銀八に例の喫茶店の事を話したらかなり興味を持ったらしく、週末に執事役数人とメイド役数人で神威さんのいる喫茶店へと情報収集しに赴く事となった。


同棲、三十日目。



放課後。ぞろぞろと銀八を筆頭に歩いて喫茶店に向かう。
学校に近いこともあって、執事役のトシ達は自転車を駐輪場に置いたままのようで、こんなに大人数で歩くのは久し振りだ。
神威さんには前以て学校帰りに立ち寄って今日の事を伝えてあるので、喫茶店はその時間だけ貸し切り状態にしてくれているそうだ。
神威さんは勿論、バティシエの阿伏兎さんも少し照れながら今日の訪問を楽しみにしているようだった。

「名前、この喫茶店?」

先頭で嫌がる銀八に寄り添いながら歩いていたさっちゃんが聞いてきたので頷いた。
先に入るように銀八に言われて中に入ると、神威さんが笑顔出迎えてくれる。
合図を出し、喫茶店に銀八御一行を招き入れる。神威さんは綺麗な一礼をした。

「本日はお越しいただいてありがとうございます。店長の神威です」
「えーっと、…銀魂高校の国語担当してます坂田銀八です。お招き頂き、」
「銀八、堅っ苦しい挨拶は抜きにしてさ、早く座ったら? 普段そんな言葉遣いしてないから疲れるよ?」
「こら名前! 本当の事を言うな!」

だって他の皆は座ってメニュー見てるし、銀八気持ち悪いんだもん。なんて理由は口に出さないけど、気持ち悪い、は言っておいた。
神威さんが笑う。あたしもつられて笑った。空いてる席に座るとトシの隣で、向かいには退と総悟が座っていた。ヅラとエリザベスは二人で四人掛けを占領しているし、さっちゃんは銀八の隣に座る為にカウンター席に居る。阿音と百音は家の神社の手伝いがあるから来れなかったけれど、来なくて良かったかもしれない。と、つくづく思ってしまった。

「……名前ちゃんは、いつものケーキセットで良いんだよね?」
「あっ、はい、お願いします」

いつの間にかオーダーを聞きに来ていた神威さんの笑顔に癒された。あとはケーキセットが届くのを待つだけだ。
この間利用してから一人で来店しているせいか、こんなに大人数で喫茶店に来るなんて思ってもみなかった。それが理由だからなのかは解らないけれど、ケーキも紅茶も美味しかった。



「……っというわけで、夕飯を作り忘れてしまいました」

さっきから正座しているせいで膝がとてつもなく痛い。
フローリングが冷たくて、ひんやりしていて、足の痺れを増大してるような気がした。

  で?」
「いや、あの、で? って言われましても説明は以上で終わり、です」

目の前には苛立ちを募らせながら仁王立ちで腕組みをして立っている高杉先生が居る。
怖い。久しぶり過ぎて、ますます怖い。最近怒られることがめっきり減っていたから、あたし自身安心していたのかもしれない。とりあえず、誰か助けてください。

「今何時だと思ってんだ?」
「えっと、20時過ぎ、です……」
「門限は?」
「18時、です……」
「二度と破るんじゃねぇぞ」
「! はいっ…!!」

案外お叱りタイムが早く終わったことに驚く。
後一時間は正座で居なくちゃいけないんだろうなと思っていたから、嬉しいと言えば嬉しいんだけど、まだ何かありそうで怖かった。

「……せ、先生…」
「なんだ?」
「あたし、他に何かしましたか……?」
「した覚えがあんのか」
「全くない、ですけど…」
「なら何もしてないんだろ」

でも、見る限り高杉先生の苛立ちは募って行くばかりなので、もう一度、記憶を色々と検索してみるが皆目検討がつかない。
とりあえず何か軽いものを作ろうとキッチンへ向かえば、インターホンが鳴った。こんな夜中に誰が来たんだろう。そう思って受話器を取って画面を見る。
あたしの知らない、サングラスを掛けてヘッドホンをつけた男の人が立っていた。

「晋助君がこちらに居ると聞いたんですが…」

受話器越しにと言われたので、先生の知り合いなら開けなきゃいけないだろうと判断して解除ボタンを押す。
瞬間、受話器があたしの意思関係なく元あった場所に戻された。見ると、あたしの手の上に重なってる高杉先生の大きな手がある。……なんだこれ。

「……お前、開けたのか?」
「え、あ、はい。先生の知り合いじゃあないんですか?」

あたしが聞くのと同時にチャイムの音がリビングに響く。手を振り払って向かおうとするが、腕を掴まれてしまう。
どうかしたかを聞けば、出るな、の一言で一蹴されてしまった。

「でも、先生の知り合いなんでしょ?」
「過去に知り合ったがこれからは会いたくない奴だ」
「なんすかそれ。わけわかんないんですけど」
「……俺が行く。お前は座っとけ」

先生はあたしを無理矢理ソファーに座らせ、重い足どりで玄関に向かって行く。
ガチャ、と玄関のドアを開ける音が微かに聞こえてきた。何か口論のような声も聞こえる。しばらくして、あたしのいるリビングに向かって歩く足音が聞こえ、誰が来たのかを聞くためにあたしはソファーから立ち上がった。
廊下とリビングを隔てているドアを開けたのは、高杉先生ではなく、インターホンの画面越しに見たサングラスを掛けてヘッドホンをつけた、あの男の人だった。
その人は、あたしを見るなり頭を優しく撫でてくる。突然見ず知らずの男性に頭を撫でられたあたしは、何が何だか理解できなくて、高杉先生の怒声を遠巻きに聴きながらただ突っ立っているだけだった。



えっと……どちら様ですか?

(2009/04/21)
(2019/09/01 再編集)