた三人がニヤニヤと笑いながらこっちを見ていて、あたしは少し顔に熱を感じてしまう。
チラ、っとトシの方を見るといじられるのは流石に慣れているからか、適当にあしらっていた。
「なんで名前は土方くんの事フッたの? 学校ではZ組なのに人気なのよ?」
「そうアル!」
「いや、あの、Z組なのにって失礼じゃない?」
トシの家からの帰り、妙と神楽と寄り道してクレープを食べる
。なんでフッたかなんて答えれるはずも無く、あたしが無心でクレープにかぶりついてると、いきなり、あっ、と妙が声を上げて立ち上がった。
「な、何…?」
「名前、明日のアリバイなら任せてくれて構わないからどこかに逃亡しなさい」
「な、ななななんで…?」
「明日って、なんかあったアルか?」
「八月十日! 明日は十日なのよ!?」
十日って何かあったっけ? 頭をフル回転するが該当する行事は思い当たらない。
神楽と一緒に妙に何かあったかを尋ねると、妙は溜め息混じりに答えた。
「明日は、高杉先生の誕生日なのよ」
なんでお妙さん、そんな事知ってんの?
(2009/01/05)
(2019/09/01 再編集)